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激動期に求められる灯台役

Swissinfo 編集部

スイスで6月7日、下院に続き上院が地球温暖化対策の国際ルール「パリ協定」の批准を決議。同時に二酸化炭素(CO2)の排出を2030年までに1990年比で5割削減する目標についても承認した。これで隣国に追いつくための一歩が踏み出されたが、本格的取り組みはまだこれからだ。

CO2法は現実を反映すべき

 スイスではパリ協定の批准決定を受け、目標達成のため法的枠組みの調整が始まる。スイスの気候政策の法的基盤は、「CO2削減連邦法(CO2法)」および今年5月21日に国民投票で可決された「新エネルギー法」の二つ。前者は議会での意見聴取手続きが終了したことから数カ月以内の改定が見込まれるが、連邦政府が発表した改定草案には残念ながら失望せざるを得ない。草案は、CO2削減目標の5割のうち上限2割は国外で達成すればよいとし、必ず国内で削減しなければならない割合を3割としている。

 これでは現行の法的規制とほぼ変わりない。国外における排出量削減を目指すこと自体は立派だ。確かにスイスが輸入を行えば現地で大量の温室効果ガスが発生する。だが、国外でのコミットメントはあくまで国内での取り組みを補完するにとどめるべきであり、連邦政府草案のように国内の排出削減目標量を置き換えるものであってはならない。

 期待外れな点は他にもある。現行の技術レベルでは、パリ協定に定められた目標を達成するためには化石燃料からの離脱が前提となるが、この点について長期的展望が欠けている。そして、スイスが苦戦しているはずの交通問題でも踏み込んだ対策が見られない。さらには、パリ協定が定める先進国から途上国への財政支援に関しても、調整方法のアイデアに乏しい。

 CO2法をパリ協定の合意内容にすり合わせるためには、議会が草案審議の中でこれらの点について明確な修正を迫るべきである。

激動期における灯台

 パリ協定をめぐり高まった国際社会の気候変動への取り組み気運は、ここに来て後退の危機に直面している。トランプ米大統領が先々週、国際社会への責任を無視する形でパリ協定を離脱するという行動に出たためだ。もちろん、このような後ろ向きの政策のせいで化石燃料時代に逆戻りすることはない。代替エネルギーがめざましい進歩を遂げた今となってはあり得ないことだ。それでも米国の行動は、パリ協定のパートナー諸国、とりわけ気候変動によって深刻な影響を受ける途上国の国民に平手打ちを食らわせたに等しい。

 そんな中、欧州連合(EU)と中国が躊躇(ちゅうちょ)せずトランプ氏の離脱を批判し、気候変動防止へのコミットメントを表明したことは喜ばしい。不安定な情勢だからこそ、スイスにもこういったリーダーシップを発揮してほしい。だがそのためには、スイスは今までの言動の不一致を解消する必要がある。また、米国の「オウンゴール」を機に、いっそう決然と、国際的協調のもとできるだけ思い切った気候変動防止策に注力することが求められる。たとえば、米国の無制限なCO2排出の埋め合わせとして米国からの輸入品への関税を増やすなどの措置を、パリ協定参加国間で歩調を揃えて推進するというようなことだ。

 ところがスイスの右派・国民党は、トランプ米大統領に従えと言わんばかりにパリ協定への不参加を主張した。それは長期的視野に基づく未来の構築ではなく、過去への逃避である。このような激動の時代に世界が必要とするのは、進むべき道を照らす灯台だ。伝統的に強い外交、豊かさ、イノベーション精神や民主主義の伝統に恵まれたスイスには、他のどの国よりもその役割を果たすための条件が揃っているのではないだろうか。

 最後に、カナダのジャーナリスト、ナオミ・クライン氏の言葉で本文を締めくくりたいと思う。「歴史が扉をノックした。その扉を開ける勇気を持とう!」

Swiss Youth for Climate外部リンク

NGO団体、2015年に設立。気候変動について若者が政治的議論を行う場を提供することが目的。


(独語からの翻訳・フュレマン直美)

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