大石裕香さん、ベジャール・バレエ団で「空Ku」を振付 作品を創る側の目線とは?
心に響く日本調の音。スイス・ローザンヌにあるベジャール・バレエ団のスタジオで、新作「空Ku」のリハーサルが行われていた。子供の頃から音として口ずさんでいた般若心経の「空」という、目には見えない世界を創作し、スピリチュアルな作品を手がけたフリーランスの振付家、大石裕香さん(34)に創作の原点や作品論を聞いた。
バレエの振付家になるには資格は必要ない。作品を創るのは「独学で、何もないところから、自分の想像から何かを作り出すこと」。「新しいものを創るときは孤独な作業」だと大石さんは言う。
3歳のときからバレエを始め、16歳でハンブルグのバレエ学校へ留学。そこで振付家ジョン・ノイマイヤー氏の作品を見たときは、「日本で見ていたバレエとはチュチュで踊るものだったので、雷が落ちたような衝撃を受けた」と振り返る。「バレエの見方が180度変わり、これが芸術だと分かった」
振付を始めたきっかけは、学校の授業の一環として曲やダンサーを選び、短い作品をいくつか創作したことだった。その頃、全体像ばかりを見ていて、踊りをダンサーの目線では見ていなかった自分に気付いた。
バレエダンサーから創作活動への転機は、ハンブルグ・バレエ団で振付をし、「自分が振付けた踊りを観に来てくれたお客さんの、『明日を生きる光をもらった』という言葉に重みを感じたとき」だった。
ノイマイヤー氏の支援と、ベジャール・バレエ団の芸術監督ジル・ロマン氏の招待を受け、ローザンヌで振付をして「自分の中を見せる」機会が与えられた。
大石さんにとっての作品創りとは、「素直な私のままで、舞台の上で裸になれるかどうか」を意味する。手を出す、抱きつくという動き一つにしても、自分の想いと理由一つひとつを細かくダンサーに説明する。「自分が裸になって、自分の中を見せ、相手に向かい合ったときに、相手の目の中にも何か違うものが見える」
新作「空」は、「目には見えない大きな存在」である宇宙をテーマとし、生や死に思いを巡らす。音楽で悲しさなどを表現するのではなく、あえてメロディーが語らない「音」を作品のコンセプトとして選んだ。振付とは、感情を身体の動きで表し、映し出す身体芸術。「私が感じることを形にできたら」と話す。
大石裕香さん 略歴
振付家。
1984年、大阪生まれ。
ハンブルクバレエ団の元ソリスト。現在はフリーランスの振付家として活躍している。
2012年、「連句 RENKU」を振付。
「空Ku」は、6月22~24日、26~28日まで、ローザンヌで公演外部リンクされる。
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