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スイス式民主主義、防護マスク製造にも

スイスでは6日から公共交通機関でのマスク着用が義務づけられた。 Künzi, Renat (swissinfo)

新規感染者数の増加、パーティーやナイトクラブ、国外での感染――。新型コロナウイルスの第2波が近づいている。スイス政府はようやく、公共交通機関でのマスク着用義務付けに踏み切った。今まさに始まったのが「保護マスクイニシアチブ」だ。創意豊かなスイス人2人が立ち上げたこのプロジェクトは、保護力が証明された認定マスク製造の分散化・民主化を目指す。

新型コロナウイルスは、今もなお「検証」が必要な災害だ。コロナ危機の最初の波が到来し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的流行)が起こった際は、一部の転売屋や犯罪者たちが実際は保護力のない偽物の防護マスクを売りつけて大金を稼いだ。悪質なマスクビジネスを盾に、国民と国を欺いたのだ。

スイスも例外ではなかった。今年3月、22歳と23歳の若い男2人が「マスク契約」で大金持ちになった。彼らは最も早く、中国からスイス軍に防護マスクを供給することができたのだ(下記のボックス参照)。

チューリヒの金融界の内部情報を暴露する独立プラットフォームInsideparadeplatzによると、マスク契約により2人の若者が大富豪となった。22、23歳の若者2人が今年3月、Emixと呼ばれる会社を通じて、中国製の防護マスクをスイス軍医薬品局に販売したのだ。契約は非常に利益の高いものだったため、この2人の「ゴールドコースト・マスクキッズ」(Insideparadeplatzがそう呼んだ)は、得た富でフェラーリとベントレーの超高級車を買ったという。独語圏の日曜紙ゾンタークス・ツァイトゥングは、スイス国防省の報道官の言葉として、軍医薬品局がEmixから市場価格でマスクを購入していたと報じている。

バーゼルに住むサステナビリティの専門家マリー・クレア・グラフさん(24)は「コロナ危機下では、価格の高騰と偽の認可によって、保護マスクがすぐに政治問題になった。それではいけないと思った」と話す。グラフさんは国連の気候変動大使100人のうちの1人だ。

持続可能性と共同決定に基づく分散型経営モデル「Ökonomie3.0」の開発者オリヴァー・フィヒターさん、またフィヒターさんのチームと共に、グラフさんは過去4週間、日夜問わず世界中の製造業者、認可の専門家、またプロジェクトに関心を持つ人たちとビデオ会議を行ってきた。

必要なものをすべて用意

その結果生まれたのが「防護マスクイニシアチブ」だった。防護マスク生産の分散化を目指す、1つの「構造改革」だ。このイニシアチブは、政府、当局、組織、企業、および個人を問わず、申請者に保護マスク製造機械を提供する。パッケージには、不織布、呼吸フィルター、伸縮性ストラップなどの基本的な素材も含む。すべて無料だ。

いわゆる「請負業者」を希望する人は、適切な証明書の提示が前提条件となる。その後、事業を受ける側のフランチャイジーは、マスクをオープン価格で販売できる。マスク1枚ごとに、イニシアチブの運営側に少額の機械使用料を納める。

最初は業界大手と

グラフさんとフィヒターさんは、このイニシアチブに明確な民主主義を刻もうとしている。「分散化された製造システムによって、誰もがマスクを作れるようにしたい。同時に、リソースの公平な配分も確保できる。中央集権システムは失敗であり、それは第1波の時に証明されている、と指摘する。

最初の請負業者は、ベルリン拠点の独大手マスクメーカーだ。ここは12台のマシンを備えている。生産は間もなく始まる。グラフさんは「私たちの防護マスクはドイツのほか国際企業に納品される」という。例えば航空会社、小売チェーン、スポーツ用品メーカーなどだ。

グラフさんとフィヒターさんは、新たなパートナーとしてスイスの自治体や軍、病院、薬局、(スーパーマーケットの)ミグロ、コープ、郵便局なども検討している。

新型コロナウイルスの第1波により3月、国内がロックダウン(都市封鎖)に入った時、スイスは突如として防護マスク不足に陥った。ストックが少なすぎたからだ。

4月中旬以降、ザンクト・ガレンにあるフラーヴァ社は、週40万枚の標準マスクを国内向けに製造している。

医療従事者向けの認可フィルターマスクなど、より高度な防護マスクに関しては大きな問題がある。同社には3月以来、中国から購入した製造機械が2台あるが、FFP2、FFP3マスクは1枚も出荷していない。同社の防護マスクにドイツ技術検査協会(TÜV)の認可が下りなかったからだ。連邦政府とチューリヒ州はこの2台の機械を160万フラン(約1億7600万円)で購入している。

スピード感がこのイニシアチブの特徴でもある。「パンデミックの第1波は去った。でも第2波は近づいてきている」とグラフさんは言う。

すでに欧州などから約100件の問い合わせが寄せられているという。トルコ、ロシア、チュニジア、エジプト、米国、ブラジルなどからも関心が集まっているという。

用意した第一弾の機械30台は、実質すべて予約で埋まっている。グラフさんは現時点の好調ぶりを「すごいこと」と話す。最終的には300台を目指すという。

●「請負業者」:グラフさんとフィヒターさんが、顧客の身辺調査を行い、顧客のニーズを明確にする。フランチャイジーは、保護マスクの製造・販売契約の締結が義務付けられる。

●機械:オートメーション専門のMBL社の機械。個々の精密部品はスイスの会社で作られたもの。

機械の価格は約35万ユーロ(約4300万円)。1カ月あたり最大300万枚のマスクを製造できる。グラフさんとフィヒターさんは、彼らのネットワーク内で事前に500万ユーロの資金を集めた。

●原料:基本材の不織布も最高品質にする。サプライヤーはスイス、ドイツ、ポルトガル、トルコ、中国、インドだ。

●ビジネスモデル:機械は業者側に渡った後も、イニシアチブ運営側の所有物とする。フランチャイジーは、製造されたマスク1枚ごとに20~80セント(標準・防護マスク)の機械使用料を納める。

●今後の予定:到来が予想される次のパンデミックに備えるため、グラフさんとフィヒターさんは、世界中に散らばる製造機械をデジタルでつなぐ計画を立てている。そうすれば、パンデミックのホットスポットにいる人達へ、物資がより迅速に届くという。

●10億ユーロ市場:このイニシアチブは、グラフさんとフィヒターさんを「10億ユーロプレーヤー」に変えそうだ。 グラフさんは「でも、保護マスクイニシアチブはウィンーウィンーウィンの関係。かかわったすべての人にメリットがある」と話す。

●利益:ここに1つの計算例を挙げよう。標準マスク200万枚を製造すると、56万ユーロが保護マスクイニシアチブの運営側に還元される(1カ月ごと、また機械1台ごと)。 2年契約の場合(最大3年有効)、1300万ユーロ以上になる。 30台の機械なら、2年間で合計4億ユーロ以上になる。

還元された金額を、グラフさんとフィヒターさんは事業拡大に再投資する。2人の創設者は、リスクについても指摘する。運営側は、事前に集めた資本金負担だけでなく、機械の 損傷にも備えなければならないからだ。フランチャイジー側が使用料を払えなくなった、または支払いを拒否した場合も想定しなければならない。

このイニチアチブが目指すゴールの1つは、発展途上国に機械を届けること。 グラフさんは「現在ユニセフと協力してプロジェクトにふさわしい国を検討している」と話す。

保護マスクイニシアチブには3世代がかかわる。創設者のマリー・クレア・グラフさん(24)はZ世代、オリヴァー・フィヒターさん(48)はX世代だ。

グラフさんは長年、持続可能性と気候保護に取り組んできた。 国連の気候大使として、国連会議や気候会議に出席。各国の首脳と言葉を交わしている。

フィヒターさんは経済学者、著述家であり、分散型経営モデル「エコノミー3.0」の創設者だ。エコノミー3.0は競争ではなく協働に基づく。

現在の課題をともに乗り越え世代間の公平性や正義を高めようと、アートディレクターのジム・ケンマーリングさん(35、Y世代)と共にレーベル「XYZ001」を設立した。

(独語からの翻訳・宇田薫)

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