中国の「独身の日」セール、スイスにも拡大
シングルベル、シングルベル――。中国で11月11日の「独身の日」に展開されるネット通販の大セールが、スイスにも広がりを見せようとしている。ただ、専門家たちは懐疑的だ。
ハロウィーンはすっかり定着した。ブラックフライデーは3年前からスイスの消費者の間で恒例行事となった。一般的に文化的イベントは米国から輸入されるが、急速に発展する中国経済がそれに変化をもたらした。中国の恒例セールである独身の日が、今年は初めてスイスの小売店でも大々的に展開されるのだ。
クリスマス商戦にはブラックフライデー(11月23日)とサイバーマンデー(11月26日)のセールがあるが、今後はそれにもう一つ加わることになりそうだ。スイスのネット通販大手Digitec Galaxus外部リンクも今年初めて独身の日を取り込む。ただし規模は控えめで、セール対象のカテゴリーはあえて限定されている。
ちょっとしたシャレ
Digitec Galaxusの総合通販部門Galaxus外部リンクはこの大バーゲンを傍観する一方、PC関連製品通販部門Digitecでは「二~三つかみ程度の商品」がセールにかけられると、同社広報担当のアレックス・ヘンメルリ氏は話す。各セール対象品につき11点が大幅割引されるという。同社はこのセールを顧客コミュニティとの交流を促すための「ちょっとしたシャレ」と捉える。
「独身の日」はスイスではまだシャレの感覚だが、世界的にはネット通販で最大の売り上げを生み出す一大イベントだ。火付け役は中国のネット通販最大手アリババ。昨年はこの1日だけで254億ドル(約2兆8千億円)の最高記録を叩き出し、セール開始の最初の1時間だけでスイスの全ネット通販の年間売上額に達した。
そのためスイスの小売店がこのセールに飛びつくのも無理はない。アダルトグッズのネット通販Amorana外部リンクもその一つだ。「(独身の日という)テーマが弊社にぴったりだった。そこで、シングル向けの商品を特別価格で提供することにした」とルーカス・シュパイザー社長は話す。「独身の日は存在感を増しており、ネットで探す人も多い。そのため弊社もこの日にセールを企画している。独身の日から距離を置き、セールもしないのであれば、セールを期待した消費者を落胆させることになる」(シュパイザー氏)
従来の小売店にも独身の日を取り込む動きが出てきた。例えば百貨店チェーンManor外部リンクのオンラインショップは様々なカテゴリーで2割引きセールを行う。ペット関連グッズ販売店Qualipet外部リンクや、靴専門店Vögele Shoes外部リンクも独身の日セールを展開する。「このネット通販のトレンドを取り入れて、オンラインショップの売り上げを強化したい。特にお客様にはご自分へのご褒美として、この日に素敵なものを破格の価格で購入していただきたい」とVögele Shoesのアドリアン・グロースホルツ社長は語る。
「時代に合わせるしかない」
ホームセンターJumbo外部リンクも同様だ。「Jumboは今年2月にようやくネット通販を開始した。(独身の日セールで)その知名度を上げられるだろう」とJumboスイス法人のジェローム・ギルク社長は語る。同社のネット通販には現在2万点の商品があり、来年末までに6万5千点に拡大される予定だ。独身の日では全体的に割引するのではなく「典型的な男性向け商品を格安で提供する」(ギルク氏)という。
ところで、中国のイベントをスイスに導入する必要が本当にあるのだろうか?「時代に合わせるしかない」とギルク氏は話す。取り込むつもりがなければ、そのままでもいられるが、「3年前だったらスイスではまだブラックフライデーへの批判が強かった。しかし現在は皆がこのセールを展開している」(ギルク氏)。
将来的には他の小売店もセールを傍観できなくなるかもしれない。例えばネット通販のBrack.ch外部リンクは昨年初めてブラックフライデーに参加した。独身の日に関してはひとまず様子見したいと、同社のダニエル・ライ広報担当は話す。「この恒例セールがスイスの消費者の間で浸透するのであれば、弊社が後から独身の日を取り込む可能性はある」
一方、家電販売のInterdiscount外部リンクは独身の日から当分の間、手を引くことにした。昨年はスイスの小売店として初めて独身の日セールを展開したが、「早すぎた。このセールを展開したのは弊社だけで、ほかのどの小売店も取り込んでいなかった」と同社広報担当のアニータ・モリナロ氏は話す。「まずは独身の日が今年スイスでどう展開されるか見極めてから、その後の対応を決めたい」(モリナロ氏)
こうした中、専門家は最新のトレンドの輸入に懐疑的な眼差しを向ける。商取引に詳しい戦略コンサルティング会社Oliver Wyman外部リンクのノルダル・カヴァディニ氏は次のように語る。「(多くの実店舗が定休日となる)日曜に行われるため、対象が絞られたセールでも初めの年はプラス効果があるかもしれない。だがスイスでの独身の日に話題性がなくなり、セールのお得感が薄まる2年目以降は、問題が出てくるだろう」
つまり、セールをするなら年々規模を大きくしなければならなくなるとカヴァディニ氏は話す。具体的には大幅な値下げや、幅広い商品をセール対象にすること、セール期間の延長などだ。「同じことを単に繰り返すだけでは不十分。競合相手もとっくに同じレベルにいるだろうからだ」(カヴァディニ氏)
Eコマースのコンサルティング会社Carpathia外部リンクのトーマス・ラング氏も、独身の日セールはスイスで失敗すると考える。「ブラックフライデーに次ぐ二つ目の大売り出しセールがクリスマス商戦に加われば、かえって損失が出るだろう」
独身の日が世界的にずば抜けて売上高の大きいショッピングイベントであることに疑いの余地はない。だがそれはもっぱらアジアでのことだ。「利ざやをあきらめてまで私たちの文化圏に輸入しなければならない理由が全く分からない。重要なのは売上高ではなく、利益率だ」(ラング氏)
独身の日が始まったきっかけは、1990年代に中国の大学でアンチ・バレンタインデーとして行われたイベントだとされる。若い男子学生たちは自分たちがシングルであることを祝うため、独身者を意味する「1」が並ぶ11月11日にイベントを開催した。イベントは中国全土に広まり、パーティーやイベントが次々と行われるようになった。そしてこの日はシングルが自分にご褒美を買う日とされているため、近年はこのイベントに飛びつく小売店が増加した。アリババではすでにカウントダウンが始まっている。今年の一大商戦イベントでは過去最高額の売り上げが見込まれる。
(独語からの翻訳・鹿島田芙美)
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