トランプ米大統領から世界の視線を奪おうとする「招かれざる客」
世界で最も好き嫌いが分かれるであろうその人物が現れるとき、その場の空気はたちまち興奮で充満するに違いない。「分断された世界における共通の未来の創造」をテーマに掲げた世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)の開幕は、かのドナルド・トランプ米大統領の登場をおいて他にふさわしいものがあるだろうか?
「この世界は国家間の競争増加や社会における深い亀裂により分断されてしまった」。WEF外部リンクの創始者、クラウス・シュワブ氏は開催前の記者会見でこう語った。多くの影響力ある政治家や企業トップ、市民リーダーたちが一堂に会するこのダボス会議が「この亀裂を克服」し、「世界の現状改善」につながることに期待を示した。
年次総会外部リンクは今年で48回目だが、シュワブ氏のメッセージはどこか聞き覚えがある。WEFは潜在的な世界の災難を書き連ねた終わりのないリストを解決しようというほぼ不可能な試みを自ら使命に掲げている。
世界経済フォーラムは欧州と米国のビジネスリーダーたちの交流を目的に、1971年に「欧州経営フォーラム外部リンク」として始まった。
1987年に「世界経済フォーラム」に名称を変更。年次総会は毎年スイス東部のスキーリゾート地ダボスで開かれるため「ダボス会議」と呼ばれる。ただ02年だけは、前年9月11日に米同時多発テロ事件が起こった米国を支援すべく、ニューヨークで開催した。
今年の年次総会外部リンクには3千人が参加予定。政界トップやビジネスリーダーのほか、社会や文化、技術、科学、宗教、学術関係の代表者が集まる。
開会式ではインドのナレンドラ・モディ首相が基調講演を行い、閉会式ではドナルド・トランプ米大統領が講演する。
一見したところ頑強で安全なホスト国・スイスでさえ、この分断された世界が起こす乱気流に翻弄されている。近年、米国の圧力を受けて伝家の宝刀ともいえる銀行の秘密主義を放棄したスイスは、英離脱後の欧州連合(EU)において、どのような立ち位置を取るべきか模索する最中だ。
ダボス会議はやっかいな問題を避けることなく、寄せ集めた議題についてはあらゆる手段を尽くして調べ上げる。それは気候変動から難民危機、経済情勢や新しいデジタル技術の影響まで幅広い。
招かれざる客
だがダボス会議の成果を計るのはそう簡単ではない。迷宮のような会議場で、ドアの後ろでいくつの握手が交わされたかを数えなければならないからだ。それを数える作業自体が表彰ものといえる。
とはいえ、スキーリゾートであるダボスは会議の成果など気にしない。1年で最も大きなこのイベントの期間中、世界中から集まったメディアのカメラのフラッシュを浴び、滞在者がお金を落とすのに備えるのみだ。
会議場の厳重な警備に限らず、期間中のダボスは見た目も雰囲気もがらりと変わる。商店やオフィス、カフェは国際企業やその他の団体に貸し出される。カラフルで大きなのぼりを使って存在をアピールする。どの国も目立ちたい、大きく見せたいと考えているようだ。
その他の役者はWEFが用意した舞台をぶち壊そうと列を成す。過去数年、招かれざる客が会議場を取り巻き、その数は年々増えている。
最も注目に値するのは、世界が考える資金繰りのあり方を変えようとするスタートアップ企業や起業家が織り成す抗いがたい潮流、フィンテック軍団だ。ブロックチェーン技術や仮想通貨を操る連中にとって、WEFの用意した舞台は居心地が悪い。
閉会スピーチ
彼らは会議場のすぐ近くにある地元の教会にキャンプを張って、説教をぶったり、WEF内部にある聖域で安穏とする伝統的な銀行家やビジネスマンを小ばかにしたりしている。
今年は暗号世界の「アナーキスト」たちがさらに一歩踏み出した。ダボス会議が開かれる1週間前、サン・モリッツ近郊で「もう一つのダボス会議」を開いたのだ。初の「クリプト・ファイナンス・カンファレンス(暗号世界の金融会議)外部リンク」の狙いは、最先端のデジタル技術を使った資金プロジェクトと、最もダイナミックかつリスク選好度の高いヘッジファンドやベンチャー投資家とを結びつけることにあった。
こうした金融関係筋の中には、より多くの取引をするためにダボス会議に向かう人々もいるだろう。会議にいる限り、トランプ大統領の閉会スピーチを生で聞くことができる。米大統領が開幕の基調講演を行わないことに驚く人はいるかもしれないが、閉会のスピーチをすることに驚く人はいなさそうだ。
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(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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