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フラン高に打つ手なし! 苛立つスイス産業界

スイスフランの価値を簡単に下げる方法はない Ex-press

スイスフランの上昇が国内の輸出業者の危機感を呼んでいる。先日連邦経済省がベルンで主催したフラン高対策会議で、ジャン・ダニエル・ゲルバー副大臣は、フラン高がスイス経済の回復の足かせになっていると述べた。

しかし、フラン高を阻止するための具体案は生み出されず、ゲルバー副大臣は、スイス国立銀行が引き続き努力を続けると語った。

「現状は大打撃」

 連邦経済省 ( EVD/DFE ) の経済管轄局 ( SECO ) が主催するこの会議に招集されたのは、スイス雇用主協会 ( Swiss Employers’ Association ) 、スイス経済連合エコノミースイス ( economiesuisse ) 、スイス中小企業協会 ( Swiss SME Association ) 、スイス労働組合 ( Swiss Trade Union Federation ) などの組織の代表。また、医薬品、時計、銀行、観光、農業の各業界の関心事項も協議された。

スイス経済の重要な位置を占める機械、電気、エンジニアリングの三つの業界の就業人口は、約33万人とスイス最大で、2009年の輸出は総額630億フラン ( 約5兆4140億円 ) を計上した。これらの業界を統括する産業連盟スイスメム ( Swissmem ) の加盟企業はその8割を輸出に頼り、うち3分の2がユーロ圏内、特にドイツ市場向けだ。

フラン高によって輸出製品の価格が相対的に上昇するため、特にユーロ圏へ輸出を手掛ける業者は神経をとがらせている。過去1年の間、スイスフランの価値はユーロに対して12%以上、米ドルに対して5%上昇した。

 スイスメムの広報担当イフォ・ツィンマーマン氏は

「現状は全輸出業者にとって大打撃だ。数値で表すのは難しい。2010年の受注は第1四半期から第3四半期末までの間に12.2%回復したが、これは低水準からの回復でしかない。つまり金融・経済危機前の水準にはほど遠く、現在は2005年から2006年の水準にある」

 と説明。

 また

 「今後受注は増えるかもしれないが、為替レートのせいで利益が失われ、結局何も得られない恐れがある」

 と懸念する。

さらにゲルバー副大臣も

「ユーロと米ドルに対するフラン高が続けば、そのコストはスイス経済にとって大きな脅威になる」

 と会議の後の記者会見で警戒感を表明した。

「やれることはやり尽くした」

スイスのメディアは、この会議を「危機会議」と見なしたが、SECOはこれを「状況査定」の会議と定義し、現状における「チャンスとリスク」を中心に審議を行った。

  ゲルバー副大臣は、スイス国立銀行 ( スイス中銀/SNB、以下スイス中銀 ) がフラン高阻止の努力を続けると発表したが、エコノミースイスのビューラー会長は

「スイス中銀はやれることはやり尽くした。しかしこの流れを止めることはできない」

と苛立ちを表す。

 スイス中銀は2009年と2010年に大量のユーロ買いを実施し、スイスフランの上昇を食い止めようと試みたが、昨年の第3四半期までに約210億フラン ( 約1兆8100億円 ) の損失を被り、為替介入を中止した。

 1月14日にスイス中銀は、2010年に為替市場で合計約260億フラン ( 約2兆2200億円 ) の損失を被ったが、60億フラン弱 ( 約5100億円 ) の評価益が出たため、損失の予想額は約210億フラン( 1兆7900億円 ) になると発表。 また、他国の中央銀行と比較しても、スイス中銀の資本基盤は依然として「堅固」と報告した。

またコンサルティング企業ヴェラースホフ&パートナーズ ( Wellershof & Partners ) の上級エコノミスト、フェーリックス・ブリル氏もこれ以上はあまり期待できないと論じる。

「 スイス中銀 は大量のユーロ買いという相当な努力をしたが、結局大した成果は得られなかった。ユーロ圏内で債務問題が起きたために ( ユーロが下落し、相対的にフラン高になった。) 従ってこれはスイスフランだけの問題ではないのだが . . . . . . スイス一国だけでは何もできない」

固定相場制の採用?

 会議開催以前に、スイス産業界やその他の利害関係者からフラン高阻止のためにいくつかの提案がなされた。その一つはスイス労働組合連盟の会長パウル・レヒシュタイナー氏と昨年故人となったスウォッチ・グループのCEOニコラス・ハイエック氏が過去に提唱した、スイスフランをユーロに連動させる固定相場制だ。

 しかしエコノミースイスの会長ゲロルト・ビューラー氏は、ユーロに連動させた固定相場制は、はじけて消える「エアー・バブル ( 気泡 ) 」のようなもので現実性がないと否定する。

またエコノミストのブリル氏も

「 ( ユーロに連動した固定相場の採用は ) 原則的には可能だが、その結果を受け入れなければならない。 スイス中銀は金融政策における自律性を失い、代償は高くつくことになる。つまり欧州中央銀行 ( European Central Bank/ECB ) の金融政策に従わねばならず、その結果スイスでインフレ圧力が高まることになるかもしれない。そしてこれは欧州通貨同盟 ( European Monetary Union ) 参加への第一歩になり得る」

と指摘。

 

 スイス銀行業界を代表して会議に出席したクレディ・スイス銀行 ( Credit Suisse ) の投資主任は、為替レートを誘導するのは困難なため市場の力に任せるべきだが、パニックに陥る必要はないと論じた。

紳士協定の再導入

一方、労働組合と中小企業協会は、1976年に スイス中銀とスイスの商業銀行の間で施行された紳士協定の再導入を提案している。これは スイス中銀の行政指導のもとで市中銀行の投機的な通貨取引を中止させる手法だ。

中小企業協会の会長ハンス・ウルリヒ・ビグラー氏は

「 ( 紳士協定の再導入は ) かなり考えられる」

 と語り、市中銀行もスイス経済の低成長は望んでいないはずと付言した。

しかしブリル氏はこれにも反論があると指摘する。

「プレッシャーは幾分弱まるかもしれないが、最近のフラン高の傾向は投機だけが原因ではない」

ほかの対策としては、金 ( ゴールド ) の売却、インフレ促進、マイナス金利の採用、資金流入の制限、ユーロ圏からの越境労働者に対するユーロ建てでの給与支払いなどが提案されている。

会議の後で、エコノミースイスの代表パスカル・ジェンティネッタ氏は、フラン高によってスイスは「( 自国の ) 成功の犠牲」になったと語り、スイス企業に多角化と技術革新による生産性の向上を呼びかけた。

スイス中銀の独立性

スイスメムの代表ペーター・ディートリヒ氏は、フラン高が続けば存続の危機にさらされる企業が出てくるため、政府は立場を明らかにするべきと呼びかけた。

 スイス労働組合は、会議の開催は有益だったが、単なる「意見交換会」でしかなく、しかるべき具体的な対策は生み出されなかったと批判した。

 SECOはフラン高対策についてのコンセンサスは得られなかったが、参加者は「スイス中銀が金融政策の独立性を維持するべき」との合意に達したと締めくくった。協議の内容はヨハン・シュナイダー・アマン経済相に報告される

スイスフランは、ユーロや米ドルなどほかの通貨が下落した時に、投資家や投機が買いに走る「避難通貨」。

スイスの輸出業者、特にユーロ圏に輸出を行う業者にとってフランの高騰は、スイス国外での輸出価格の上昇を引き起こすため、苛立ちの種となっている。

1年前の対ユーロ為替レートは、1ユーロ=1.48フラン約だったが、現在は1ユーロ=1.25フラン。過去1年間の上昇率は約15%。

スイス国立銀行 ( スイス中銀/SNB ) は、ターゲットとする為替レートを追わないと強調。一貫してその金融政策を法的な権限に基づいて作成している。

それによると、「スイス中銀は経済発展を十分に考慮しながら価格の安定を確保することが義務付けられている」

欧州連合 ( EU ) 加盟国27カ国のうち17カ国から成るユーロ圏の公式通貨。

ユーロ圏に含まれるのはオーストリア、ベルギー、キプロス、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ルクセンブルグ、マルタ、オランダ、ポルトガル、スロバキア、スロベニア、スペイン。またユーロはその他多数のヨーロッパ諸国でも使用されている。

毎日優に3億人を超える人々がユーロを使用している。アフリカでも1.5億人以上が使用。

各国のユーロ保有量は米ドルに次ぎ世界2位。またユーロの取引を行う国の数も世界2位。

ユーロ紙幣と硬貨の市場流通は2002年1月1日に開始された。

( 英語からの翻訳 笠原浩美 )

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