古紙をめぐる闘いに悩む製紙工場
古紙がただのゴミではなくなり、新聞や包装紙の製造材料として必要とされるようになってすでに久しい。価格の高騰により古紙の国際的な取り引きはますます活発化し、伝統あるスイスの製紙工場を苦境に追い込んでいる。
リサイクル界の争いは、ときには裁判にまで持ち込まれる。その元は首都ベルンの古紙だったりする。連邦行政裁判所は8月、ベルン市の住人が家の前に紐で縛って出す年間1万4千トンの古紙を今後扱う業者について、判決を下すことになった。
最終的に受注を認められたのはザンクト・ガレン州の企業ホイスレ・シュヴァイツ(Häusle Schweiz AG)社だ。地元ベルンの2企業、リサイクリング会社のアルパベルン(Alpabern AG)と製紙会社のウッツェンストルフ(Utzenstorf)は指をくわえてそれを眺める羽目になった。アルパベルンは1985年からずっとベルンの古紙を回収してきた。そしてウッツェルンストルフはそれを新しい紙に再生してきた。
ウッツェルンストルフの経営陣の1人アラン・プロプスト氏は「決め手となったのは価格だ」と言う。ザンクト・ガレンの会社はベルン市に対し、古紙1トンにつき90フラン(約9600円)を提示した。ベルンの地元企業がつけた値段より約10フラン高い。
去るもの日々にうとし?
古紙を回収する業者になるべくお金をかけまいとする自治体は増えるばかりだ、とプロプスト氏は残念がる。どのくらいの距離を運び、その後古紙をどうするのかということを一切聞かずに、金額を提示するだけだという。
ベルン市の廃棄・再利用分野を統轄し、古紙の回収を担当するヴァルター・マッター氏はこのような批判を認めない。「公募の際には追加の判断要素として、スイス国内で廃棄処理を行うよう求めた。ザンクト・ガレンの会社はソロトゥルン州の会社アーレパピヤ(Aarepapier AG)に古紙をもっていくと約束した」
アーレパピヤはトゥールガウ州に本社を置くモデルグループの傘下にある。アーレパピヤの広報担当は、ベルンで回収した原料がすべてソロトゥルン州に送られているかどうかは確認できないと言う。同社は包装用の厚紙を製造しており、必ずしも高品質の古紙を必要としているわけではない。しかし、原材料の調達が生産量に追いつかないため高価な古紙も使わざるを得ない、という説明だった。
だがこの後、モデルグループから、この広報担当の回答は引用しないようにという連絡が入る。
古紙や厚紙を新しい紙や包装紙に再生するリサイクルはスイスでは長い伝統であり、世界的な先駆者といえる製紙工場は複数存在する。古紙を再利用することで森には木が多く残り、他の目的に利用することも可能となる。森林にかかる負荷も軽減される。
紙の製造では古紙が平均5割を占め、消費者が紙という形で消費する木材の量は半減した。新聞紙を100%古紙で作っている製紙工場もある。
また再生紙はパルプ製紙に比べ、エネルギーを6割、水も7割節減できる。廃棄物の量や大気汚染も少ないことから、二酸化炭素(CO2)の排出も格段に減る。
再生紙用によく使われるのは古新聞や古雑誌。各家庭がまとめてひもで縛ったり、コンテナに入れて回収に出す。
スイス人は年間1人当たり160kgの古紙を回収に出す。再生率は82%と古紙回収では世界一。スイスで再利用されている150万tの古紙や厚紙の約半分は家庭から出る。
欧州全体では年間約6千万tが回収される。
(出典:再生紙+厚紙協会、ベルン。エコロジーと紙フォーラム、ハンブルク)
あっちに行ったり、こっちに行ったり
古紙はこの数年間で、やっかいなゴミから世界中で求められる原料へと発展した。その理由は、製紙機械の技術が発達し、より高品質の紙をより大量に製造できるようになったからというだけではない。東アジアで紙の需要が著しく増えているのだ。
中国だけで、欧州全体が1年間に集める6千万トンのうち約1千万トンを輸入している。世界第2位の経済大国中国は、輸出品の包装材料製造用の原料を探し求めているのだ。
価格が上がったことにより、古紙はスイスでも国中を移動し、外国へ持ち出されることも頻繁になった。
数年前まではスイスのほぼすべての自治体が、学校の生徒や協会などに路上の古紙を集めてもらっていた。その古紙は最寄りのリサイクル工場で処理された。今ではプロの廃棄処理業者を頼りにする自治体が増える一方だ。そしてその業者は、自治体との合意がない限り、最も利ざやの大きいところまで古紙を運んでいく。
スイスで出る約150万トンの古紙のうち、昨年は0.5トンが輸出された。だが、輸入した古紙も0.3トンある。
多額の損失
原料不足に悩んでいるのは、スイスの伝統ある製紙工場も同じだ。スイス最大の再製紙製造会社、ルツェルン州のペルレン・パピヤ(Perlen Paper AG)社は2012年、2480万フラン(約27億円)という莫大な損失を出した。主な原因は「欧州市場の過剰生産能力と、それにより新しい紙の価格が落ちたことだ」とミシェル・ゼゲッサーさんは言う。ゼゲッサーさんはペルレン・パピヤが属するCPHグループの広報部長だ。
もう一つ重要な要素として、原料の市場価格が高いことを挙げる。「必要量の半分近くは外国から輸入しているが、その値段は国内の古紙の倍近くする」
ペルレン・パピヤは今年も同額程度の赤字を見込んでいるが、将来への備えは万全だ。「わが社の製紙機器はヨーロッパの先端をいくものだ。この投資のおかげで1トン当たりの製造費がかなり落ちた。だが他社は、これからこのような大がかりな投資をしなければならない」
また他の製紙業者と異なり、スイス最大手のペルレン・パピヤは欧州市場の過剰生産にもかかわらず、現在も生産した分をすべて納品している。このこともあり、ゼゲッサーさんは自社の将来を楽観視する。「生産量を減らしたために機械を動かしていない会社もいくつかある。特に大手がそうだ。市場からは今年中に100トン以上が消えるだろう」
ウッツェンストルフの状況も緊迫している。プロプスト氏は「数字は公表しない」と言うが、2013年は非常に厳しい年になると語る。同社は紙リサイクルでは欧州の先駆けであり、自治体が回収する古紙の買い取り業者としてはスイス最大だ。スイスの各家庭が回収の日に家の外に積み上げる年間約60万トンのうち4分の1がウッツェンストルフへと運ばれ、新しい紙に再生される。
「これまで製造に必要な古紙のすべてをスイスでまかなってきた。しかし、別の業者を選ぶ自治体が出てきたことから、私たちも輸入に踏み切らざるを得ない」とプロプスト氏は目を伏せる。
(独語からの翻訳 小山千早)
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