「プーチンの戦争」がスイスに突き付ける課題
読者の皆様
スイスはウクライナ側に立つ――。これは中立と連帯を懸けた決断でした。スイスは、世界に広く知られた「中立」の看板を下ろしたのでしょうか?それには議論と説明が必要です。ウクライナ戦争に関するswissinfo.chの記事をご紹介します。
「ウクライナ人にもスイス人のような生活をしてほしいと思っている」。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は19日、スイスの首都ベルンで開かれた反戦デモ集会で、キエフからライブストリーミングで演説しこう訴えました。集会には数千人が集まり、多くのウクライナ人も参加しました。
「この悪との戦いの中で、あなたたちもウクライナ人のようになってほしい。そうすれば銀行に関する疑念がなくなる。あなたがたの銀行、この戦争を始めた人々全員の資金が保管されている場所だ」
おすすめの記事
ゼレンスキー大統領、スイスのデモでオンライン演説
集会に出席したスイスのイグナツィオ・カシス大統領は、大統領という同士としてゼレンスキー氏を親称の「Du」で呼びかけました。それを保守右派の国民党はスイスの中立を冒す行為として批判しました。
しかしスイスが公式に表明している中立の立場は何も変わっていません。スイス国連代表部のパスカル・ベリスヴィル常駐代表は「スイスの中立には何の変化もなく、スイスが中立ではなくなったと認識されていることも確認できていません」と断言します。「スイスには欧州諸国とこのような違いがある、つまりスイスは『欧州的で連帯感はあるが、独立した存在』であるというのが、国連での一般的な認識です」と話しています。国連の場で中立国スイスが果たすべき役割について、ベリスヴィル氏に聞いたインタビュー記事はこちら。
おすすめの記事
「スイスの中立には何の変化もない」国連代表
軍事ブロックが形成された冷戦下でも、スイスは地政学的な場所に立ち位置を取りました。欧州大陸の西側の一員として、重んじる民主主義や自由、すべての人々の平等といった西側の価値を守ったのです。それ以来、開かれた社会を特徴づけるものは大きな意味を持つようになりました。スイスはそれでも長い間、「中立」と「孤立」を別物ととらえてきました。swissinfo.chドイツ語編集部のシビラ・ボンドルフィ記者は、「むしろNATOやその近隣諸国と個々の点で軍事的に協力している」と書いています。なぜこうした立ち位置がスイスに適しているのでしょうか?
おすすめの記事
スイス「有事が起きない限りは中立を維持」
またスイスはスウェーデンやフィンランドといった北大西洋条約機構(NATO)に加盟する他の中立国とも異なる立場をとっています。安全保障の専門家、レア・シャード氏は、スイスがNATOに加盟する可能性はないと言い切ります。
おすすめの記事
スイスはNATOに加盟するか?
NATOとスイスの協力関係は、具体的にはどのようなものでしょうか?NATOのスイス政府代表部大使を務めるフィリップ・ブラント氏に話を聞きました。
おすすめの記事
「スイスの中立性は、NATOとのパートナーシップの基礎」
ロシアがマリウポリやヘルソン、ハリコフで非人道的な攻撃をしていることを踏まえると、スイスの中立性や国際関係についての議論は緊急性に乏しいように思えるかもしれません。しかしこの安定性こそ、スイスがジュネーブという国際会議の中心地を構えるようになった理由の1つなのです。swissinfo.ch英語編集部のジュリア・クロフォード記者は、ジュネーブを本拠とする国連人権理事会がロシアの戦争犯罪を追及しようとしている背景を報じています。
おすすめの記事
国際司法枠組みでロシア指導者を処罰できるか?
今後はどうなるのでしょうか?戦争が続く限り、スイスは平和に向けて陰に表に努力を続けるでしょう。さらに厳しい制裁を科すのは難しそうです。他の欧州諸国と同じように、スイスもロシア産ガスに依存しているからです。
おすすめの記事
ロシアからのガスなしに欧州は冬を超えられるのか
スイスにできることは他にあるのでしょうか?中立国としての立場に縛られすぎなのでしょうか?みなさんのご意見をお待ちしています。ぜひこちらの意見交換ページにご投稿ください。日本語でも投稿・閲覧が可能です。
おすすめの記事
JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。