スイスの高齢者のインターネット利用は過去10年間でほぼ倍増した。日常生活の中で、デジタル技術は切っても切り離せない存在になった。
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調査を実施したスイスの高齢者支援団体プロ・セネクトゥーテ(Pro Senectute)は「デジタルツールは盛況だ。年齢の若いシニア層の情報通信技術(ICT)利用は、若年層に引けを取らない」と言う。
ただそれよりも年齢が上がると状況が変わる。スイスのデジタルディバイドは、80歳代にシフトしたのだ。
プロ・セネクトゥーテは20年以上、高齢者の情報通信技術利用に目を向けてきた。2019年、チューリヒ大学のシニア学センターは同団体の委託で、このテーマに関する3度目の調査「Digital Senior 2020」外部リンクを実施した。
高齢者のデジタル技術利用を調べる目的で、スイス国内に住む65歳以上の1149人に電話・郵送で聞き取り調査を行った(データは2019年8、9月時点のもの)。回答者の49%が男性で、女性は51%。平均年齢は女性が74歳、男性が73歳。最高齢は101歳だった。
同団体は2009年、2014年に同様の調査を実施している。
9月公表の調査結果によると、65歳以上でインターネットを使っていると答えた人は74%に上り、初回調査時(2009年)の38%からほぼ倍増した。モバイル端末でのネット利用は68%で、2回目の調査時(2014年)の31%から大幅に上昇した。
65〜69歳では、95%が日常的にインターネットを使用していると答えた。
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用途で最も多いのが電子メールや情報検索(どちらもほぼ100%)だった。チャットや電話、経路検索、交通機関の時刻表・経路チェックが次に多い。50〜65%が健康関連の情報検索、新聞の閲覧、口座取引をネットで行っていた。前回調査と比べ、インスタントメッセンジャーアプリや健康関連のアプリを使う人も増えた。
一方で、行政機関への申請、ネットショッピング、ストリーミングサービスは50%を切った。
プロ・セネクトゥーテ広報のタチアナ・キストラーさんは「パンデミック(世界的大流行)は、社会生活に参画する上でデジタルコミュニケーションツールがいかに重要かを浮き彫りにした。多くの家族が、離れて暮らす祖父母と顔を見てコミュニケーションをとるため、チャットアプリWhatsAppやZoom、FaceTimeなどのビデオ通話を使った」と話す。
キストラーさんは、特に身体が不自由な人にとって社会的接触は非常に重要で、デジタルツールは身体的・心理的にプラスの影響をもたらすと言う。
プロ・セネクトゥーテなどの団体は、高齢者向けにデジタル技術を学ぶ講座を開いている。イタリア国外で唯一、イタリア語で教えるシニア向け大学UNITREはその中でも特別だ。同校はスイスのドイツ語圏の都市で、イタリア語話者向けのデジタル講座を開いている。ただでさえ難しい分野の勉強を、母国語で学べる、というわけだ。
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キストラーさんは「忘れてはならないのが、スイスではまだ40万人のお年寄りがインターネットを利用していないということ。こうした人々がデジタル化の進む社会から締め出されないように、我々の団体はアドバイスやサービスを提供して行く」と話す。
プロ・セネクトゥーテの調査によれば、回答者の26%がインターネットを使っていないと答えた。5%は高齢者施設の入居者だ。
多くの高齢者がインターネットを活用する一方、一部の人は「オフライン」の生活をしている。だがネット限定のサービスはこうした人たちに届かない。コロナ禍で需要が高いネットショッピングや接触追跡アプリも同様だ。
調査「Digital Senior 2020」の筆者は、ネット上のサービスが増える時代において、ネットを使わない人達が排除されてしまうのは事実だと指摘する。スイスでは、列車の割引切符1つとってもオンライン購入が大前提だ。
この現象はスイスに限ったことではない。多くの国では、行政の申請手続きはオンライン化され、一部の安全なタクシー会社はオンラインアプリがないと利用できない。さまざまな製品の購入、宅配サービスもまた、ネット利用が必要だ。
調査では「デジタルサービスやイノベーション技術を使わない、という一部高齢者の選択は尊重されなければならない」とし、銀行や駅の窓口など旧来のアクセスツールを残すよう呼びかける。
調査によると、こうした技術を敬遠する理由は「難しすぎる」(77%)、「セキュリティ上の不安」(74%)、「学ぶのが面倒」(65%)が目立った。非ネットユーザーの60%以上が、情報を検索するときは第三者の手を借りていると答えた。また61%が単にインターネットが必要ないと感じていた。
それも当然のことだろう。高齢になるほど情報通信技術になじみの薄い世代になるからだ。それはスイスだけの話ではない。82歳でスマートフォンアプリを開発した日本人女性は、高齢者の自立支援にはデジタルリテラシーが不可欠だと訴える。
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調査によると、日常生活に広く浸透するデジタルサービスの利用では、種類によって差がある。例えば現金自動預払機(ATM)を頻繁に利用する人は6割を超えるが、公共交通機関の自動券売機では約2割、Apple Payなどの非接触型決済サービスの利用、スーパーマーケットのセルフレジ利用は2割を切る。
だが、多くの高齢者が敬遠するこうしたデジタルサービスは、新型コロナウイルスの感染予防対策の1つとして需要が高まっている。
調査では、シニア層のテクノロジーに対する考え方も聞いた。
それによると、全体の57%が「技術は絶えず進歩しなければならない」、「テクノロジー端末なしの生活は考えられない」と肯定的な意見だった。
その一方で、「技術の進歩は社会にとって有利な点の方が多い」と考える人は37%にとどまり、「現在のテクノロジー端末の使い方が難しい」と感じる人は39%に上った。
興味深いのは、高齢者ケアへのロボット導入に61%が反対したことだ。ただ教育レベル、性別で賛否が分かれ、高学歴、男性、高収入の人ほど賛成する傾向がある。
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シニア世代のインターネット利用はスイスでも増えているが、ネットを利用しない高齢者は依然として多い。こうした人たちは重要な情報源にアクセスできず、社会的にも孤立する可能性があると、専門家らは警告を鳴らしている。
高齢者支援基金団体プロ・セネクトゥーテの委託でチューリヒ大学老年学研究所が調査したところによると、高齢者のネット利用者数はこの5年間で47%増加した。
つまり65歳以上の半数が現在ネットを利用していることになる。しかし全人口のネット利用率は2015年で88%になり、シニア層の利用率と大きな差がある。
「インターネットは現在、私たちの日常生活の大部分を占めている。シニアたちもその恩恵を受けようとしている」と、プロ・セネクトゥーテ役員のベアトリス・フィンクさんは言う。
高齢者にとってタブレット端末は使いやすく、こうした電子機器を使ってネットに接続する高齢者が今後数年で増加するとプロ・セネクトゥーテは予想している。
高齢者がネットを利用する目的は主に、電子メールのほかに、旅行や行政や健康に関する情報の収集などがあるが、ソーシャルメディアはあまり人気がない。オンラインショッピングは特にセキュリティ上の理由からあまり利用されていない。
ネットに接続しない人は2タイプ
高齢者のネット利用率は増加しているが、高齢者の44%はいまだにネットを利用しておらず、65歳以上の高齢者の中でも大きな差がある。65歳から69歳までのグループのネット利用率は全人口の利用率とさほど変わらなかった。
ネットを利用しない高齢者は二つのタイプに分けることができると、今回の調査を率いたチューリヒ大学老年学研究所のハンス・ルドルフ・シェリング所長は説明する。
「一つ目は、技術に関心はあるが遠慮しているタイプ。(ネットが)難しかったりお金がかかったりするのではと心配する人たちだ。こうした人たちにはサポートが必要。周りの人たちが実践面で手助けしたり励ましたりしないと、なかなかネットを利用できない」
二つ目のタイプは「ネットに興味がなく、自分ではその利便性に気づかない人たち」で、多くの人がこれに当てはまるという。
調査ではさらに、ネットを利用していない高齢者の15%が、今後は孫のためにネットを利用するつもりでいることがわかった。また、ネットを利用しない高齢者の半数以上が身近な友人や家族に頼んで、ネットで情報を調べてもらっていることも判明した。
ネットを利用しないリスク
「インターネットに接続できないと、行政や健康・予防対策に関する情報が今後ますます得にくくなる可能性がある」とフィンクさんは指摘する。
そのため、プロ・セネクトゥーテではこうした問題に対する意識を高めるための活動をしており、ネット利用に関する講座も開いている。中でもスイス連邦鉄道と共同で開催される講座は人気があり、チケットをオンラインで購入する方法などが学べる。
ほかにも、高齢者が運営するコンピュタリアスという協会では、スイスドイツ語圏で高齢者向けの講座を開いたり助言を行ったりしている(プロ・セネクトゥーテが一部支援)。
チューリヒにあるカトリック教会のコミュニティーセンターでも高齢者向けのネット教室が開かれており、記者が取材に訪れた日は老齢の女性数人がノートパソコンに向き合っていた。
仕事でパソコンを使っていたという参加者は、外国にいる家族とインターネット電話で連絡を取ってみたいという。また、別の参加者はあまりパソコン経験がなく、「夫はコンピューターの専門家」という人もいた。
技術の発展と将来
この教室の講師を務めるのは、以前はプログラマーだった67歳のドロテー・ランドルトさん。インターネットの利用が増えている背景には技術発展があるという。
「昔はコンピューターが今よりも格段に高価だったため、人々はなかなか手を出せなかった。そのためコンピューターは、本当に欲しいという人しか所有していなかったが、今では誰もが1台は持っている。ウェブサイトもはるかに使いやすくなった。また、コンピューターを使うのに専門知識はもう必要でなくなった」
チューリヒ大学老年学研究所の調査では、新しい技術が常に登場するので高齢者のネット利用は今後も増え、世代間のギャップは、なくならないとしても縮小するとの見通しが出ている。
だが、ネットを今後も利用するつもりのない高齢者が社会的に孤立してはならないと、シェリングさんは指摘する。
「インターネットが使えなかったり、使う気がなかったりする人たちのために、例えば銀行の窓口など、(ネット以外で)情報にアクセスできる方法を確保しておかなければならない」
国際比較
スイスはヨーロッパの中ではインターネットを利用する高齢者の割合がかなり高い。高齢者のネット利用に関する調査を率いたチューリヒ大学老年学研究所のハンス・ルドルフ・シェリング所長によれば、スイスでの割合はスウェーデン、ノルウェー、フィンランド、オランダ、デンマークなどの国よりは低いが、フランスとドイツよりも高く、イタリアはスイスよりもかなり低い。文化的背景や所得の差などがその理由だという。
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