スイスの視点を10言語で

ドイツ・エンヴィオンのICO不正疑惑、スイスに波及

エンヴィオン社のロゴ
ドイツ・ベルリン発祥のエンヴィオンEnvion社は、マイニング事業を展開させるためにスイス・ツーク州に拠点を置いた Envion

ドイツを舞台に起きた1億ドル規模の仮想通貨の不正疑惑が、スイスにも波風を立てている。仮想通貨ビジネスに好意的なスイスの規制環境があだになった格好だ。

 疑惑の概要は、クリプト・バレー(暗号の谷)と呼ばれるスイス・ツーク州が望まない形で世界の注目を浴びるきっかけとなったテゾス財団の不正スキャンダルに共通する。今回の主役はドイツ人であり、紛争解決に当たっているのはベルリンの裁判所。だが問題になっているエンヴィオンEnvion外部リンク社が昨年10月、ツーク州バールに拠点を置いたため、スイスも無関係ではいられなくなっている。

≫スイスの仮想通貨大手、テゾスのスキャンダルとは?

 エンヴィオンはベルリン発祥の仮想通貨企業で、採掘(マイニング)ビジネスの拠点としてスイスを選んだ。その理由として、同社の最高経営責任者(CEO)マティアス・ヴューストマン氏は、ドイツなどその他の国々に比べ、仮想通貨業界に好意的な規制環境が整っている点を挙げる。

 今年初め、仮想通貨を使った資金調達「イニシャル・コイン・オファリング(ICO)」で投資家から1億フラン(約110億円)を集めた。移動可能なコンテナ型の採掘設備を開発し、太陽光など再生可能エネルギーを使ったマイニングを実現した。

競合買収

 エンヴィオンの創業者と元テレビ記者のヴューストマンCEOとの間で問題が浮上したのは、ICOが完了してまもなくのことだ。双方は互いに不正な行為をしていると非難し合い、投資家は購入したトークンが今後も価値を維持するのかどうか不安に駆られている。

 ミヒャエル・ルッコー氏ら創設メンバーは、ヴューストマン氏により株式保有率を81%から33%に減らされ、不法に同社の支配権を奪われたと非難する。ヴューストマン氏はその後、同氏の弁護士に株式の過半数を譲渡したとされる。創設者らはこの「策略」をベルリン裁判所に提訴した。

 ヴューストマン氏はスイスインフォの取材に対し、株式を譲渡したことになどについては否定しなかったが、それはICOによるトークン発行に不正の疑いがあることを見つけたためであり、正当化されると反論した。エンヴィオンのプレスリリースによると、創設者らは取締役会の承認を得ずに4千万通貨ものトークンを余分に発行したという。

 リリースは、「既に数百万のトークンが様々な仮想通貨に換金され、不特定多数の手に渡った。トークンの名目価値に基づくと、損失は4千万ドルに達する」と主張する。

投資家の犠牲者

 一連の騒動は、ベルリン当局とスイス連邦金融市場監査局(FINMA)の両方に報告されている。FINMAは「進行中の問題についてはコメントしない」と述べた。

 ベルリンを拠点とする創設者側の代理弁護士はスイスインフォに、ヴューストマン氏はトークンが余分に発行されたことを認識していたと主張。創設者側がトークンを無効にするよう求めたのに、ヴューストマン氏に無視されたと語った。
この「お家騒動」により、ICOによる資産を持つエンビヴィオン側と、移動型マイニング設備の技術に関する知的財産権を持つ創設者側との溝がますます深まっている。ICOで発行されたトークンの代わりに別の仮想通貨が発行され、投資家の手に渡ったトークンは無効になる可能性がある。

 コインマーケットキャップによると外部リンク、発行済みトークンは1通貨1ドルで取引されていたが、この騒動が生じてから大幅に値下がりしている。

人気の記事

世界の読者と意見交換

ニュース

自転車で遊ぶ子ども

おすすめの記事

スイス政府、国際養子縁組を禁止へ

このコンテンツが公開されたのは、 スイス連邦政府は29日、国外から子どもを迎える国際養子縁組を将来的に禁止する意向を表明した。虐待防止措置の一環としている。

もっと読む スイス政府、国際養子縁組を禁止へ
生殖治療の画像

おすすめの記事

スイス、全てのカップルへの精子・卵子提供を合法化へ 政府方針

このコンテンツが公開されたのは、 スイス政府は29日、生殖補助医療法を改正し、カップルに対する卵子提供を合法化する方針を発表した。政府はまた既婚・未婚問わず全てのカップルへの精子・卵子提供を解禁する意向を示した。

もっと読む スイス、全てのカップルへの精子・卵子提供を合法化へ 政府方針
研究施設で働くマスク姿の人

おすすめの記事

スイスに感染症情報解析センター発足

このコンテンツが公開されたのは、 感染症に関する情報を収集・解析する「病原体バイオインフォマティクスセンター(CPB)」が23日、スイスの首都ベルンに新設された。集約したゲノムデータを管理・解析し、スイスの感染対策を改善する役割を担う。

もっと読む スイスに感染症情報解析センター発足
茶色い除湿器

おすすめの記事

ETHチューリヒ、気候に優しい除湿機を開発

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)は10日、電気を使わない除湿器を開発したと発表した。壁や天井の建築材として、空気中の湿気を吸収し一時的に蓄えることができる。

もっと読む ETHチューリヒ、気候に優しい除湿機を開発
Xマークの画面

おすすめの記事

スイスでX離れ進む

このコンテンツが公開されたのは、 スイスで「X」から撤退を表明する企業や著名人が相次いでいる。

もっと読む スイスでX離れ進む
ベルジエ報告

おすすめの記事

「スイス銀行のナチス関連口座は再調査を」 歴史家ら提唱

このコンテンツが公開されたのは、 スイス最大手のUBS銀行の資料室には、第二次世界大戦中の行動に関する秘密がまだ残されている可能性がある――。過去にスイスの銀行と独ナチス政権とのつながりを調査した歴史家、マルク・ペレノード氏は、再調査の必要性を強調する。

もっと読む 「スイス銀行のナチス関連口座は再調査を」 歴史家ら提唱
整備中の飛行機

おすすめの記事

スイス航空の緊急着陸 客室乗務員の死因は酸欠

このコンテンツが公開されたのは、 スイスインターナショナルエアラインズ(SWISS)のブカレスト発チューリヒ便が先月オーストリアのグラーツで緊急着陸した後、客室乗務員(23)が死亡した事件で、死因は酸欠だったことが分かった。複数のスイスメディアが報じた。

もっと読む スイス航空の緊急着陸 客室乗務員の死因は酸欠

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部