ICO、申請件数の4~5割は失敗に
2017年、スイスに大きな資金を呼んだイニシャル・コイン・オファリング(ICO)。仮想通貨を使った資金調達手段として注目を浴びたが、その裏で多くの案件が失敗に終わっている。投資家の不信感がじわじわと広がり、早くも暗雲が垂れ込めてきた。
ICOの情報収集サイト「トークン・データ外部リンク」によると、2017年に申請されたICO案件のうち4~5割は不成立に終わった。フィンテック・バブルの崩壊への懸念が浮き彫りとなった。
2017年はスイスにとってICO元年となった。ローザンヌ大学応用科学の調査外部リンクでは、スイス企業がICOで調達した金額は計8億5千万フラン(約950億円)にのぼった。スイスには私企業から切り離された財団形式で資金を募る文化が根付いており、テゾス財団外部リンクやバンコール財団外部リンクなどが設立されている。
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ツークの業界団体、クリプト・バレー協会外部リンクのオリバー・ブッスマン会長は長らく、ICO案件の8割程度は失敗すると見積もっていた。割合は予想を下回ったものの、早くもブームが下火になっていることに驚きを隠さない。
注意深い投資家
もう一つの問題は、ホワイトペーパーと呼ばれる文書の危うさだ。新規株式公開(IPO)の「目論見書」に相当し、事業展望や調達資金の使い道などを記載する。投資家は「次なる大ブーム」を生むスタートアップ企業を発掘しようと、金鉱脈さながらにホワイトペーパーに熱視線を注いだ。
だが今、ホワイトペーパーの「薄さ」が問題視されている。スイスの新興企業向けコンサルタント会社「ベンチャーラボ(Venturelab)外部リンク」の共同創業者シュテファン・シュタイナー氏は、スイス公共放送の取材に、「スタートアップ企業が簡単なワード文書で資金を集められるというのは、投資家にとってはリスクだ。ホワイトペーパーの内容が本当に実現するのか、どうやって実行されるのかは、投資家は確かめようがない」と語った。
変化の兆しはある。ブッスマン氏によると、今年に入って申請されたICOのうち、8割以上は一般投資家ではなく機関投資家が立ち上げたものだ。規制当局がICOへの監視の目を光らせ始めたことが背景にある。
連邦金融市場監査局(FINMA)は3月、ICOに適用する既存法令を整理したガイドラインを発表した。政府内では新たな法的枠組みを含め、ICOやブロックチェーンの規制のあり方を検討する作業部会を開いている。
イニシャル・コイン・オファリング(ICO)とは
Token Gathering Events(トークン収集案件)とも呼ばれ、スタートアップ企業が事業資金を調達する新しい手段。スタートアップ企業は独自の電子硬貨(トークン)を発行し、投資家からの出資金(多くはビットコインなどの仮想通貨)と交換する。従来企業が出資者への報酬として株式や配当を還元するのと異なり、トークンを買った投資家はスタートアップ企業の新しい技術を使う権利を得る。
2017年、全世界で推定40億ドルの資金がICOで調達された。急成長を受けて、各国の規制当局は監視・規制を強めている。ICOでは主に①資金洗浄手段として悪用される②証券取引法などの金融規制で取り締まれない③詐欺や不正行為による消費者被害―の3点が懸念されている。
(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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