エメンタール、グリュイエール、ラクレット。スイスチーズと合わせるならワインを、と思われるかもしれないが、たまには趣向を変えて、日本酒で楽しんではどうだろうか。まだ開拓の浅いこの組み合わせ、自分でマッチングを発掘する楽しみもある。スイス人をも唸らすチーズの日本人スペシャリストに、チーズの選び方を聞いた。
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2016年からスイス在住。17年にswissinfo.ch入社。日本経済新聞社で8年間記者を務めた。関心テーマは経済、財政、金融政策、金融市場。
「色々と食べ比べながら自分の舌で、感覚で新しい発見をしていく楽しみがある」。バーゼルで、様々な種類のチーズを楽しむ「チーズアペロ」を主催している美甘(みかも)奈津子さん外部リンクはこう話す。
美甘さんの本業はデザイナーだが、自他共に認めるチーズの専門家だ。2000年から7年間、東京都のチーズ輸入店フェルミエに勤め、欧州産チーズの知識を蓄えた。07年からバーゼルで活字書体のデザイン、タイポグラフィーを学び、いったん帰国した後、12年から再びバーゼルでパッケージなどのデザインを手がけている。
デザインの道に転じてからもチーズ愛が止むことはなく、身の回りの人を招いてチーズアペロ(「アペロ」は軽食会の意味)を開くようになった。チーズの特徴に始まり生産者や製法、合わせる食べ物について解説しながらチーズを味わう会で、スイス人すらその深い知識に驚くという。
そんな美甘さんが、チーズと日本酒の組み合わせに目覚めたのは最近のことだ。きっかけは5月、チューリヒの日本酒販売店shizuku Store外部リンクのワークショップに参加したこと。「それまでもチーズに日本酒を合わせてはいたが、品種や銘柄ごとの個性を踏まえ真剣に考えられたコンビネーションの良さに感動した」。
スイスチーズはかつてアルプスの長い冬を乗り切る保存食として作られ、サイズが大きいのが特徴だ。産地ごとの製法が代々引き継がれる一方で、約30年前に考案されたベルン州産ベルパークノーレ外部リンクのように、若い世代が作ったチーズがヒット商品になることも。美甘さんは「日本酒の世界にも通じるところがある」と話す。
ただスイスで入手できる日本酒は限られ、値段も張る。また日本で買うスイスチーズにも同じことが言える。美味しい組み合わせを効率良く見つけるにはどうしたらいいだろうか?
まずスイス国内なら、チーズ専門店に足を運ぶのが近道だ。チーズの専門家である店主(自身が作り手であることも)からより深い知識を得られる。「どんな人がどこでどうやってチーズを作っているのか。そんな想像をめぐらせながら食べるチーズは一段と味わいが増す」(美甘さん)。
チューリヒなど各主要都市には、旧市街に専門店があるほか、百貨店のチーズコーナーも品揃え豊富だ。都市部はもちろん、グリュイエールやエメンタールなど観光地化した土地なら英語が通じる。
この料理に合わせたい、など特別な希望を言えば、店員がお勧めのチーズを選んでくれる。だがどのようにお店の人に日本酒の味わいを伝えればいいのか。美甘さんがバーゼル中央駅前にある行きつけのチーズ店「MYLK外部リンク」で、買い方を教えてくれた。この店の品揃えはすべてスイス産。店主のゼルダー・ヘスさんが併設の工房で作った自家製チーズもある。
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スイスの都市や地方にあるチーズの専門店。住んでいても旅行で行っても、何となく敷居が高く感じる日本人は少なくないだろう。バーゼルに住むチーズの専門家、美甘さんの買い物に同行し、チーズの選び方・買い方を教わった。
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この日美甘さんが合わせようと考えたのは、shizukuなどスイスで手に入る日本酒「いくす 白」(稲田本店、鳥取県米子市)、「ヌーベル月桂冠」(月桂冠、京都県伏見市)、「白雪 江戸元禄の酒」(小西酒造、兵庫県伊丹市)の3本。ボトルやラベルに引かれたものだ。
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スイスチーズを日本酒と合わせるなら、和を取り入れたテーブルセッティングも楽しみたい。
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チーズを買う前の予測では、いくすは繊細な酸味と甘味があるためやさしい風味のチーズ、食中酒であるヌーベルにはニンニクの効いただんご型チーズ「ベルパークノーレ外部リンク」フレッシュタイプ、甘味の強い江戸元禄には熟成期間18カ月のエメンタールが合うと美甘さんは踏んだ。ヘスさんからは異なるチーズも勧められ、試食でお酒に合いそうだと確認。両方合わせてみることにした。
さて、合わせてみた結果は?試食アペロの参加者は、日本人もスイス人も大絶賛。美甘さんも大満足だ。「3皿目のチーズ・日本酒はともにインパクトが強いだけに、マッチングしたときの感動は大きかった」と話す。
では日本酒のスイス人スペシャリストは、どんなスイスチーズとの組み合わせを開拓しているのか。チューリヒで日本酒の専門店「shizuku Store」を営むマーク・ニデッガーさんは、3年ほど前からチーズと日本酒のペアリングを自ら考案。ホームページやワークショップで日本酒の楽しみ方を広めている。今回、スイスチーズに特化してお勧めの組み合わせを紹介してもらった。表中の風味・特徴はワインと同じように、ニデッガーさんが花やフルーツなどにたとえて表現したもの。
日本酒では、一緒に食べる料理の後味を流す「キレのある」お酒が好まれるが、ワインではむしろ余韻を楽しみ、食べ物と互いに後味を膨らませるものが評価される。ニデッガーさんが紹介するのも、どちらかといえば余韻の残りやすい日本酒だ。
ニデッガーさんは高校生で名古屋に交換留学して以来、大の日本ファンに。学生時代にも05年から1年間、早稲田大に留学し、日本酒に目覚めた。13年にshizukuのオンラインショップを立ち上げ、16年に実店舗を開業した。米NPO「Sake Education Council」の認定する「Sake Professional」も取得している。
ここで紹介したチーズは、残念ながら日本で入手しやすいとは言えない。スイスに旅行したときなどに探してみるといいかもしれない。
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スイス国民が2016年に食べたチーズの量は、一人当たり22.05キロで総計18万6756トン。スイスの農業団体が今月16日に発表した。
同年のチーズ消費量は、前年に比べ6千トン増えた(一人当たり2.6%増)。スイスでは年々チーズの消費量が増えているという。
とりわけ人気のチーズは、グリュイエール、アッペンツェラー、ティルジット、ラクレットチーズ、ヴァシュラン・フリブルジョワ。比較的値段の高い羊やヤギのチーズの人気も高まっているという。
農業団体によると消費されるチーズの種類に近年変化がみられているという。過去10年間ではフレッシュチーズやクワルクの消費が年間一人当たり1.6キロ増えた(25%増)一方で、セミハードチーズの消費量は490グラムの増加に留まり、ハードチーズの消費量は680グラム減少した。
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