開発援助を共同で 中国がスイスにラブコール
イメージ向上とノウハウ。中国が昨今ますます力を入れている開発協力の目的はこの2つだ。そして、中国はスイスとの接触も試みている。当のスイスはまんざらでもなさそうだ
今年1月、中国は3回目となる対外援助白書外部リンクを発表した。その中で、スイスと共同の3国間開発協力パイロットプロジェクトについても触れている。スイスは本当に中国と手に手を取り、共同で開発援助を行うというのだろうか。
連邦外務省(EDA/DFAE)はswissinfo.chの問い合わせに対し、中国担当当局との緩やかなつながりはすでに10年以上続いていると回答した。19年1月、スイスは中国の国家開発機関と覚書を締結。これは世界で初めて、そしてこれまでで唯一の覚書だ。
同省によると、イニシアチブを取ったのは中国だ。そして、スイスは第三国における中国との協力にオープンな姿勢を示している。「国際開発協力における中国の重要性が増している現在、スイスはこの対話に関心を持っている」
中国の開発協力予算は莫大だ。だが、実際の金額は不透明であり、貧困国への融資に関しても同様だ。中国を専門とする国民経済学者、セバスティアン・ホルン氏はこの点について、独語圏の日刊紙NZZに対し、最近次のように述べた。「中国は今や開発途上国や新興工業国にとり、公的機関として他国を大きく引き離す最大の出資者だ」
白書で触れているパイロットプロジェクトは、連邦外務省開発協力局(DEZA/DDC)と共同で計画中の東南アジアにおける寄生虫病撲滅プロジェクトを指しているものと思われる。同局アジアプログラムマネジャーのマルクス・デュルスト氏は、「メコン流域のビルハルツ住血吸虫症撲滅を目的とする共同プロジェクト案は、すでに17年にスイスに持ち込まれた」と説明する。「具体化の際には、バーゼルの熱帯研究所、上海の国立寄生虫症研究所、世界保健機関(WHO)が関与することになるだろう。だが、種々の理由から、このプロジェクトはまだ始まっていない」
両国の開発関連当局の協力体制を確立する取り組みがあることは、連邦工科大学開発協力センター(NADEL)のフリッツ・ブルッガー氏も認める。「通常は、中国の関係者が西側関係者に接触を試みる」。国家当局だけでなく、ジュネーブ大学やNADELにも直接連絡があったという。「こういった中国組織との協力に踏み込むかどうかは、まだまったく分からない」
一方、中国側はこの協力関係に満足な様子だ。在ベルン中国大使館は、「国際開発援助という分野における中国とスイスの協力関係は、すでにある程度の基礎が固められていると言ってよく、今後の発展に大きな期待が寄せられる」とコメントしている。
スイスに中国との協力は許されるのか
中国との開発援助協力はスイスのイメージに関わる問題であり、差し支えがまったくないわけではない。国内のNGOの見方は懐疑的だ。スイスの開発機関6団体で構成されるシンクタンク「南同盟(Alliance Sud)」のクリスティーナ・ランツ氏は、中国の開発援助は権力政治的な動機によるものであり、最貧国のためになることはほとんどないと批判する(記事末尾の囲みを参照)。
それでも、スイスと中国の協力を断固として排除するわけではない。「協力することで支援国間の調整を改善できるのなら、中国をもっと深く引き込むのもよいだろう。現地の貧困の減少や市民社会の強化に具体的なプロジェクトが実際に役立つのであれば、スイスが中国と一緒に援助プロジェクトを実行することに何の異論もない」
スイスは開発援助で中国と協力してもよいのか。ブルッガー氏にとっては、このように問うこと自体、すでに時代遅れだ。「中国が提唱し、主導したアジアインフラ投資銀行を例にとると、スイスは2016年の発足時からこの機関に加盟しており、中国と協力関係にある。つまり、中国との開発協力は特に目新しいことではない」
これまでの中国の手法
中国は今でも自国を開発途上国と見なしており、対外援助を「南南協力」と表現する。そして、アフリカの各政府が、西側諸国より中国の開発援助を歓迎することもまれではない。迅速で効率的、そして何より無条件で実行に移されるからだ。「中国は汚職や人権に関する条件を持ち出さない。そんなふうにあっさりとお金をもらえるというのは、独裁国家にしてみれば何とも魅力的な話だ」とランツ氏は言う。
ブルッガー氏も、このような中国の手法が受取国のメリットになっていることを認める。「西側との協力では多くの条件が課されるため、アフリカ諸国にとってやりづらくなってきた面がある。また、合意に先立つ交渉もときにはかなりの時間がかかる」
さらに、公正な立場で見れば、中国が非常に多くの投資をしていることも確かな事実だ、とブルッガー氏は補足する。中国は寛大な出資国の1つに数えられる。「外貨準備高の運用に多額の投資を強いられているからだ」
中国は、虚心であることが自国の強みだとしている。在ベルン中国大使館報道課はこれについて次のようなコメントを寄せた。「中国と受取国は互いに尊重し合う対等な関係にある。中国は他国の発展の仕方や内務に干渉せず、自国の意思を押し通すこともしない。また政治的な条件と結び付けることもなければ、政治的な自己利益につながる行動をとることもない」
敵手、中国
中国は人道援助にも非常に力を入れている。そして、西側諸国が自国民のためにコロナワクチンを買いあさる傍らで、中国は自国産のワクチンを南の発展途上国に提供している。
ブルッガー氏は、「ゼロ百議論」をしたり、中国を一方的に悪者にしたりする風潮に不服を唱える。「中国は何をするにしてもすべて自己利益やイメージ向上のためであり、内容の質も劣るというふうにばかり言われているが、このような見方は単純すぎる。それでは中国がどのように機能し、長期的にどのように考えているかということを理解する機会を逃してしまう」
ブルッガー氏にしてみれば、これは重要なことだ。「中国がやってきたのは留まるためであり、そう簡単に去ることはない。私たちはこの事実に応じた対処をしなければならない。そして、意義深い、実際的な協力体制を模索すべきだ」。在ベルン中国大使館は自国の長所を次のように表現する。「私たちは約束事を守り、いったん受諾したとなればそれを実現する」
中国の開発援助に対しては、次のような批判がある。
- 中国の開発協力の大半はアフリカ諸国向けの融資であり、これにより当事国の債務増加を助長している。中国はこれらの国々に意図的に負債を負わせ、最終的にインフラの所有者となったり国家財政を操ったりできるようにするつもりだと批判する向きもある。
- 中国は開発協力を通じて、権力政治的、地政学的、経済的な自己利益を追っている。
- 特に狙っているのが、アフリカの資材。
- 中国は経済促進と開発協力を区別していない。
- 中国は不透明だ。
- 中国は市民社会とでなく、政府や企業と協力している。
- 中国は受取国に対し、汚職や人権に関する条件を課していない。
- 中国はインフラを中心に投資しているが、建設には自国の労力を連れてくる。それらの労働者の中にはそのまま現地に留まる人もいる。地元の人々が雇用されたとしても、その労働条件は劣悪。
- 中国はインフラを建設するだけで、その後の運営やメンテナンスを考慮していない。
- 中国の製品や建造物は欠陥が多い。
在ベルン中国大使館はこのような批判に対し、次のように回答している。「受難と貧困の歴史を持つ開発途上国として、中国は他の開発途上国に共感を抱いている。我が国の動機に裏表はなく、隠蔽(いんぺい)すべきことも何一つない。この分野では、中国は受取国の現状も考慮に入れ、経験や技術を無条件で伝授している。発展途上国が独自の能力を向上させるよう支援することで、主体的かつ持続可能な発展を実現している。その際には言うまでもなく、環境に関わる要素も考慮している。ケニアのガリッサ太陽光発電所など、主な発展途上国における一連のクリーンエネルギープロジェクトの建設を支援しているほか、34カ国で提携プロジェクトを進め、気候変動対策に取り組んでいる」
(独語からの翻訳・小山千早)
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