ネット投票再開で在外有権者の投票率が向上 スイス国民投票
18日のスイス国民投票では約3600人の在外スイス人が2019年以来4年ぶりにオンラインで投票した。郵便の遅延のために投票できないことも多い国外有権者にとっては大きな一歩だ。
18日の投票ではバーゼル・シュタット、ザンクト・ガレン、トゥールガウの3州に籍を持つ有権者がインターネット投票の試験運用で実際に投票できた。ネット投票はかつて全国展開を見据えて一部の州で導入されていたが、2019年に安全上の理由からサービスを一時停止していた。
その後、スイス郵便がシステムの再開発に取り組み、今年3月に連邦内閣が上3州で試験導入すると発表した。
投票率は向上
18日は対象の有権者約6万5千人のうち3616人がネットで投票した。ネット投票は17日正午(スイス時間)で締め切られた。
結果、試験事業に参加した3州では全国平均よりも在外者の投票率が高くなった。
ネット投票は郵便投票の補完的な存在で、郵便投票ができなくなるわけではない。試験事業に参加した3州に籍を置く有権者は投票所での投票、郵便投票、ネット投票の3通りからいずれかを選択することができた。だが在外有権者の過半数は、ネット投票を選択した。
「期限内に投票できる唯一の方法」
3州の為政者は試験事業に満足気だ。ザンクト・ガレン州のIT・インフラ担当部長フィリップ・エッガー氏は「ネット投票が再び利用可能になったことについて、多くの肯定的な意見が寄せられた。多くの在外スイス人にとって、ネット投票は期限内に投票できる唯一の方法だ」と話した。
トゥールガウ州のパウル・ロートゥ州知事は、「有権者はこの制度をうまく活用している」と述べた。州政府に届いた利用方法に関する問い合わせはわずか4件だった。
バーゼル・シュタット準州のバーバラ・シュプバッハ・グッゲンビュール州知事も「ネット投票の再開は成功を収めた」と語った。同州で最も多かった問い合わせはURLの入力に関するものだった。検索エンジンではアクセスできず、ブラウザにURLを手入力する必要があったからだ。
喜びに沸く在外スイス人
州の担当者と同様に、有権者からも喜びの声が上がった。swissinfo.chの読者の1人、ペンネームRosendorferさんは「ハレルヤ!」と投稿した。「まったく問題なく、説明も詳しかった。複数のステップを踏む必要があり、主観的にセキュリティーレベルは非常に高かったと思う」と絶賛。ペンネームChristaさんも「投票は問題なくスムーズに進んだ。豊富な暗証番号に守られ安心。私たちにこの可能性を与えてくれてありがとう!」 と書き綴った。
体験者の声は、技術的なハードルからネット手続きに抵抗がある高齢者をも安心させるかもしれない。年金受給者のHans Ulrich Lutzさんは「トゥールガウ州では10日前からネット投票が可能でした。手順は非常に丁寧に説明されており、簡単にできた」と語る。
在外スイス人はネット投票を恒久的に使えるようにするべきだという意見で一致している。ペンネームChrenhuek38さんは「タイ南部から投票した。とてもポジティブに捉えることができたし、全ステップがあっという間に終わった。この取り組みが維持されれば大きな進歩となり、将来への重要な一歩となるだろう」と書いた。ルース・カウフマンさんも「ネット投票がすべての州に速やかに導入されることを望む」と訴えた。
Rosendorferさんは「祖国とのつながりや関心が高まり、さらには非常に再活性化される」という利点も強調した。
残る疑惑
だが今年3月のネット投票事業の再開は一部の連邦議員の反発を呼んだ。以来、政治的議論はストップしている。
連邦内閣を監視する役割を担う国民議会(下院)の業務監査委員会(GPK/CDG)は、スイス郵便のネット投票システムが再び信頼できると考えた理由や、試験事業を開始した根拠について連邦内閣に説明を求めた。
業務監査委員会のアルフレッド・ヘール委員長は、特に連邦内閣とスイス郵便のシステム再開発プロセスを注視する。一部報道によると、ネット投票を再開するという連邦内閣の3月の決定は議員らにとって寝耳に水だったという。
ヘール氏はswissinfo.chの取材に対し、内閣事務局と連邦議員の代表者との間で協議が行われたことを明かした。ネット投票の試みは原則として議会の意向に沿ったものであり、内閣事務局が恣意的に進めたものではないことが分かったという。
ヘール氏は「引き続き本件を批判的に注視していく」と強調した。
独語からの翻訳:ムートゥ朋子
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