「移住者に現金支給」スイス・アルビネン村に今秋第1号の移住者
人口減に悩むスイス南部ヴァレー(ヴァリス)州のアルビネン村が昨年、移住者1人に2万5千フラン(約275万円)を支給する奇策に出た。そのニュースは世界中で報道され、村には問い合わせが殺到した。そのアルビネン村に今秋、第1号の移住者がやって来ることになった。
ローヌ谷の上、標高1300メートルにあるアルビネン村は長らく人口減に頭を悩ませていた。このため村の若者たちが2017年11月、移住者に現金を支給するイニシアチブ(住民発議)を立ち上げ、住民投票で賛成多数により可決された。
村の人口は80年で100人近く減り、残った村民の半数以上が高齢者だ。空き家となった民家は貸し別荘に変わり、地元の学校は生徒不足で10年前に閉校した。村に残る学齢期の5人は毎日、バスで20分かけて近隣の村の学校へ通う。学校を再び開校できれば、移住希望の家族が増えるかもしれないー。住民たちはそんな期待を胸に抱いていた。
村の移住支援計画によると、現金が支給されるのはスイス人、あるいはスイスに永住権を持つ人で、アルビネン村に移住を希望する人、もしくは家の購入、改装、新築を決めた場合。大人1人当たり2万5千フラン、カップルなら5万フラン、子供は一人1万フランが支給される。
対象は45歳未満。10年間は村に居住しなければならず、規則を破った場合は支給金額を返金する。このほか不動産の購入・家屋の新築費用として最低20万フランを自己負担する。投資会社は応募できない。
問い合わせが殺到
住民投票でこの移住支援計画が可決されると世界中でこのニュースが報じられ、村に問い合わせが殺到した。スイス公共放送(SRF)によると、移住を希望しスーツケースを持って村に来た外国人もいた。ヴァレー州出身のヴェレナ・グラウザーさん夫婦も、実際に不動産を探しに村に来たカップルだ。もともと娘が家族全員でブラジルへの移住を望んでおり、ブラジル国内のアパートを探していたという。
ベアト・ヨスト村長によれば、村にはひっきりなしに問い合わせの電話がかかってきた。応対した村の職員は「応募資格があるのはスイスの定住許可証(C許可証)かスイス国籍のパスポートを持つ人だけ」と説明に追われた。
10月上旬に第1号の移住者
村によると正式に受理した申請は今のところ2件で、検討中のものがほかに3件ある。10月上旬には、スイス・アールガウ州在住の家族が第1号の移住者として村に引っ越してくる予定だ。この家族は子供が一人おり、まもなく赤ちゃんが生まれるという。家族は村内に住居を購入済みで、7万フランを受け取る。
ほかに受理されそうな申請者は全員、アルビネン村の住民とみられる。「2番目に承認されたのは、アルビネン村の住民の一人。現在古い民家の改装を行っている」とヨスト村長は言う。「アルビネンに住む若者たちからほかに3件のプロジェクトの提案が出ている。今年後半には寄付の申請が届く予定だ」
この移住計画の事業費は特別基金の財源を充てる。村も年間10万フランを負担することで合意した。移住者の枠は限られているが、村は今後5年間で5~10世帯を誘致したいとしている。
アルビネン村ってどんな所?
村は狭い石畳の道が入り組み、何世紀も前に建てられた古い家屋、教会が一つとお店が1軒建つ。欧州屈指のウェルネスセンター「ロイカーバート外部リンク」は村から約7キロメートルのところにある。ロイカーバートは10個の温泉風呂を擁することで知られ、俳優のチャーリー・チャップリン、文豪トルストイ、詩人ゲーテらがここの豊かなカルシウム硫酸塩泉に湯治に来たとされる。冬はスキーリゾートに変わる。
SDA-ATS/SRF/JH
(英語からの翻訳・宇田薫)
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