連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)の学生が開発した4人乗り電動飛行機「e-Sling」が先週、チューリヒ近郊の飛行場で初の公式テスト飛行を行った。持続可能な航空機製作を目指すこのプロジェクトに、スイスの冒険家ベルトラン・ピカールさんも賛辞を送った。
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e-Slingは、ETHZの学士号課程プロジェクトとして2年前に始動。卒論は電動飛行機の製作だ。機械工学、電気工学を学ぶ学生らのべ20人が、チューリヒ近郊のデューベンドルフ・イノベーションパークにある作業場で、設計・組み立て、機体のテストを続けてきた。
エンジンを1基だけ搭載したこの4人乗り飛行機は、実はスイスで製造されたものではない。南アフリカのスリング・エアクラフト社のキット機を使用している。e-Slingという名前もそこから来ている。学生たちが心血を注いだのは「e」の部分だ。燃料式エンジンの代わりに、モジュール式バッテリーによる電気推進システムを開発した。
9月30日、学生たちはテスト飛行を報道陣に初公開。これまで行われた計7回のテストの中で最長の連続飛行時間(約30分)を達成した。
他の電動の乗り物と同様、e-Slingにとって極めて重要な要素はバッテリーとその重量だ。飛行機ともなると、1グラムの差がものをいうと言っても過言ではない。
エンジンの重量はわずか42キログラムだったとしても、両翼に格納されたバッテリーの重量は224キロにもなる。このバッテリーのおかげで連続して約1時間の飛行が可能になる。飛行距離は約180キロメートルだ。
学生たちはいま、水素の酸化反応から直接電気を作り出す燃料電池型の水素推進システムを開発中だ。この手法は19世紀初めから知られているが、現在の課題はいかにこのシステムを軽量化し、コストを抑えるかにある。
e-Slingが帰属するETHZの「フォーカス・プロジェクト」は、学生たちが机上で学んだ理論を実践することが狙いだ。だが、卒業したらそれで終わりではない。リレーのバトンのように、次の世代がプロジェクトを受け継いでいく。現在のグループは既に3代目だ。
パイオニアも敬礼
スイスの冒険家ベルトラン・ピカールさんは2015~16年、パイロットのアンドレ・ボルシュベルクさんと電動飛行機ソーラー・インパルスで初のゼロエミッション世界一周を達成した。ソーラー・インパルス財団の理事長を務めるピカールさんは、チューリヒ工科大学の学生たちに賛辞を送る。
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ピカールさんはswissinfo.chの取材に「ソーラー・インパルスで我々が運ぼうとしたのは乗客ではなく、メッセージだった。クリーンテクノロジーが、これまで不可能とされてきた目標を達成できることを示したかった。この精神に触発されたプロジェクトを見ることは私たちにとってこの上ない報酬だ」との回答を寄せた。
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ピカールさんによると、現在、世界中で600以上の電動飛行機プロジェクトがある。その中には、世界で初めて型式証明を取得した電気飛行機「ヴェリス・エレクトロ」がある。スロベニアの航空機メーカー、ピピストレルが製造し、スイスで訓練機として使われている。そのほか、「ソーラー・インパルスの技術をじかに取り入れたH-55も含まれる」という。H-55はボルシュベルクさんが電動飛行機の実用化を目指し立ち上げたスタートアップで、「全ての航空機に適用できる電気推進システム開発に大きく貢献している」という。H-55は最近、米国のエンジンメーカー、プラット&ホイットニーと20人乗り航空機の電動化に関する契約を結んだ。
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水素関連のプロジェクトも数多く進行している。英米の水素電動航空機メーカー、ゼロ・アヴィアは、2025年に飛行距離500キロメートルの20人乗り自律型航空機を作ることを発表。エアバスは2035年に向けて中距離電動飛行機を開発中だ。「だが意図と現実の間には、まだ大きな隔たりがある」とピカールさんは話す。
ピカールさんによれば、スイスには長き革新の伝統があるが、電気航空やドローンに関しては「ソーラー・インパルスとH-55を除き、フランス、米国、中国など他の国に遅れをとっている」と言う。
仏語からの翻訳・宇田薫
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