在宅勤務時の光熱費は誰が負担すべき?スイスの場合
新型コロナウイルス感染の第2波到来を受け、スイス連邦政府は先月末、国内の全従業員は再び可能な限り在宅勤務が望ましいと述べた。だが在宅勤務には法的・実務的問題が潜む。スイスはどう対処しているのか。
長らく日の目を見なかった在宅勤務制度は、新型コロナウイルスの感染が拡大した今年春以降、世界的に広がっている。連邦統計局によると、コロナ危機以降、在宅勤務をする国内労働者の割合は25%から50%に倍増した。
独経済研究所Ifoは、在宅勤務はウイルスの蔓延に対抗するための有効手段だと評価する。独ロベルト・コッホ研究所(RKI外部リンク)の感染データと在宅勤務の割合を比較したところ、在宅勤務の余地がある地域ほど、ウイルスの拡散が遅いことが分かった。
新型コロナウイルスが収束すれば、在宅勤務ブームも下火になるのだろうか?それはあり得ない―― 国際労働機関(ILO)はそう考えている。ILOは、今行われている在宅勤務の経験が、今後の働き方や働く場所に長期的な影響を与えるとみている。
このようなILOの予測を裏付ける調査結果は多数出ている。その1つ、オンラインビジネスネットワーク「Xing」が今年6月に人事専門家を対象に行った調査では、スイス企業の85%がコロナ禍後も在宅勤務やテレワークが可能だと回答した。
在宅勤務をする権利?
ただ、こうした考え方には実務的・法的問題が潜む。そもそも在宅勤務をする権利は存在するのか?雇用主は従業員に在宅勤務を強制できるのか?在宅勤務中の休憩時間の取り方はどうすれば良いのか?スイス雇用主連盟(SAV/USI)は最近、こうした疑問に対する国内向けガイドラインを作成した。
第一に、スイスには在宅勤務の権利が存在しない。雇用主の同意なしに在宅で仕事をした場合、労働法に抵触するリスクが生じる。つまりパンデミック(世界的流行)時に、リスクグループに属する従業員が出社を命じられることもありうる。ただその場合、雇用者は監督義務を果たし、従業員の安全を十分に確保する必要がある。安全の十分な確保も在宅勤務もできない場合、従業員は自宅待機が可能で、その間の賃金も全額保障される。法律事務所MMEはそう記述している。
スイス雇用主連盟によると、スイスには在宅勤務の義務というものも存在しない。ただMMEの弁護士は、パンデミック中の状況はこれと若干異なると反論する。従業員は「業務受託者としての義務を理由に、在宅勤務の指示に従わざるを得ない状況になっているのが現状だ」という。
議論の余地がないのは、労働法の法的枠組みが在宅勤務にも適用される点だ。雇用契約、労働法、労働協約は、在宅勤務においても順守しなければならない。つまり、休憩の権利のほか、夜勤や週末出勤のルールは在宅勤務でも適用される。
問題の核心 コスト
残る問題は、在宅勤務の費用を誰が負担するかという点だ。例えば在宅勤務中に発生する光熱水費は、雇用者側の負担になるのだろうか。世論調査機関gfs.bernの調査では、回答した従業員の3分の2近くが「そう思う」と回答した。
ところがスイス雇用主連盟の意見は全く違う。ガイドラインには、実質的に費用はすべて従業員側の負担だとある。例外はプリンターのカートリッジ代など業務に直接関連する費用で、領収書の提出が必須となる。
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労働組合の包括的組織トラバイユスイスは、一部の企業がこれを支出節約プログラムとして捉えてしまう危険性を既に感じているという。これを防ぐためには、従業員の自宅オフィススペースに対して手当を支給することなどが考えられる。節約は労使双方で均等に分配されるべきだという。
また、トラバイユスイスは、仕事とプライベートの境目があいまいになることが従業員の負担になる危険性もあるという。独健康保険会社AOKの調査によると、在宅勤務は仕事の満足度を高める一方、従業員の心理的ストレスの増加にもつながるという結論が出ている。
越境労働者
スイス雇用主連盟のガイドラインには、国境を越えて通勤する越境労働者に関しても興味深い記述があった。ある従業員について、スイスではない欧州連合(EU)加盟国内での労働量のパーセンテージが25%を超える場合は、該当国の社会保障制度の対象となり、それに応じた社会保険料を支払う必要がある、というものだ。
スイスの働き方
スイスでは正社員でもパートタイム勤務が可能。ここでいうパートタイム勤務とは、日本のアルバイトとは性質が異なる。スイスでは勤務時間はパーセンテージで表され、100%のフルタイムなら一般的に週40時間の週5日、パートタイムの80%なら週4日、60%なら3日働くというようなイメージ。
また勤務時間の半分以上を在宅勤務にしている場合は、居住地域の労働法が適用される。例えばドイツに住んでいるとしたら、ドイツの祝日である10月3日は仕事を休んで良いということになる。
同時に、国外に居住し在宅勤務をしている場合は、特に源泉所得税の控除など、自身の納税額に影響が出る可能性がある。
(独語からの翻訳・大野瑠衣子)
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