アスリートのキャリア問題 スイスで新しい試み
平昌(ピョンチャン)五輪が9日、韓国で開幕し、スイスからは史上最多の171選手が出場した。だが、スポーツだけで食べていける選手はほんの一握り。そうでない選手たちは、両立が可能な仕事、トレーニングや遠征に理解のある勤め先が必要だ。そんなアスリートに優しい会社はどこだろうか。
平昌外部リンクに出場したカーリングのブノワ・シュワルツ選手(26)は昨年、カーリング男子世界選手権にスイス代表として出場し、銅メダルを獲得。週25時間を練習に費やす一流のアスリートだ。ただ、キャリアの形成からは遠ざかってしまっている。大学の学士号を持っているのに、だ。
シュワルツ選手は平昌に旅立つ前、スイス公共放送(SRF)に「仲間と比べると、自分にはスポーツがあったから同じ教育課程に時間が長くかかった。そして年を重ねた今、仲間は自分よりもいいキャリアを形成している」と語った外部リンク。
フレキシブル
重要なのは雇用主がフレキシブルであること。このためスイスオリンピック委員会外部リンクは人材派遣アデコグループと、ある称号を作った。その名も「アスリートに優しい会社外部リンク」だ。
スイスオリンピック委員会とアデコが共同で先月29日に始動させたこのプログラムは、トップアスリートのスキルや能力をスイスの会社にアピールし、雇用や職務経験を生むチャンスを増やすのが狙い。時間にフレキシブルなパートタイム職やインターンシップをアスリートへ提供する会社に称号を与える。
スイスオリンピック委員会のロジャー・シュネッグ会長は「アスリートは規律正しく、長期のプランニング能力や実行力をすでに持ち合わせている。負けることも、そこから這い上がってくる力もある。リスクもいとわない。そういう人材を企業は獲得できる」と利点を語る。
仕事の仲介はアデコが取り持つ。どこで働きたいか、どんな職務経験を積みたいかなどといった選手個人の希望を極力生かせる職場をマッチアップする。
シュワルツ選手のインターンシップ
この試みの第1号の参加者が、シュワルツ選手だ。五輪後の3月30日、航空会社スイス・インターナショナル・エアラインズでインターンシップを始める。
同社人事部のクリストフ・ウルリッヒ部長は、シュワルツ選手のインターンシップは始まりに過ぎないと話す。ウルリッヒ部長はSRFに「中期的にはプログラムを拡張し、インターンシップの募集を増やしたい。可能であれば、プログラムの一環で社員のポジションを作ることも考えたい」と語る。
スイスオリンピック委員会によると、アデコ、スイスエア以外では、スイス連邦鉄道(SBB)などが「アスリートに優しい会社」へ名を連ねる。
スイスオリンピック委員会のキャリアサポートを統括するヨスト・ハマーさんによると、シュワルツ選手のほか4人のアスリートが参加。今後10人に増える予定だという。
ハマーさんは、このアスリート向け学業・仕事両立プログラム外部リンクに参画する企業が増え、アスリートのキャリアを支援する企業ネットワークが広がると期待。ハマーさんは「称号はスイスのスポーツ界に貢献しているあかし」と話す。
仕事とスポーツの両立
スイスのトップアスリートは全員がスポーツだけで生計を立てているわけではない。経済誌フォーブス外部リンクによれば男子プロテニスのロジャー・フェデラー選手は昨年、6000万フラン(約70億4千万円)を稼いだとされるが、そんな選手はまれだ。2011年の研究外部リンクでは、スイスのトップアスリートで年収7万フラン(約800万円)を超えるのはわずか16%という。
専門家はそのためにも、長時間の練習や遠征に柔軟に対応してくれる仕事が重要だと指摘する。アスリートは、すでに30代前半で引退後の身の振り方を考えなければいけない。
スポーツと仕事を両立するダブルキャリアの支援外部リンクに力を入れてきたのは欧州連合(EU)だ。スイスのトップアスリートのキャリアを他国と比較した統計はないが、ハマーさんは、アスリートのキャリア支援プログラムが存在する国では、スポーツ選手の就職は難しくないという。ハマーさんは、スイスオリンピック委員会が始めた今回の取り組みはとても珍しいものだと話している。
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