スイス代表団、エネルギー分野で日本視察
スイスの連邦エネルギー省エネルギー局は6月中旬、日本とエネルギー分野での協力関係を強化するため、産官学の代表から成る視察団を日本へ派遣。日本とスイスの企業・大学の連携強化を目的に、各省庁や研究機関などを訪問した。
視察団には連邦エネルギー省エネルギー局(BFE/OFEN)の代表のほか、ヴォー州の州議会議員や連邦工科大学ローザンヌ校(ETHL/EPFL)とチューリヒ校(ETHZ/EPFZ)、連邦技術革新委員会(KTI/CTI)、今年3月に東京エレクトロンに買収されたエリコン・ソーラー(Oerlikon Solar)などの企業が参加した。
同行したエネルギー局のコンラディン・ラジ氏は、今回の視察の目的をこう語る。「日本とスイスは福島原発事故後、新しいエネルギー政策を模索し始めた。エネルギー分野では似たような状況にある両国が共に議論し、協力することはメリットがあるかもしれない。そのためにはまず、お互いの状況を話し合い、情報を得ることが必要だった」
東京電力を訪問
視察団は3日間の滞在中、環境省や経済産業省、外務省などの関係者と会談。つくば市にある独立行政法人の物質・材料研究機構(NIMS)や産業技術総合研究所(AIST)を訪問し、エネルギー分野での日本の最先端技術を視察した。
視察団はまた、東京にある東電のコントロールセンターも見学。震災後、どのように関東一円に電力が供給されているのかについて、東電の従業員から説明を受けた。「例えば、津波で部分的に破壊された電力供給網が、たった数日後に、ある程度機能できるまでに修復されたことは、非常に興味深かった。スイスは、大震災を経験した日本から学ぶところが多い」とラジ氏は言う。
また、視察団の一人で、連邦技術革新委員会のアンドレアス・ロイター氏も、この東電の訪問は特に印象深かったと語る。「現在の電力供給状況を、とてもオープンに、わかりやすく紹介してくれた。また、大都市東京に電力を毎日供給する上で、どんな課題があるのか、電力消費が増える夏に電力供給をどう確保するのか、知ることができた。非常に勉強になった」
ロイター氏はまた、「原発を減らしていく上で、日本とスイスには共通の課題が多くあることが今回の訪問で分かった」と話す。だが、福島原発事故を抱える日本は、早急に新しい状況に対応しなければならず、スイスよりも断然厳しい立場にあると指摘する。
クリーンテック市場参入へ
今回の日本訪問に際し、東京のスイス・ビジネス・ハブでは「スイス・エナジー・イブニング」と称されたセミナーが催された。日本側の関心も大きく、エネルギー効率に関心の高い様々な日本企業・機関が参加し、情報交換が行われた。「スイスに進出したい日本企業があるのと同時に、日本市場に進出したいスイス企業も多く存在する」とロイター氏は言う。
実際、7月から再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度が始まるなど、日本では新エネルギーや省エネ技術への需要が増加しつつあり、こうした分野に強いスイスの企業は、日本市場に目を向け始めている。スイス貿易振興会(OSEC)によれば、特に建物の壁や屋根に使う断熱材や断熱窓などの省エネ分野で、スイス企業に商機があるという。
ロイター氏は「日本の隙間市場に参入できるような小企業がスイスには多くある」と話し、例えばスイスのある新興企業が開発中のハイブリッドの路面清掃車などは日本人の興味を引くのではないかと語る。
しかし、今回の日本訪問ではこうしたエネルギー関連ビジネスを促進するような協定や覚書が交わされることはなかった。エネルギー局のラジ氏は言う。「今回の訪問は特定の協定を結ぶために行われたものではない。あくまでも情報交換が目的だ」
日本-スイス間シンポジウム
協定や覚書こそなかったものの、日本の文部科学省とスイスの連邦技術革新委員会との間では、ある合意が結ばれた。最先端技術や新興企業が集う日本-スイス間シンポジウムを、2013年にスイスで初めて開催するというものだ。
科学技術とイノベーションをテーマにしたこのイベントには、日本とスイスの大学・企業のほか、日本の各省の代表も参加する見通し。また、高機能部材産業を京都とその周辺に集積させることを目的とした「京都環境ナノクラスター」や、山形や長野の地域イノベーション戦略推進地域も参加予定だ。
スイスはまた、2013年に日本で開かれる「産学官連携推進会議-イノベーション・ジャパン」にも参加する方向で調整に入った。このイベントは、技術開発を行う大学や企業と、新技術の実用化を支援したい企業が出会う場となっており、東京で毎年開催されている。
ロイター氏は言う。「この日本でのイベントは、スイスの大学発スピンオフ企業や、新興企業が現地で独自の技術を紹介できる良い機会になる。過去にはスイスからバイオテクノロジー関連企業が多く参加したこともあったが、2013年にはおそらく、クリーンテック分野から多くのスイス企業が参加するだろう」
ロイター氏はまた、日本最大の技術開発推進機関である新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と連邦技術革新委員会との間で来年、覚書を交わし、協力関係を強化したいと抱負を語った。
2年後には国交樹立150年を迎える日本とスイス。日本の今後のエネルギー政策次第で、両国の協力関係はますます強くなりそうだ。
国の電力供給源の約5割を水力で賄っているスイスでは、従来から再生可能エネルギーへの投資や、自然に配慮した技術開発が盛んに行われており、クリーンテック分野で世界をリードする企業が多い。
太陽光発電事業では、今年3月に東京エレクトロンに買収されたエリコン・ソーラー(Oerlikon Solar)が有名。太陽熱利用の温水設備事業では、ヘルヴェティック・エナジー(Helvetic Energy)やエルンスト・シュヴァイツァー(Ernst Schweizer)がある。
スマートグリッド事業では、大企業のABBや、2011年5月に東芝に買収されたランディス・ギア(Landis+Gyr)が世界をリードする。
ゴミ焼却発電事業でグローバル展開しているのは、日立造船株式会社の子会社である日立造船イノバ(Hitachi Zosen Inova)だ。
建築分野では、長期にわたり持続可能な住宅の建設を手掛けるスイス・ビルディング・コンポーネンツ(Swiss Building Components)や、省エネに優れた窓やドアを製造・販売するスイス・ウィンドウズ(Swisswindows)などがある。
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