スイス銀行マンのボーナス上昇
アメリカやイギリスが金融機関の賞与の規制に動く中、スイスは2009年の賞与支払い額が上昇したというニュースに国民は驚いている。スイスの銀行は国際的な動きに背を向け、従来通りの方針を貫くつもりなのだろうか。
オバマ米政権は銀行の投機的投資を止めさせる方針を打ち出す準備段階にある。これは、スイスの銀行にも大きなかかわりがある問題だ。
金融危機を忘れたかのように
財政難に陥っているにもかかわらず、銀行員に支払われる億単位の賞与は、銀行の財政を脅かすのではないかという心配のほか、道徳面でも疑問視されている。こうした中、このほどスイスの銀行を対象にした調査の結果は、台風の目のようなものだった。2009年にスイスで支払われた銀行の賞与は、前年を50%上回った。調査を行ったのは国際リクルート会社「コーポレート・コンサルティング・アンド・テクノロジー社 ( CC&T) 」で、対象はスイスの60銀行だった。
金融関連の従業員の平均年収は36万1000フラン ( 約3100万円 ) で、前年より20.7%上昇した。固定給と賞与を分けてみると、賞与は12万フラン ( 約1000万円 ) から18万フラン ( 約1500万円 ) に上がり、5割増となった。賞与はほとんどの銀行で3月に支払われるが、スイス政府、金融専門家、世論から非難の声が高まっている。こうした銀行の中にはUBSに代表されるように、赤字経営の銀行もあるからだ。
2010年も続くのか
CC&Tが予想するように、2010年も銀行員の年収は賞与の値上げをとおして、さらに増加すると見られている。具体的には、年収の平均額が37万5000フラン ( 約3200万円 ) と前年より4%上昇すると見込んでいる。賞与も過去最高を記録し、大手金融機関にとっての採算限度ラインに到達するのも目前だ。
こうした中、世論、国際金融制度の監視機関、20カ国・地域首脳会議 ( G20 ) の批判は高まる一方だ。世界の経済を形成する役割を担っている立場にあるG20は、銀行員の賞与を規制しないことに反対している。
スイスでは、銀行の賞与政策に介入できるのは連邦金融監督局 ( FINMA ) だ。UBSは金融監督局と話し合いを持ち、金融監督局が銀行に対して、その賞与支払総額を認めるような制度作りが検討されているという。UBSは、詳しい数字を明らかにしていないが、株価動向を見極めながら決定することは認めている。2009年には6万9000人の銀行員に対し、総額39億フラン ( 約3300億円 ) が支払われるのではないかとみられている。
2月に発表になる2009年の業績で30億フラン ( 約3600億円 ) の赤字が予想される中、もし実際に赤字決算となるなら、上記の賞与額は金融監督局の命令で少なくとも25%は縮小されてしかるべきではないだろか。
イギリス政府は金融機関の賞与減額を進める方向で動いている。一人当たり400万円相当以上の賞与は税率を50%にすると決定。当事者たちは反対したが、世論からは支持された。クレディ・スイス ( Credit Suisse ) は、イギリス政府の政策に真っ先に影響を受けた銀行の一つだが、約400人のマネージャーに対し約束した賞与額を3割カットし、新しく導入された税金を補うことも考えているという。
グラス・スティーガル法以上の規制を
UBSとクレディ・スイスは全世界に向け、積極的な新しい対策を立てている。オバマ米大統領は1月21日、再び金融危機が訪れないよう、金融機関が抱えるリスクを抑制し、コマーシャル部門、投資部門などを分割する銀行の規模の抑制や、投機的投資から一般顧客を切り離し、トレーディングの制限をするよう呼び掛けた。
こうした呼び掛けは、まさにUBSやクレディ・スイスといった大手銀行に向けられたものだ。両行ともアメリカ市場は重要な営業活動の場であり、行員9万4000人を抱えている。両行とも、オバマ米政権の方針に対する対策やこうした現実については言及を避けた。
一方、スイス国立銀行 ( スイス中銀/SNB ) のフィリップ・ヒルデブラント総裁はドイツ語圏の日曜新聞「NZZアムゾンターク ( NZZ am Sonntag ) 」で、アメリカ市場で対策を講じることは「金融危機が再び起こるリスクを抑えることになる」と語っている。
今回の金融危機を招いたのが、銀行の証券引受業務や株式の売買を禁止するなど、銀行業務と証券業務の分離を定めたグラス・スティーガル法の緩和だったと指摘されているが、現在は、グラス・スティーガル法以上の規制を検討する必要さえ言われているのだ。
アンドレアス・オルネラス、swissinfo.ch
( スペイン語からの翻訳、佐藤夕美 )
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