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コーヒーの作り手と飲み手をつなぐ

Hands holding coffee
アラビカ種コーヒーの実。赤く輝く果実は「コーヒーチェリー」と呼ばれる Marco Frauchiger

寒い冬の日、窓の外の落葉を眺めながら、熱いコーヒーをすする。スイス人がそんな優雅なひと時を過ごしている瞬間、エチオピア南西部のアガロの森では農家がコーヒーの実の収穫に汗を流している。スイス北部・バーゼルのトゥイル夫妻は、そんな両者の距離を近づけようと、コーヒー豆取引業者「ダイレクト・コーヒー」を創業した。

エチオピアはアラビカ種コーヒー豆の生誕地と言われる。西部のジンマやカッファでは、コーヒーは単なる収入源ではなく、神話や伝説にも登場し地域文化や伝統に根付いている。

Coffee Ceremony in Ethiopia
コーヒー・セレモニーはエチオピアの伝統的な儀式で、家族・友人で3煎ずつ飲む。1煎目を飲む間は軽い話題、2煎目は家族の話題、そして3煎目は仕事など真面目な話題について語り合う Mi


コーヒーを作ることや飲むこと、分かち合いに対するエチオピア人の深い感謝の心に、スイス人のミヒャエル・トゥイルさんと妻のマリーさんが強く感銘を受けたのは数年前のこと。その後トゥイル夫妻は、ある大目標を持って「ダイレクト・コーヒー外部リンク」を創業した。それは最高の品質と持続可能性を持つコーヒーを売り、それを生産する人々を知ることだ。

「コーヒー貿易のブラックボックスを明らかにしたかった。コーヒーがどこからやってきたのかを理解することは、コーヒーを飲む人にとって重要なだけではない」。ミヒャエル・トゥイルさんはこう説明する。「農家も私たちに『私たちの作ったコーヒーを飲むのはどんな人たちですか?』と尋ねる。彼らはたくさんの誤解を抱いていた」

Michael and Marie
ミヒャエル・トゥイルさんと妻のマリーさんが「ダイレクト・コーヒー」の創業を思いついたのは2015年1月のこと。翌年6月にコーヒー豆の販売を始めた。1袋売れるごとに、選び抜いた社会事業への寄付を通じてエチオピアの子供を支援する​​​​​​​ Michael Tuil

ダイレクト・コーヒーが催行する「コーヒーの旅」はこうした思いが背景にある。毎年コーヒーの収穫期に、欧州のコーヒー愛好家を集めてエチオピアに渡り、コーヒー農家を訪ねるツアーだ。コーヒー1杯を淹れるまでの過程がどれだけ大変かを知る手掛かりになる。ジャーナリストのコンラディン・ツェルヴェガー氏とマルコ・フラウシガー氏は、昨年11月にこのツアーに参加した。

この記事はコンラディン・ツェルヴェガー氏とマルコ・フラウシガー氏が参加したエチオピアのツアーでのインタビューや観察を基にしています。swissinfo.chも追加インタビューをしました。記事の原文はスイスのストリート雑誌Surprise外部リンクに掲載されました。

Coffee farmer and storage
この地域の農家の大半は農地1ヘクタール未満の小規模農家で、約200~300世帯の他の農家と組合を組んでいる。組合では女性も多く働き、収穫物の乾燥や仕分けなどを担う Marco Frauchiger

コーヒーへの情熱の色

明るい赤色のコーヒーの実は、協同森林コッターの木々が織りなす深い緑に良く映える。「この輝く赤い色をみると、情熱が湧く」。ツアーに参加したジャック・プロドリエさんは、スイスインフォの取材にこう語った。

プロドリエさんは食品大手ネスレで30年間、品質管理に従事した。数年前に定年退職した後、最高品質のコーヒー豆を見つけ、農家が生活できる価格で買いつけることに熱意を燃やしている。

Raul Reis portrait, and a storage of coffee on the right.
ツアーの参加者ラウル・ライスさんは自ら「コーヒー愛好家」を名乗る。エアロプレスをエチオピアに持ち込み、コーヒー農家に最高の1杯の淹れ方を披露した © Marco Frauchiger

ツアー中プロドリエさんが最も衝撃を受けたのは、コーヒー生産過程の複雑さだ。「誤りやすいことがたくさんあった」。コーヒーの木の手入れから果実の収穫、洗浄・乾燥、害虫の駆除まで、どの作業にも慎重さが求められる。

トゥイルさんによると、アラビカ豆はエチオピアの野生で育つ。生物多様性が高く日よけになる木が多いという自然環境により、合成農薬を使わなくて済む。だが気候変動やコーヒー豆生産地の密集により、強い負荷がかかっている。

エチオピアのコーヒー研究者は、「気候変動や森林破壊により、コーヒー炭疽(たんそ)病がエチオピアのコーヒー豆生産者で大きな問題になっている」と話した。

Jacques Prodolliet and Scientist in the state research center, Jimma Agricultural Research Center of EIAR
スイス西部出身のジャック・プロドリエさんが特に魅かれるのは、コーヒーの実のつやつやした赤い色だ。ジンマ農業研究センターの研究者は、病害に強いコーヒーの木の改良に努めている © Marco Frauchiger

大海の一滴

ダイレクト・コーヒーは企業規模こそ小さいが、フェアトレードやオーガニック、エシカル(倫理的)な購入販売の認定・ラベル付け制度を相次ぎ採り入れている。

だがこうしたラベルは小売業者を潤すだけで、サプライチェーンで大きな付加価値を生む個人農家には十分な利益が行き届かない。ネスレやスターバックスなどの大企業はこれらのラベルを超え、自社の持続可能性基準を作り第三者に認定してもらう仕組みを作っている。

もう一つ、コーヒー貿易を巡り関心の高まっている問題がある。ニューヨーク証券取引所で決まる商品価格に農家が揺さぶられていることだ。

今年前半にコーヒー豆価格が大暴落したのを機に、価格の不安定さは農家にとって大きな問題となった。トゥイルさんによると、ダイレクト・コーヒーはコーヒー組合(複数の協同組合の集合体)と価格を直接交渉。昨年は焙煎前の生豆1ポンド当たり3フラン(約330円)と、相場の1フランを大きく上回る価格に設定した。


Michael Tuil
コーヒーの新しい販売方法について、農家を納得させる必要があった。ミヒャエルさんとマリーさんが最終的に農家を口説き落としたのは、協同組合の会計ミスを見つけた時だ。農家は、この数字を注意深くチェックしている人は誰もいないと話した Marco Frauchiger

スイスは世界のコーヒー豆取引の中心にいる。欧州連合(EU)、米国に次いで3番目に大きい再輸出国で、世界で取引されるコーヒー豆の半分以上はスイス国内で交渉される。

大手商社6社がスイスに本社を置くが、いずれも生産者と直接の接点はない。「多くのコーヒー輸入業者は数百トンものコーヒー豆を取引する。農家や彼らの抱える問題を知るために割く時間はない」(トゥイルさん)

トゥイルさんが「ブラックボックス」と呼ぶものが存続しているのはまさにこのためだ。世界のコーヒー取引には何千もの仲介者が介入し、大元の生産者へのトレーサビリティー(履歴管理)が欠けているのだ。

ダイレクト・コーヒーは全てのコンテナを追跡する技術を使い、エチオピアのどの協同組合で生産され、ジブチを経由してアントワープに運ばれ、ジュネーブの焙煎店にたどり着いたか消費者が正確に分かる方法を確立した。同社は最終小売価格のうち、どの関係者にいくら支払われるかも明示している。

チューリヒやサンフランシスコなどの大都市では、コーヒー製造過程に対する目がさらに厳しくなり、こうした情報に対する需要が高まっている。

Sketch of the legend of the discovery of coffee
コーヒー発見の伝説を示したスケッチ。コーヒーが産まれた正確な場所についてはエチオピアで意見が分かれており、デモや道路封鎖にもつながった © Marco Frauchiger

トゥイルさんは、こうした仕組みがいずれ規模を広げていくと見込む。小規模農家と連携して直接購入する「ファーマー・コネクト外部リンク」を立ち上げたネスレのように、大企業も参入に意欲を見せているからだ。

現時点では、トゥイルさんはダイレクト・コーヒーを多国籍企業に売却することは考えていないという。「何が可能かを示すことで他の企業に刺激を与え、最終的にコーヒー貿易を変える一助となりたい」

(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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