スイスの農薬会社シンジェンタは、2016年に化学大手の中国化工集団(ケムチャイナ)に430億ドルで買収された
© Keystone / Gaetan Bally
スイス連邦政府は25日、外国企業によるスイス企業の買収をめぐる規制強化の基本方針を発表した。国有企業による買収を政府の承認制とする。中国企業による買収を念頭に、技術流出やセキュリティー上のリスクを防ぐ狙いがある。
このコンテンツが公開されたのは、
2021/08/31 14:23
政府案によると、外国の国有企業やそれに準じる投資家による買収は全て、業種に関係なく、連邦政府に申告し承認を受ける必要がある。
私企業による買収については、どの範囲に申告・承認を義務付けるかは未定。焦点の1つは、外国企業がスイスに置く子会社を、被買収企業の対象に含めるかどうかだ。
連邦経済省経済管轄局(SECO)が制度を所管する。来年3月までに詳細を詰め、連邦議会で法案審議する。
政府は新規制の目的を「公的秩序やセキュリティーが脅かされるのを防ぐ」とする。また国有・国営の外国投資家がスイスの資産を取得することで生じる競争の歪みを防ぐことにもつながるとした。
政府が懸念するのは、インフラサービスを提供する企業が破綻したり、スイス軍が特定の兵器メーカーに依存したりする事態だ。政府部門のITセキュリティーが特定のシステム業者に依存したり、データが漏洩したりすることも念頭に置く。
中国企業を警戒
買収規制を強化する動きは、2016年に農薬大手シンジェンタと機内食事業のゲートグループが相次ぎ中国企業に買収されたことに端を発する。スイスの技術が中国に流出したり、重要産業が中国に依存するようになったりするのを恐れる声が高まった。
スイス連邦議会は昨年3月、外国企業によるスイス企業の買収を承認制にする動議を採択。連邦政府は、承認制は費用対効果が悪く、既存の法体系で十分だとして反対してきたが、議会の圧力に抗いきれなくなった。
連邦政府は25日の声明で、「海外からの投資を広く受け入れることは、ビジネス拠点としてのスイスにとって中核となる政策で、国民の繁栄にとっても重要だ」と強調。開放的な政策は「スイス企業に多くの資本と知識をもたらし、価値の創造や雇用の維持・創出にもつながる」と釘を刺した。
おすすめの記事
連邦内閣、マルティン・シュレーゲル氏をスイス中銀新総裁に任命
このコンテンツが公開されたのは、
2024/06/27
連邦内閣はスイス国立銀行(SNB、中銀)の新総裁に予想通りマルティン・シュレーゲル副総裁を任命した。ペトラ・チュディン氏が新たな理事会メンバーとなる。
もっと読む 連邦内閣、マルティン・シュレーゲル氏をスイス中銀新総裁に任命
おすすめの記事
職場のワンコ、従業員の満足度を向上 スイス調査
このコンテンツが公開されたのは、
2024/06/26
犬は職場の雰囲気を良くし、飼い主だけでなく他の従業員にとっても良い影響を与える――スイスの労働者を対象に実施された調査は、職場に犬がいることの効用を強調する。
もっと読む 職場のワンコ、従業員の満足度を向上 スイス調査
おすすめの記事
スイスのアラン・ベルセ元内相、欧州評議会の事務総長に当選
このコンテンツが公開されたのは、
2024/06/26
25日に開かれた欧州評議会(本部・仏ストラスブール)総会で、スイスのアラン・ベルセ元内務相(52)が新事務総長に選出された。スイス人が同ポストに就くのは初めて。
もっと読む スイスのアラン・ベルセ元内相、欧州評議会の事務総長に当選
おすすめの記事
スイスでよくある賃貸住宅トラブルQ&A
このコンテンツが公開されたのは、
2024/06/25
スイスでは賃貸物件に住む人は人口の約6割と多く、欧州でもトップクラスだ。賃貸物件でトラブルが起きたらどうすればいいのか?スイスの賃貸法上のルールを解説する。
もっと読む スイスでよくある賃貸住宅トラブルQ&A
おすすめの記事
スイスの出生率1.33、過去最低を更新
このコンテンツが公開されたのは、
2024/06/20
スイス連邦統計局は20日、2023年の人口動態統計の確定値を発表し、2023年の合計特殊出生率は1. 33と、過去最低を更新したことがわかった。前年の1.39から最低水準を2年連続で更新した。
もっと読む スイスの出生率1.33、過去最低を更新
おすすめの記事
スイス中銀、1.25%に利下げ
このコンテンツが公開されたのは、
2024/06/20
The Swiss National Bank is lowering its key interest rate once again, from 1.5% to 1.25%, due to a fall in underlying inflationary pressure.
もっと読む スイス中銀、1.25%に利下げ
おすすめの記事
少年への有罪判決が増加 公務執行妨害・性犯罪など
このコンテンツが公開されたのは、
2024/06/19
スイス連邦統計局は18日、2023年に少年に対して下された有罪判決は2万3080件と、前年比11%増えたと発表した。特に15歳未満の犯罪は長期的に増加傾向にある。
もっと読む 少年への有罪判決が増加 公務執行妨害・性犯罪など
おすすめの記事
スイスが冒した「稀有なリスク」 平和サミットの舞台裏
このコンテンツが公開されたのは、
2024/06/18
世界中から100の代表団がスイスに集結した「ウクライナ平和サミット」。実行委員会トップとして参加国の招待や共同声明の草案作りを担ったスイス外務省のガブリエル・リュヒンガー氏が舞台裏を振り返った。
もっと読む スイスが冒した「稀有なリスク」 平和サミットの舞台裏
おすすめの記事
スイスでマイホームが賃貸よりお得に
このコンテンツが公開されたのは、
2024/06/12
スイスでは住宅ローン金利の低下と家賃上昇により、2025年初めには不動産を賃貸するより購入した方が安上がりになる――こんな見通しを銀行最大手UBSが発表した。
もっと読む スイスでマイホームが賃貸よりお得に
おすすめの記事
ジュネーブ住民投票、介護施設や病院での自殺ほう助を維持
このコンテンツが公開されたのは、
2024/06/10
ジュネーブの有権者は9日の住民投票で、高齢者介護施設や病院での自殺ほう助の選択肢を狭める保健法改正案を76.56%の反対で否決した。
もっと読む ジュネーブ住民投票、介護施設や病院での自殺ほう助を維持
続きを読む
次
前
おすすめの記事
シンジェンタの内側 相反する企業イメージ
このコンテンツが公開されたのは、
2018/10/09
18世紀末のごくささやかな誕生から、今やアグリビジネス業界世界最大手の一つに成長したスイス拠点の多国籍企業シンジェンタ。ここで人々はどんな働き方をしているのだろう。
もっと読む シンジェンタの内側 相反する企業イメージ
おすすめの記事
中国化工によるシンジェンタ買収、中国農業の「現代化を促進」
このコンテンツが公開されたのは、
2017/05/25
中国の国有化学大手、中国化工集団によるシンジェンタ(農薬世界最大手、スイス)の買収交渉が今月4日に終了した。中国企業による外国企業買収として 過去最高額での買収となる。シンジェンタは、中国の農業部門の現代化に寄与するが、同時に確固たる「欧州企業」としてのアイデンティティーを維持すると同社会長は話す。
シンジェンタのミシェル・ドマレ会長は英経済紙ファイナンシャル・タイムズに、同社は「中国政府のパートナーとなって中国の農業の現代化の原動力となり、大きな成長が見込まれる」と話した。
シンジェンタは今月5日、同社の株主が430億ドル(約5兆1600億円)での買収を承認したと発表。この買収計画が開始したのは1年以上前で、農家に種子と作物保護製品を供給する国際ビジネスで現在起きている、大規模な合併の波の一部だ。
中国は食品の輸入に大きく頼っており、中国の農業生産高は欧米諸国に比べて3〜4割低かったとドマレ氏は言う。アジア太平洋地域は現在シンジェンタの地域売り上げの約15%を占めるにすぎないが、売り上げ拡大の目標数値は設定されていない。「目標は農業を現代化し、生産高を増やすことだ」
もっと読む 中国化工によるシンジェンタ買収、中国農業の「現代化を促進」
おすすめの記事
スイス通信相 中国による企業買いあさりに懸念
このコンテンツが公開されたのは、
2018/08/14
ドリス・ロイトハルト通信相は、スイス紙とのインタビューで、中国企業がスイスの「戦略的に敏感な」企業を買収する可能性について懸念を表明した。
もっと読む スイス通信相 中国による企業買いあさりに懸念
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。