ベイルート港で4日発生した大規模爆発では、駐レバノンのスイス大使モニカ・シュムッツ・キルゲス氏もけがを負った。レバノンのスイス大使はどんな人物なのか。
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現地の写真からは、荒廃した現地の様子がよく分かる。4日午後の大規模爆発で、スイス大使館も深刻な被害を受けた。モニカ・シュムッツ・キルゲス大使と大使館職員がこの爆発で軽傷を負った。
大使は外務省広報部とのインタビューで「爆発の時、私は自分のオフィスにいた。爆風に飲まれ、文字通り部屋の隅まで吹っ飛ばされた」と振り返った。
大使は同僚と一緒に、徒歩で近くの病院に向かった。「通りの至るところに、血の付いたカーペットや割れたガラスが散乱していた」という。自身は大事には至らず、5日には別の場所で仕事を再開した。
大使館は当面閉鎖。いまは危機対応モードだ。大使館は現在、スイスのレバノン支援について検討している(以下のボックスを参照)。
真正面から問題に取り組む
レバノン大使の仕事は難題が多いが、今回の事件はまた1つの大きな試練と言える。難民危機、政府への大規模な抗議、経済危機、貧困、飢餓、新型コロナウイルスによる厳しい制限措置と、レバノンは数カ月前から不安定な状態が続いていた。シュムッツ・キルゲス大使も例外ではない。最近、同大使館の前で抗議活動があり、活動家たちは腐敗したエリートたちが保有するスイスの銀行口座を凍結し、その金をレバノン国民に返還するよう訴えた。
バーゼルで生まれ、1996年に外務省に入庁したシュムッツ・キルゲス氏は、これまでにも危機を経験している。イスラエル、トルコでの駐在経験から、緊張が続く地域での勤務には慣れている。大使の同僚たちが、こうした経験や専門知識を下支えしている。
スイス連邦外務省は6日、レバノンに専門家チームを派遣した。 スイス人道援助団(SHA)は、建設、物流、コミュニケーションの専門家たちから成る。広範囲にわたって深刻な被害を受けたベイルートに入り、病院や学校など公共建造物を中心に建物の安全性をチェックする。
スイス政府はまた、レバノンの赤十字に50万フランの緊急援助を提供する。
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それ以外でも、シュムッツ・キルゲス氏の評価は高い。外交関係者によると、大使はきっぱりとしていて、オープンでフレンドリーな性格。毅然とした態度で問題に直接取り組むという。
「平易な言葉で話す」型破りの大使
シュムッツ・キルゲス氏は駐レバノン・スイス大使を務めて3年経つ。人道援助、開発協力、人権、移民、政治、文化など、分野は多岐に渡るが、どの分野にも深く関わる。現在51歳。1日の勤務時間は16時間に及ぶことも珍しくない。
大使の取り組みは政府内でも高く評価されている。2018年、アラン・ベルセ連邦大統領(当時)が大使館を訪問。レバノン・スイス両国は非常に密接な関係にあり、レバノンは戦前「中東のスイス」とも呼ばれていた。現在、レバノンには1500人のスイス国民が住む。
シュムッツ・キルゲス大使はとても社交的だ。他の大使とは異なり、メディアにもおじけづかない。チューリヒ選出のファビアン・モリナ国民議会議員は「彼女は平易な言葉で話す。かなり型破りな大使だ」と評する。
同議員は連邦議会で、レバノンの権力者たちがスイスの銀行に保有する資金に反対している。昨年10月にベイルートの大使館を訪問した。同議員はシュムッツ・キルゲス大使を、「良いネットワークを持つ、実力のある大使」と感じたという。「しかも彼女はこの男性優位の分野で数少ない女性の1人だ。自分を主張する方法を知っている」。同議員の言葉通り、全大使110人のうち、女性大使は4分の1に過ぎない。
シュムッツ・キルゲス大使は自身をフェミニストだと考える。女性の進出は非常に重要だという。女性はキャリアと家族を両立できる、それを体現した手本でもある。大使は結婚していて、2人の息子の母親だ。
※この記事は、2020年8月5日にCH-Mediaグループ発行の独語圏日刊紙アールガウアー・ツァイトゥングに掲載されたものです。
(ドイツ語からの翻訳・宇田薫)
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