コロナを逆手に スイスの新興LCCが再始動
多くの航空会社がコロナ禍で先行き不安を抱える中、パンデミックはチャンスとばかりに格安航空(LCC)業界参入の機会を狙っているのがスイスのスタートアップ「ムーブ・エアウェイズ」だ。名称を「スイス・スカイズ」から改め、バーゼル空港を拠点とする長距離路線専門の格安エアライン設立を目指す。
スイス・スカイズ時代に資金調達プロジェクトが華々しく発表されたのは2018年。しかし、投資家を説得して1億フラン(約117億円)の立ち上げ資金を調達することができず、1年経ってプロジェクトはお蔵入りとなった。創業チーム中2人はこのベンチャーを放棄し、他に活動の場を移した。
それが、今なぜこのタイミングで新規巻き直しなのか。航空業界はパンデミックで大打撃を受け、多くのエアラインが倒産の危機に瀕し政府支援に頼っている。
国際航空運送協会(IATA)の試算では、2020年に航空業界が被った損失額は1180億ドル(約122億円)。15億フラン(約1700億円)に上る政府支援を受けたスイス・インターナショナル航空も、今後2年間で1千人の人員削減を見込んでいる。
しかし、ムーブ・エアウェイズの創業者で最高経営責任者(CEO)のアルバロ・オリベイラ氏は、業界の置かれた逆境の中に光明を見る。swissinfo.chの取材に対し同氏は「これは新規参入のチャンスだ」と話した。「既存大手の使用機数削減で航空機のリース価格が下落している。空港の空きスロットも以前に比べ増えるだろう。また、失職した多くの経験豊富な人材が新しいチャンスを探している」
さらに「競合社は我々の参入に対応する体力が落ちているだろう」とも付け加える。「既存大手は今後、莫大な借金という問題を抱えていくことになる」
広い路線網を計画
スイス・スカイズが掲げていた「数十機の機材運行と数千人の雇用」という野心的戦略目標はムーブにも引き継がれた。しかし、ブラジルで生まれ育ち、旅客機操縦の経験を持つオリベイロ氏はパンデミックの影響、特にビジネス需要への影響のせいで若干の計画変更はありうるという認識を示す。
バーゼル空港など欧州の二次空港を利用するというモデルは、短距離路線を専門とするLCCの手法を大枠で踏襲している。ムーブは、米国東海岸(ニューヨークを含む)、カナダ、南米、カリブ海、中東への直行便運航を計画しており、場合によってはインド便も組み込む予定だ。
機材の選択で白羽の矢が立ったのはエアバス321LXR(超長距離機材)。2023年に納入が開始される予定だ。
さらに同社は、伊国境に近いルガーノ空港の運営権獲得にも意気込んでいる。ミラノやチューリヒといった距離的に近い空港との乗客獲得競争に苦戦しているルガーノ空港だが、その運営権入札にはムーブの他6社のコンソーシアム(企業連合)が手を挙げた。1月中旬には最終候補が絞り込まれる予定。
資金の調達
一方でムーブの「離陸」には1億フランの資金調達問題がなお立ちはだかっているのも確か。航空輸送業界が好景気に沸いていた時代でさえ、気前の良い投資家を見つけるのは容易ではなかった。オリベイラ氏も「伝統的投資家に新規エアラインへの高いリスク志向を期待するのは難しい」と認める。
そこで同社が目を付けたのが、ブロックチェーンに似た分散型台帳技術(DLT)を活用した新しいスタイルの資金調達法だ。誕生したばかりのこの技術は、企業の株式をデジタル化して発行、取引するもので、コスト削減と幅広い投資家へのアクセスを謳う。
ムーブがこの方法に着目したのはおよそ2年前、他のスタートアップによる数億ドルに上る巨額の資金調達を目の当たりにしたのがきっかけ。しかし、いわゆる「セキュリティ・トークン・オファリング」(STO)については法的保障が整うまで見送る方針だ。
ムーブは機関投資家の誘致をまだ完全には諦めていない。新規エアラインに対し一般投資家がプライベートエクイティ(PE、未公開株)の投資家らを上回る投資意欲を見せるかどうか、今後の成り行きが注目される。
(英語からの翻訳・フュレマン直美)
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