スイス連邦議会は今月、新型コロナ危機を受けた異例の規模の緊急経済対策を承認した。650億フラン(約7兆2千億円)にのぼる経済対策は世界でも有数の規模だ。
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新型コロナ危機は世界中のさまざまな業界を活動停止に追い込んだ。国際通貨基金(IMF)外部リンクは2020年の世界経済は3%縮小すると試算する。1930年代の「世界恐慌以来の大不況」で、08年の金融危機よりもはるかに深刻になるとみる。
経済協力開発機構(OECD)外部リンクによると、加盟する全37カ国が企業に対する何らかの経済支援を決定した。大半の国は危機により大きく収入の減った労働者への賃金補償も決めた。
これら経済対策の規模は異次元だ。投資週刊誌「バロンズ外部リンク」は3月末、全世界の経済対策は総額10兆ドル(約1070兆円)に達すると試算した。その後も新たな対策が矢継ぎ早に打ち出されている。
スイスは650億フラン
スイスでは5月4~8日に開かれた臨時議会で、緊急融資570億フランを含む連邦内閣提案の経済対策が承認された。経済対策としてはスイスで過去最大の規模だ。
連邦経済管理局外部リンクによると、連邦財政への影響は650億フランを上回る外部リンク可能性がある。操業短縮制度の補償金にさらに最大80億フランが必要になるとみられているためだ。
OECD平均を超える経済対策
国ごとの経済対策を比べるのは簡単ではない。一つには周辺状況が国ごとに異なり、政治の対応に影響する。例えば危機前からどのような社会的安全網が施されていたか、などだ。
また何を計算に含めるかにもよる。予測していなかった追加的な公的支出で返済不要のお金だけをカウントする国もあれば、いずれ返済が必要な融資や返済猶予も含める国もある。
きちんとした結論はないにせよ、IMFの分析外部リンクが一つの目安になる。スイスは財政措置に使った資産の割合が最も多い国の一つだ。
IMFの分析に基づいて、swissinfo.chは各国の国内総生産(GDP)に対する新型コロナ経済対策の割合を計算した。スイスはGDP比9%超で、OECD平均の6.8%を上回った。ただし、国ごとに感染状況も国の対応も異なり、優劣を比較することはできない。割合の高さは国による支援の手厚さを意味するものではない。
国民一人当たりでみるとスイスの経済対策は一人7500フラン(約83万円)と健闘している。ルクセンブルク(1万7500フラン)と日本(8400フラン超)に次ぐ規模だ。
各国を見渡すと、日本と米国は兆円規模の経済対策を打ち出した国の代表だ。米国では一定の収入制限つきで国民全員に直接給付金が配られ、巨額の財政支出になった。
日本の新型コロナ対策はIMF集計で117兆円を超え、GDP比は21%と世界のトップに立つ。国民全員に対する10万円の特別定額給付金外部リンクや、中小企業への持続化給付金外部リンクが総額を押し上げた。
欧州では20億フランを超える財政支出を決めたルクセンブルクの支援規模が目立つ。中小企業や自営業者向けの融資策も80億フランを超えている。
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(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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