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チューリヒ美術館は「汚染された美術館」か?

チューリッヒ美術館
チューリヒ美術館の新館がオープンした Keystone / Ennio Leanza

チューリヒ美術館の新館が9日オープンした。ある歴史家は、展示されるビュールレ・コレクションの経緯について「歴史的な正確さよりも、チューリヒという場所のマーケティングが優先されている」と厳しく批判する。

エミール・ゲオルグ・ビュールレ(1890〜1956年)の名前は「歴史的に負債を抱えた」または「暗い過去」という言葉を想起させる。というのも、スイスの武器商人だったビュールレは1930年代以降、何よりナチスドイツとの取引で財を成したからだ。ビュールレはナチスの強制労働の恩恵も受けながら膨大な美術コレクションを築いた。その一部は第二次世界大戦後、ナチスの略奪美術品だったと判明し、返還することになった。

こうした経緯にもかかわらず、ビュールレの収集した印象派の名画たちが、新たなチューリヒの観光名所を作る動きに使われようとしている。まずは全てが順調に進んだ。チューリヒ市政府は、ビュールレ財団の絵画をチューリヒ美術館に貸与作品として移管する計画を立てた。

2012年の住民投票で美術館の増築案が可決され、17年にはチューリヒ市と州がチューリヒ大学にコレクションの来歴調査を依頼。調査の目的は、残る不明点を把握し、ビュールレの事業と収集活動について判明している内容を総括することだった。

だが歴史家のエリッヒ・ケラー氏は、調査は効果のないものだった疑いがあると話す。「科学的な側面からさらに何がもたらされようが」、チューリヒ美術館への貸与は既に決定事項だったからだ。同氏自身もこの調査に参加していたが後になって自ら、運営委員会が不正を図るため介入したと公表。調査から離れた。

同氏の新著「Kontaminiertes Museum(仮訳:汚染された美術館)」(Rotpunkt出版)の内容はセンセーショナルなものと言えるだろう。同氏はビュールレ所蔵絵画の来歴調査にも疑いの目を向け、その中にはナチスの略奪美術品がまだ含まれていると主張する。

チューリヒ市とビュールレ財団は、独語圏のスイス公共放送(SRF)の問い合わせに対し、同書が出版されて内容が分かるまではコメントしないと回答した。しかし、リートベルク美術館所属の来歴調査専門家エスター・ティーザ・フランチーニ氏は、ビュールレ財団の調査を十分なものと評価。学術的な基準を満たしているほか調査結果はオンラインで公開され、必要な証拠を全て含んでいると説明する。

それでも批判は止まない。この件は本質的に、調査結果への評価に関わる問題であり、そしてドイツから逃れたり、あるいは新天地で生活したりするためにユダヤ人たちが売却した美術品「Fluchtgut(逃亡資産)」というスイス特有の用語にかかわる問題だからだ。

ユダヤ人収集家らがナチス政権からの逃亡後に売却した絵画も、略奪美術品とみなすべきか?所有者は売却に際し自由な選択の余地があったのか?迫害がなかったとしても、売却していただろうか?こうした問いに答えることは困難だ。ビュールレ財団所有のいくつかの絵画、例えばセザンヌの風景画やモネのひなげし畑の絵に対しても同様の疑問が残る。

増築による新生美術館の輝かしいオープンに際し持ち上がる疑問は「エミール・ビュールレとコレクションの来歴が批判的に検討され尽くしたのか」、また「チューリヒ美術館がこうした批判的な目線も十分に提示するのか」という点だけではない。

ナチス政権が存在しなければ美術館に展示されることはなかったであろう作品を取り扱うにあたり、スイスという国とスイスの美術館がどう歴史的責任を果たすのか。その態度も問われている。

エルリッヒ・ケルナー「Das kontaminierte Museum (仮訳:汚染された美術館)」 2021年、Rotpukt出版

(独語からの翻訳・アイヒャー農頭美穂)

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