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ロシア制裁で注目されるヒートポンプ スイスでは800万円

pompa di calore
建物の暖房などに使われるヒートポンプは、少ない電力で効率的に熱を生み出す省エネ機器だ © Keystone / Gaetan Bally

二酸化炭素(CO2)排出量削減において、ヒートポンプは今後大きく貢献すると考えられている。また、欧州がロシア産ガスから脱却する足掛かりになると主張する米国の環境保護主義者もいる。スイスでもヒートポンプ市場は徐々に成長を続けているが、更なる加速が必要だ。

ロシアがウクライナに侵攻した数日後の2月下旬、米国の著名な環境ジャーナリスト、ビル・マッキベン氏外部リンクは、欧州はこれを機にヒートポンプ(空気、水、地面から熱エネルギーを取り出し、建物の暖房に利用する装置)に切り替えるべきだと提案した。そうすればロシア産ガスの依存度を減らし、ウラジーミル・プーチン露大統領に大打撃を与えられるとの主張だ。ブルームバーグの計算によると、ロシアは石油とガスの輸出で1日10億ドル(約1220億円)以上の収入があり、その多くは欧州に輸出されている。

米企業は電動ヒートポンプを増産し、欧州への輸出も対応できると同氏は説明する。そうすれば現在ロシア産ガスに頼る欧州7500万世帯の暖房を電化するのも夢ではない。

また、生産の迅速化に当たり、バイデン大統領は「国防生産法(DPA)」を発動すべきだと提案する。国防に関わるサービスや資材の供給を加速する権限を政府当局に与える同法律は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)でもマスクや人工呼吸器の増産に発動された。

マッキベン氏の提案は唐突に思われるかもしれないが、それほど的外れな話でもない。ワシントンポスト紙外部リンクは内情に詳しい3人の話として、米政府が「欧州がロシア産化石燃料を減らすつもりなら、十分に現実的な解決策」とみて本件を真剣に検討中だと報じた。

ロシアのウクライナ侵攻を受け、欧州連合(EU)はロシア産化石燃料からの脱却を目指すと発表した。その達成に向け、暖房用ガスの代替案などを盛り込んだ計画が採用される見通しだ。

だがヒートポンプは一夜にして導入できるものではなく、承認手続きに時間がかかることも多い。EUが最終的にどの代替燃料を選択するかはさておき、1つだけ確実なのは、ヒートポンプが気候危機への取り組みには役立つということだ。

ヒートポンプとは何か?その仕組みは?

ヒートポンプは空気や水、地面から熱を取り出し、建物の暖房に利用する装置。集めた熱は電力で冷たい空間から温かい空間へ移動させ、より大きな熱や冷気に変換する。夏は冷房に、冬は暖房に利用できる。

石油やガスによる従来のボイラーとは異なり、ヒートポンプは電動。そのため(再生可能エネルギーによる電力であれば)持続可能で、より省エネな暖房設備と考えられている。

2030年までに普及台数を3倍に

国際エネルギー機関(IEA)によると、20年末に世界中で使用されていたヒートポンプは約1億7700万台で、中国と北米がその半数を占める。世界の暖房需要の7%はヒートポンプがカバーする。

欧州で建物にヒートポンプ暖房を使用する割合が高い国は、ノルウェー(60%)、スウェーデン(43%)、フィンランド(41%)。スイスの普及率は18%とはるかに低いが、フランス、イタリア、ドイツ、スペインよりは高い。

IEAによると、ヒートポンプは建築物の排出量を削減し、気候中立を達成する主要な解決策の1つだ。だがそのためには普及の加速が不可欠で、30年までに普及台数を3倍以上にする必要があると同機関は説明する。

環境問題専門の情報サイト「カーボン・ブリーフ外部リンク」では、専門家2人が「最近までのヒートポンプ市場の成長は、IEAの予想をはるかに下回った」と指摘。今後の展開は「政府の政策とエネルギー価格の動向に大きく左右される」と述べた。

スイスでは建物3棟のうち2棟が化石燃料で暖房

連邦統計局(BFS/OFS)の最新データ(17年)によると、スイスでは建物の約3分の2が暖房に化石燃料を使っている。ガス暖房は全体の約2割を占め、その43%はロシア産ガスに依存している。

スイスは住宅における暖房用石油の使用率が欧州で最も高い国の1つだ。国の排出量の約4分の1は住宅・建築部門が占める。ヒートポンプに切り替えれば排出量を減らせるが、1台当たり6万フラン(約790万円)と高額な上、暖房設備のリフォームを伴う建物の省エネ戦略も遅々として進まず、普及が滞っている。

だが徐々にではあるが、この流れに変化が出始めている。00年以降、スイスでは特に新築住宅でヒートポンプの設置が増加した。

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連邦政府が10年から行っている建設プログラムの広報担当、サビーネ・ヒルスブルナー氏は、「近年、ヒートポンプを導入する建物の割合が増えているようだが、具体的な数字はない」とswissinfo.chの取材に回答した。

入手できる最新のデータはスイス・ヒートポンプ推進協会外部リンクによるもので、昨年の設置台数は2割増加と、国際的な傾向と同調していた。昨年スイスで販売された暖房器具の半分以上はヒートポンプだった。

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グラールスとチューリヒの場合

スイスでは、新築の建物への石油・ガス暖房器具の設置が禁止されているわけではない。ただし、より環境に優しい暖房器具を促進するため、国は新築や改築時に金銭的な優遇措置を設けている。

スイスはまた、化石燃料に対する課税が世界でも最も高い国の1つだ。今年初頭、ディーゼルや天然ガスから発生するCO2にかかる炭素税が1トン当たり96フランから120フランに引き上げられた。

連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)のフィリップ・タールマン教授(環境経済学)は、「課税の対象となる暖房用の化石燃料では、CO2税の効果が実証されている」と言う。事実、スイスの建築部門では、1990年以来で最も急激な排出量の削減が記録された。

一方で、国レベルで実施されている規制をより強化し、ガスや石油による暖房を部分的に禁止する州も出てきた。チューリヒ州とグラールス州では最近、スイスで最も厳しいエネルギー法を州民投票で可決。化石燃料のボイラーの寿命が来た場合、持続可能で気候変動に影響を与えない代替品と交換することが義務付けられた。

もちろん、スイスのロシア産化石燃料への依存を解消するには、これだけでは不十分だ。ロシア経済に与える影響も微々たるものかもしれない。だがこれは、カーボンフリー社会に向けた確実な1歩にはなり得るのだ。

1月下旬に発表されたUBS銀行の報告書によると、スイスではここ数年、石油ボイラーが減少。2010年以降、設置台数の約2%(合計10万台)は他のシステムに置き換えられた。一方、ガスボイラーは約3万台増加した。

UBSは、化石燃料の暖房器具の交換を促進する政府の優遇措置がお粗末すぎると主張。このままでは、スイスが30年までに排出量削減目標を達成する可能性は低いと指摘した。パリ協定の下、スイスは30年までに温室効果ガスの排出量を1990年比で少なくとも50%削減することを約束している。

(英語からの翻訳・シュミット一恵)

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