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ローザンヌで羽を広げるバレエダンサー

ローザンヌバレエ スイス留学中の田中さんが2位

田中月乃
表彰される田中月乃さん ©PDL

スイスが新型コロナウイルスの感染第5波に見舞われる中、レマン湖畔モントルーで5日、ローザンヌ国際バレエコンクール2022の決選が対面式で行われた。スイスに留学中の田中月乃さん(大阪出身)が2位に入賞した。

「今は気持ちが昂っているが、とにかく嬉しい」。第50回ローザンヌ国際バレエコンクールで優勝した米国出身のダリオン・セルマンさん(17)が、入賞者発表後に舞台幕が下りるとはじける笑顔で言った。

ダリオン・シェルマン
Yugenを踊るダリオン・セルマンさん @gregory Batardon

1月31日から6日間に渡る審査を経て1位に輝いたセルマンさんは、6歳の時からタップダンスをしていたが、今一つ好きになれず、バレエに変更。「バレエは10歳から始めたが、踊るに連れて、大好きな気持ちが確信に変わっていった」と話す。手足が長くがっしりした体型のセルマンさんは、クラシックバリエーションはジゼル第2幕アルブレヒト王子を踊り、コンテンポラリーはマックレガーのYugenを披露した。レッスンではコーチに堅い動きを注意され、ファイナルでは特に柔らかく自由な表現をするよう心掛けたという。

今回のコンクールで審査員を務めたフリーデマン・フォーゲル氏は、セルマンさんは「芸術的感性と短時間で修正する情報の吸収能力から、将来の滞在的な可能性が高く評価された」とswissinfo.chに説明した。

田中月乃
ジゼルの第1幕を踊る田中月乃さん @gregory Batardon

2位を受賞したのは、現在スイス・チューリヒのバレエ学校に留学して2年目の田中月乃さん(17)。4歳からバレエを始め、10年前にローザンヌ国際バレエコンクールで優勝した菅井円加さんに憧れ、小さいころからの夢であるコンクールに出たいがために、チューリヒ・ダンス・アカデミーを選んで留学した。4日に行われた準決選では、クラシックを踊っている最中に転倒。諦めていたファイナリストに選ばれると、涙を流して家族や教師と喜んだ。決選では、とにかく転ばないように気を付けながらクラシックではジゼルの第1幕を、コンテンポラリーでは自分らしさを表現できるように努力しながらフリッツ・ハウザーのEchoを披露した。

Tsukino Tanaka
受賞式直後。田中月乃さん(右)に誉め言葉をかけるステフィ・シェルツァー氏(左) ©PDL

田中さんは受賞後、「信じられない。完璧ではないが、夢の舞台で踊れ、すごく楽しかった」と喜びを語った。田中さんは、スイス国籍またはスイス在住歴2年以上のダンサーが受賞可能なベスト・スイス賞も受賞した。同アカデミーの教師シュテフィ・シェルツァー氏は、「月乃は野心的で、『歩く』という単純そうに聞こえる難しい動きを、好きだと言ってひたすらやり遂げる忍耐力のある生徒。芸術的な能力は十分にあるから、もうこれでバレエ学校は卒業して、バレエ団に行くべき時だ」と力説する。田中さんの演技力が審査員に高く評価された。

ルチアナ・サジオロ
コンテンポラリー・バリエーションで、ゴヨ・モンテロ振付のサラバンドを踊るルチアナ・サジオロさん @gregory Batardon

3位を受賞したのは、5歳からバレエを始めたブラジルのルチアナ・サジオロさん(15)。審査員のオリバー・マッツ氏によると、「レッスンでは少し不安定で人より特段秀でている子ではなかったが、日ごとに改善が見られ、舞台に出ると照明と共に輝き始め、コンテで審査員を驚かせた」。サジオロさんは、プチ・ダンス・スクールの先輩である英ロイヤル・バレエ団のプリンシパル、マヤラ・マグリさんに憧れ、プロを目指しているという。

審査員らによると、今回のコンクールでは、出来栄えよりポテンシャルが高く評価されたが、上位3人の採点結果に大差はなかった。

コロナの影響

スイスでは、新型コロナウイルスのオミクロン株が猛威を振るい、1日あたりの平均新規感染者数が3万人を超える。だが医療機関への圧迫はないため、16歳以上の参加者や観客にはワクチンパス提示を義務付け、ローザンヌ国際バレエコンクール2022は対面式で観客を入れて実施した。昨年のコンクールはビデオ選考のみで、オンラインで開催された。

今回のコンクールには、15~18歳の39カ国の376人が応募。17カ国の81 人がビデオによる予備審査を通過し出場資格を得たが、その半数を日本・韓国・中国のアジア人が占めていた。そのため、コロナ感染が拡大し、渡航規制が厳しい主にアジア勢の参加や受賞に影響が及ぶことが懸念されていた。

コンクールの芸術監督兼最高経営責任者のキャサリン・ブラッドネー氏によると、陽性反応を示した2人が欠場。コロナ感染を懸念した中国の予選通過者3人が本選への参加を辞退し、アジア出身の審査員が来場できなかった。しかし、16カ国の70人が出場し、結果として参加者や受賞者への影響は少なかった。中国からの参加者5人のうちMingyang Xieさん(15)は4位に入賞した。

会場のボーリュ劇場は、今回の第50回目のコンクールを祝するため2019年から全面改装をしていたが、コロナによる影響で資材の納入が遅れて工事が間に合わず、2年前と同じモントルー・ミュージック&コンベンションセンター「2m2c」でコンクールを実施した。ボーリュ劇場は今年9月にオープンし、ローザンヌ国際バレエコンクールは来年2月の第51回大会で50周年を記念するガラを催す予定だ。

ローザンヌ国際バレエコンクールは競争というより教育の場で、ステージでの感触を味わう体験ができることから、審査員も参加者も対面式のコンクールの方が良いと口を揃える。コロナ感染の状況が落ち着けば、昨年9月から延期になっている日本予選も、今年10月に実現する見込みだ。

ローザンヌ国際バレエコンクール

正式名称はPrix de Lausanne(プリ・ド・ローザンヌ)で、才能豊かな若いバレエダンサーがプロの道に踏み出すことへのサポートを目的とし、スイス西部のヴォー州ローザンヌで1973年から開催されている。15~18歳の若いダンサーを対象にした世界最高の国際コンクールの1つで、若手ダンサーの登竜門とも言われる。現在カンパニーとプロとして契約中、または過去にプロ契約を結んだことのあるダンサーは参加できない。入賞者は、奨学金を受け取り希望するバレエ学校かバレエ団で1年間研修できる。

本選の第50回ローザンヌ国際バレエコンクールは、モントルー・ミュージック&コンベンションセンター「2m2c」で2022年1月31日~2月6日に開催。参加者はコンクール中5日間コーチの指導を受けた。4日に行われた準決選では、韓国6人、米国4人、オーストラリア3人をはじめとする20人が、ファイナリストに選ばれた。日本人は、現在スイスに留学中の高田幸弥さんと田中月乃さんの2人が選ばれていた。今回は、マーガレット・トレイシー氏が審査委員長を務め、9人の審査員が採点した。

入賞者

1位 Darrion Sellman(17)米国

2位 田中 月乃(17)日本

3位 Luciana Sagioro(15)ブラジル

4位 Mingyang Xie(15)中国

5位 Dorian Plasse(18)フランス

6位 Maya Schonbrun(17)米国

7位 Amy Ronfeldt(18)オーストラリア

ベスト・ヤング・タレント賞 Miguel Oliveira ブラジル

コンテンポラリー賞 Dorian Plasse フランス

ベスト・スイス賞 田中 月乃 

Web観客賞 Luciana Sagioroブラジル

観客賞 Yasemin Kayabay トルコ

日本人出場者名と所属バレエ学校

網干 慎太郎 Shintaro Aboshi (ロシア・ボリショイアカデミー)

原田 寿洋 Toshihiro Harada (愛里バレエスタジオ)

石川 瑛也 Eiya Ishikawa (ドイツ・パルッカ・シューレ・ドレスデン)

加藤 航世 Kosei Kato (シンフォニーバレエスタジオ)

升本 果歩 Kaho Masumoto (英国・イングリッシュナショナルバレエスクール)

中山 諒 Ryo Nakayama (フランス・カンヌ・ロゼラ・ハイタワー)

佐藤 凛 Rin Sato (無所属/教師:白瀬真希)

白神 真帆 Maho Shiraga (小池バレエ)

高田 幸弥 Sachiya Takata (スイス・バーゼル劇場バレエスクール)

田中 月乃 Tsukino Tanaka (スイス・チューリヒ・ダンス・アカデミー)

都築 空良 Sora Tsuzuki (大寺資二バレエアカデミー)

上田 咲月 Satsuki Ueda (エルムハーストバレエスクール)

(編集・ムートゥ朋子)

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