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【南極海調査ブログ④】創意工夫で挑む南極のマイクロプラスチック調査

Ice bergs and sea ice
氷山と海氷 Gabriel Erni Cassola

マイクロプラスチック汚染を調べるための海水サンプルの採取は、理論的には比較的単純で、大量の水をろ過し、フィルターに残った粒子を分析するだけだ。だが、南大洋のような手付かずの環境での作業は、当初考えていた以上に複雑なことが判明した。

バーゼルの研究室の同僚らは昨年、南極海で採取した海水中にマイクロプラスチックを低濃度(2万5千リットル中に平均1個の割合)で検出した。だがその半分以上は、採取した際に混入した研究船ポーラーシュテルン号の塗料由来のものとみられると報告した外部リンク

これらのサンプルは、上から見ると巨大エイのマンタのように見える網「マンタネット」を海面に走らせる方法と、船上の海水供給ポンプを使う方法で採取された。塗料の破片はその両方のサンプルから見つかった。つまり、塗料は船から継続的にはがれ落ちていることが分かった。

南極大陸から2MBの調査記録

1日わずか2MB(メガバイト)⁉これは本連載の極地ブログ筆者が1日に使えるデータ上限量だ。この春、バーゼル大学のガブリエル・エルニ・カッソーラさん(右)とケヴィン・ロイエンベルガーさん(左)は、ドイツの砕氷船(さいひょうせん)「ポーラーシュテルン号」に乗り南極海に出た。マイクロプラスチックが南極大陸の動物や細菌にどう影響しているかを明らかにしたいと言う。このブログ連載では、この2人がその仕事内容と極地遠征隊の生活をレポートする。

今回の極地遠征で、私たちはより多くの海水からサンプルを採取する計画を立てた。ただし、ポーラーシュテルン号から出る塗料粒子の問題を回避するために別の方法を取った。それは「ムーンプール」という船の中央に設置された井戸のような「穴」を通じて海水を採取する方法だ。キール(竜骨:船底の中央縦方向に走る強化部材)の下から深さ11メートルの海水にアクセスできる。そこでシュノーケルを通じて船に接していない海水、つまり、塗料粒子が混入する確率が低い海水を採取する。この作業は、ムーンプールから海水を採取している他の乗組員たちと共同で行った。

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この新方式なら期待が持てる。ただ、私たちのホースと共同研究者のポンプをつなげる適切なアダプターを見つけるのが若干厄介だった。海洋科学の研究では、ぴったりはまるホースアダプターを見つけることが全て、という場面がよくある。

この方法で海水サンプルを採取できるのは海氷がない時に限られる。シュノーケルが海氷で破損する恐れがあるからだ。しかし、南極の晩夏で、嵐による遅れもあり、航路上には既にたくさんの海氷が現れていた。そのため、この方法で3回はサンプルを採取できたものの、その後は装置を解体し、前回と同じ海水供給ポンプを使う方法に切り替えざるを得なかった。

海水をろ過するフィルター
海水をろ過するフィルター

分析は船上では行わない。サンプルが汚染されるリスクが高いからだ。そのため、今回採取したサンプルと前回のものとの間に違いがあるかどうかは、陸地に戻らないと分からない。

私たちは海水中を浮遊するプラスチックにコロニーを作る微生物についても調べている。微生物は物質の表面にバイオフィルムと呼ばれる共同体(ぬるぬるとした膜で、水と接するあらゆる表面に形成される)を作るが、浮遊プラスチック表面のバイオフィルムは特に興味深い研究対象だ。なぜなら、集まると沈みやすくなるため、多くの微生物は外洋の水中ではできるだけ共同体を作らない性質があるからだ。

ところが、プラスチックは耐久性の高いいかだのようなもので、微生物がバイオフィルムを形成できる場所になる。外洋には通常、そうした場所はほとんどなく、あってもぽつりぽつりと点在する程度。その様子を思い浮かべると、プラスチック破片が浮遊する外洋が微生物にとっていかに希少で珍しく、新しい環境だということがわかるだろう。このような微生物の共同体形成についてのこれまでの研究の大半は沿岸部を対象としたもので、外洋で何が起きているのかはまだほとんど分かっていない。

私たちは、これらの共同体にどのような細菌が存在し、それらが共同体をどのように形成し、時間と共にどう変化するのかについて調べている。海面を浮遊するプラスチックをポーラーシュテルン号の船上実験室で再現するために、水槽にフレームを入れ、そこにプラスチックサンプルを取り付けた装置を作った(写真参照)。

船上実験室の装置
船上実験室の装置。絶えず海水を流しいれてプラスチック表面に付く微生物を培養する

この装置の水槽に海水を2週間流し続け、その間そこから3回サンプルを採取する。次に各サンプル中の細菌のDNAを分離して調べる。この作業により、これらの微生物共同体がどのように形成されるのか、それは南大洋の海域ごとに異なるのか、また大西洋などの他の海洋と比較して違いはあるか、などについての新しい知見が得られることを期待している。

英語からの翻訳:佐藤寛子

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