スイス、独自制裁に向け法改正 下院通過
スイス国民議会(下院)は、連邦内閣が独自に制裁措置を決定できるようにする禁輸法改正案を可決した。今後、全州議会(上院)でも可決されれば、欧州連合(EU)などの決断を待たずに国際法に違反した国に対し制裁を発動できるようになる。
ロシアによるウクライナ侵攻を受け、同改正案は大きな注目を集めた。現在スイスは国連やEU、欧州安全保障協力機構(OSCE)の決めた制裁措置を踏襲することしかできない。
それを定めるのが「国際制裁の実施に関する連邦法」(通称・禁輸法)だ。下院が可決した改正案は、スイス連邦内閣が、個人や企業などの団体に独自の制裁を課せるようにする。深刻な人権侵害や重大な国際法違反があることを発動条件とする。
採決前の審議では、中立の問題が大きな争点となった。中央党のエリザベート・シュナイダー・シュナイター氏は会派を代表し、独自の制裁は連邦内閣の交渉力を高める重要な手段になると主張した。
社会民主党のファビアン・モリーナ議員も独自制裁を支持した。「国際法違反があった場合、国際社会が違反者に再び規則を遵守させる責任がある。さもなければ無政府状態になる」
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保守派の国民党は反対に回った。ロジャー・ケッペル議員は「経済制裁は戦争において武器になる。それは攻撃する武器になり、飢餓に追いやる武器にもなる」ことから、スイスの中立性と相容れないと主張した。「制裁は個人にとって恣意的な武器になる。それはオリガルヒ(新興財閥)の例でも明らかで、ある人は制裁を受け、そうでない人もいる」。法治国家が後退し、スイスが大国との駆け引きの巻き添えになると警告した。
方針転換
禁輸法改正の発端は、ロシアのクリミア併合を受けて2015年に決まったロシア・ウクライナ両国からの武器輸入の禁止を延長するかどうかだった。連邦政府は延長を盛り込んだ改正案を2019年に議会に提出。当時想定していたのは、EUなどが課した制裁をスイスが踏襲する際に、スイス独自の利益に応じて対象ではない国にも拡大適用することだった。
この案は下院で広く支持され、上院も2021年6月、個人や企業に拡大できる案を可決した。今回、下院はさらに踏み込んで、EUなどの決断を待たずに自発的に制裁を決める権限を連邦内閣に与えることを承認した。
ギー・パルムラン経済相は下院審議で、既に課された制裁の拡大適用は支持したが、自発的な制裁を課す権限を内閣に付与する案には反対した。「これまでの方針から根本的に外れることになる」と述べ、制裁発動の基準も不明確で、長い法的闘争を引き起こしかねないと指摘した。
上院は、独自制裁を盛り込んだ改正案を初回審議ではいったん否決したが、その後ウクライナ戦争の勃発で流れが変わっている。上院は改めて審議する。
(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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