スイスの重電大手ABB外部リンク(本社・チューリヒ)が電力システム事業を日本の日立製作所外部リンクに売却することが17日、正式発表された。スイスのドイツ語圏メディアは中核ビジネスを手放した後のABBが新体制をうまく整えられるのかどうか、厳しい目線を送った。
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2016年からスイス在住。17年にswissinfo.ch入社。日本経済新聞社で8年間記者を務めた。関心テーマは経済、財政、金融政策、金融市場。
ABBは送配電など電力システム事業で世界最大手。同部門を分社化し、同社株の約8割を約760~780万ドルで日立に売却する。残りの2割は当面保有し、3年後に追加売却するかどうかを2020年前半にも決める。
「電力網事業は数年前までは確かに問題児だったが、今は再び模範生に返り咲いている」。ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)外部リンクは収益の3分の1を占める電力システム事業の売却にこう疑問を投げかけた。
それでもABBが売却を決めた理由を、SRFは①電力システム事業のようなインフラ部門は利益の変動が大きい②第2の株主であるスウェーデンの投資会社セヴィアンが数年前から売却を迫っていた――と説明した。
ドイツ語圏の日刊紙NZZ外部リンクは、中核事業の売却により「新生ABB」が誕生すると描いた。利益率の小さい電力システム事業を売却し、将来性のある自動化・デジタル化事業に集中することで、「一挙にスリムになり採算をとりやすくなる」と好意的に報じた。
ただ売却益の使い道には批判的だ。ABBは17日の記者発表で、株の買い戻しなどで売却益を株主に還元すると表明し、持続的な配当増を目指すとも約束した。残りの株で配当や研究開発資金を生みだせる限り、売却益の再投資は考えていないという。NZZは「自動化・デジタル化は電力事業に比べれば資本は少なくて済むとはいえ、技術進歩で遅れをとらないためには常に新しいテクノロジーを開発する必要があり、それにはお金がかかる」と指摘した。
中核事業を切り離すことにより組織が「永遠に続く工事現場」になるとも警告。組織のマトリクス構造や各国の支社を再編するだけでも大仕事になり、特に電力事業は他の事業と密接・複雑に関わっていることから分社化の行程には長い時間がかかる。資産の再評価や特別損失の計上、リストラ費用も会社経営にのしかかると分析した。
ドイツ語圏の経済紙ハンデルス・ツァイトゥング外部リンクは売却の決断が「遅きに失する」と酷評。組織が高齢化しており巨大・複雑すぎ、各国の支社長の発言権が大きく、一方で本社の権力が強すぎるといった問題を抱えていたABBは、もっと早くに組織改革が必要だったと主張した。
同紙はABBの英語版の記者発表に「スイス本社は今後も合理化を続ける」との一文が挟み込まれていたことに注目し、「つまりチューリヒ本社でリストラが実施される」と予測した。
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最近のフラン高で競争力の低下を懸念したスイスの企業は、軒並みコストの安い海外に製造拠点を移した。契機は2015年1月、スイス国立銀行(中銀)が対ユーロ上限を撤廃し、ユーロが暴落したことにある。スイスの輸出業は打撃を受け、特に欧州市場は著しく影響を受けた。
生産拠点の海外流出を食い止め、国内企業が生き残りを図る頼みの綱は、最新のイノベーション技術だ。例えば人間と協働するロボット、生産ラインの欠陥を見つけるセンサー、全稼働部門を統括する高度なソフトウェアなど、それらが建設、組立から物流、発注に至るあらゆる部門で活躍する。
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