スイス連邦議会、米国への銀行機密開示法案を否決
スイスの銀行による米国人顧客の脱税ほう助問題で、スイス政府は脱税容疑のある米国人顧客の口座情報を米国に提出できるようにする緊急の和解法案を、連邦議会に提出していた。だが国民議会(下院)は19日、この法案を再度否決、廃案となった。今後、米国がスイスの銀行に対しどのような措置を取るかは予測できず、金融界には不安が広がる。
エヴェリン・ヴィトマー・シュルンプフ財務相は5月末、スイスの銀行による米国人顧客の脱税ほう助問題に対する緊急和解法案、通称「Lex USA」(Lexはラテン語で法律の意味)を発表。連邦議会ではまず全州議会(上院)が承認したが、下院は否決。再び戻された法案を上院は承認したが、下院は2度目も「この法案で米国との租税問題は解決しない」とし、賛成63票、反対123票で否決した。スイスでは法案可決には両院の承認が必要なため、同法案は不成立となった。
米国からの圧力
スイスの銀行法は、国内銀行が顧客情報などの機密情報を第三者に明かすことを禁じている(いわゆる銀行守秘義務)。近年、脱税問題に力を入れている米国は、スイスの銀行に資産を持つ米国人が脱税をしていないかを調べるために、スイスの各銀行に米国人顧客情報の提出を迫っていたが、この銀行法のためにスイスの銀行が顧客情報を米国に渡すことは難しかった。
米国の強い圧力を受けたスイス政府は、米国人の顧客情報の提出が合法的に行えるよう、Lex USAを草案。これが連邦議会で承認されれば、スイスの銀行が米国に起訴される可能性は少なくなり、問題解決につながると期待されていた。
各政党の反応
しかし、右派の国民党、中道右派の急進民主党、左派の社会民主党が反対を押し通した。反対の理由は各党によってさまざまだが、Lex USAが可決された場合にどんな結果が待ち受けるのかが不透明なことや、スイスに対するドイツやフランスなどからの圧力がこれを機に高まるかもしれない懸念が主な理由となっている。
国民党のペーター・フェーン氏はスイス通信に対し「主権国家が(外国からの)圧力に屈することがあってはならない」と主張。無所属のトマス・ミンダー氏は「外交的に我々がここまで屈辱を受けるとは考えてもみなかった」と話す(ミンダー氏は賃金格差是正を求め、イニシアチブを提唱した人物)。
Lex USAに賛成だったのは、ヴィトマー・シュルンプ財務相が所属する中道派の市民民主党や、左派の緑の党だった。市民民主党のマルティン・ランドルト氏は下院の否決を受け、スイス国営放送に対しこう話した。「銀行が訴えられれば、容疑が確定する前にも顧客が大量に離れていくだろう。そうなれば銀行の存続が危ぶまれる」
解決への望み
下院の否決を受け、金融業界には不安の声が漏れる。スイス銀行協会(SwissBanking)は「Lex USAは、スイスの銀行が米国の要求に応えるための法整備には最良の案であり、(脱税ほう助の疑いがある)過去と決別できる案だった。法的に不安定な状況では、銀行は米国が突きつける条件に応えられない」と危惧する。
しかし、連邦議会が問題解決を放棄したわけではない。上院の経済委員会は、「Lex USAが廃案となっても、スイス政府と連邦議会は米国との和解を望んでいる」との表明を行うことを提案。これは上下両院で可決された。
ディディエ・ブルカルテール外相(急進民主党)は、「『スイスの連邦議会は問題解決に向けた早急な解決を望んでいる』と米国に伝え、事態の悪化を防ぎたいと思っている。だが、もしうまくいかなければ、スイスは難題だらけの熱い夏を迎えるだろう」と、フランス語圏の国営ラジオ放送(RTS)に語った。
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