スイス公的部門、縁故主義が汚職の温床に
スイスの公的部門は比較的「クリーン」だと認識されているが、縁故主義が汚職の温床になりやすいと専門家は指摘する。民間部門は汚職やマネーロンダリング(資金洗浄)対策、内部告発者の保護が課題となっている。
国際NGOトランスペアランシー・インターナショナル(TI)が25日発表した2021年の腐敗認識指数外部リンクでスイスは全体的に高評価だったものの、前年から1ポイント減。3位から7位に転落した。TIスイス支部のマルティン・ヒルティ代表は「公的部門の汚職との戦いに関して、またしてもスイスは完璧からは程遠い上、他の国よりも悪い成績を取った」と語る。
同指数は1995年に集計開始。実際に発生した汚職ではなく、学・財界がどう「汚職に対する脆弱性」を受け止めているかを測定する。21年版で汚職の可能性が最も低いと認識された国の上位はデンマーク、フィンランド、ニュージーランド、ノルウェー、シンガポール、スウェーデン。スイスは第7位で、オランダ、ルクセンブルグ、ドイツが続いた。
南スーダン、シリア、ソマリアといった紛争で荒れる国々が下位3位に並んだ。TIは、過去10年間に86%の国で汚職対策が停滞・悪化したと結論付けた。スイスを含む27カ国では、データで遡れる2021年以来最も低いスコアが出たという。
スイスでは過去1年間に、公的部門で起こったいくつかの不正事件が波紋を呼んだ。うち高額IT契約に絡む収賄罪事件では、連邦経済省経済管轄庁(SECO)の元部門長に懲役4年の刑が下された。
利害対立
ヒルティ氏が最も懸念しているのは、公的部門が縁故主義に弱いこと、そして明確な利害対立があるのに認識されないケースが頻発することだ。典型例として、人気スキーリゾートのアローザ(グラウビュンデン州)で、地元の政治家が定期的に550フラン(約6万8千円)相当の無料スキーパスを受領していたケースがある。そうした贈答品には明らかに問題があるにも関わらず、公にその慣行が擁護されているという。
ヒルティ氏は「スイスが抱えている主な問題は縁故主義だ」とswissinfo.chに語った。「スイスは小さな国で、みんな知り合いだ。同じ学校に通い、共に兵役に就き、同じスポーツクラブに所属していた人たちが、ふいにお互いの肩書きを知ることになる。スイス人はこうした状況に対処するための感性と知識を欠いていることがよくある。これは多くの場合、利益相反を意味する」
多くのケースは刑事責任を問われるには至らないが、権力の乱用に当たり、公務員への信頼を損ねるという問題につながる。
民間部門の問題
ヒルティ氏は、スイスの最も深刻な問題は指数が測定していないところに潜んでいると指摘する。特に、マネーロンダリング(資金洗浄)対策、政治的ロビー活動の規制と透明性、そして喫緊に改善が必要な内部告発者の保護だ。
「スイスが抱えている主な問題は、民間部門にある」
スイスの民間部門はほとんどが中小企業だ。中小企業が抱える課題として、多くの人が汚職とは何かを知らず、対処方法について知識がないということが挙げられる。一方、大企業には行動規範があるものの、不正行為に対する「ゼロトレランス」ポリシーを全社的に根付かせることに苦労している。
最もリスクのある業界は、資金洗浄や汚職が生まれやすい金融業界だという。その次には、弁護士や公証人、不動産業者など、犯罪者が違法なお金を投資したり隠したりするのを支援する業種だ。助言者が直接資金にアクセスできない限り、特定の金融機関や国に入金するよう顧客に助言することはスイスの反資金洗浄法の規制対象にならない、とヒルティ氏は説明する。
スイスは製薬や採掘企業大手や国際的なスポーツ団体が本拠を置く。「これらはすべて、汚職リスクが高まる可能性がある」(ヒルティ氏)
最近ではノバルティス(本社・バーゼル) が2020年に賄賂事件の和解金として米国・ギリシャで計7億2900万ドル(約840億円)を支払った事件や、金融大手ジュリアス・ベア(本店・チューリヒ)が昨年のFIFA事件で3600万ドル以上の賄賂を資金洗浄した例がある。モザンビークの汚職事件に関与したクレディ・スイスは、昨年10月に米国と起訴延期契約を締結した。
パナマ文書やパンドラ文書などのスキャンダルは、スイスが資金洗浄・汚職対策を強化する必要があることを示している、とヒルティ氏は強調する。だが厳罰化や内部告発者保護に向けた動きは逆風にさらされている。
「スイスの反資金洗浄法は、極めて強い外圧がかかり必要に迫られた時にしか改正されず、必要最小限しか改善されない」
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