スイスの視点を10言語で

スイスフランの対ユーロ相場、上限設定時の1.20フラン下回る

ユーロ硬貨とフラン硬貨を乗せた天秤
フラン高の回避、不動産バブルの抑制、金融機関の健全経営――スイス国立銀行(中央銀行)は金融政策の正常化をにらみ、さまざまな要素を天秤にかけている Keystone

外国為替市場でスイスの通貨フランがユーロに対して軟調だ。19日に一時1.2002フランと、2015年1月以来3年3カ月ぶりに1.20フランの節目を割り込んだ。スイス国立銀行(中央銀行、SNB)が2011年9月~15年1月まで設定したフラン相場上限を下回ったが、市場ではSNBが金融政策の引き締めに向かうのはまだ先との見方が大勢だ。

 独語圏の日刊紙NZZはフラン安・ユーロ高の背景として、欧州景気が回復し欧州中央銀行(ECB)による金融政策の引き締め観測が広がり、ユーロが買われやすくなっているほか、米国の財政赤字拡大への懸念からドルが売られ、逃避先としてユーロにマネーが流れている面もあると指摘した。

 SNBのトーマス・ジョルダン総裁は19日、ブルームバーグの取材外部リンクに対し、「金融政策に関して取るべき措置は今のところ無い」と明言した。総裁はフラン相場の下落は「正しい方向」にあるとしながらも、世界景気はなお「もろい状況」にあると指摘。「SNBは慎重さを崩さない」と語った。

外部リンクへ移動

 SNBは11年9月、フランの対ユーロ相場に1.20フランの上限を設定し、上限を守るために無制限で為替介入する方針を発表した。欧州金融危機を背景に安全通貨のフランが上昇し、国内の輸出産業や観光業が打撃を受けていたためだ。だが15年1月には突如上限を撤廃し、フランが急騰した。今、約3年3カ月ぶりに1.20フランの節目に近づき、市場ではSNBの金融政策への注目が高まっている。

変動の激しい相場

 上限撤廃と同時に導入したマイナス金利政策は、不動産価格の上昇や、年金基金などの機関投資家が投資先を失うなどの副作用を生んでいた。このためSNBは金利の正常化の時機をうかがっているが、フランが再び高騰する可能性があり踏み切れずにいる。

 SNBは3月の金融政策決定会合後、「フランは引き続き過剰評価されている。為替相場を取り巻く状況はなお脆弱であり、金融環境は急変する可能性がある」として、金融政策を据え置いた。また、現在の金融情勢を根拠に「SNBのマイナス金利政策と必要に応じた為替介入は極めて重要だ」と強調した。

 連邦工科大学チューリヒ校景気調査機関(KOF)のアナリストは先月末に発表した直近の市場予想で、18年内の利上げはないとの見方を示した。イタリアなどの総選挙のほか、米国と各国との貿易闘争といった不安定要素があり、いつ再びフラン高が進んでもおかしくない状況だからだ。

 ECBが即座に資産購入策をやめるとの観測も薄い。欧州景気が堅調とはいえ、欧州連合(EU)加盟国のなかにはまだ景気に力強さを欠く国もある。ECBの量的金融緩和策は縮小に向かっているものの、ECBが利上げを決めるまで、SNBは身動きが取れないとの見方が多い。

おすすめの記事
スイス国立銀行(中央銀行)

おすすめの記事

スイス中銀、利上げは2019年半ばか

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの主要銀行の多くは、スイス国立銀行(中央銀行、SNB)による利上げの時期を2019年半ばと見ている。

もっと読む スイス中銀、利上げは2019年半ばか

swissinfo.ch/mga

人気の記事

世界の読者と意見交換

ニュース

笑顔で握手を交わす閣僚

おすすめの記事

2025年のスイス連邦大統領はカリン・ケラー・ズッター氏

このコンテンツが公開されたのは、 スイス連邦議会は11日、カリン・ケラー・ズッター副大統領兼財務相(急進民主党、60歳)を新大統領に選出した。新副大統領にはギー・パルムラン経済・教育・研究相(国民党、65歳)が選ばれた。

もっと読む 2025年のスイス連邦大統領はカリン・ケラー・ズッター氏
健康保険カード

おすすめの記事

医療費の高騰、依然としてスイス国民の最大の関心事 調査

このコンテンツが公開されたのは、 大手金融機関UBSが12日発表した調査「心配事バロメーター」によると、依然として医療費と健康保険料の高騰が最大の懸念事項だったことが分かった。環境と年金も懸念事項にあがっている。

もっと読む 医療費の高騰、依然としてスイス国民の最大の関心事 調査
連邦工科大学の校舎

おすすめの記事

スイス連邦工科大、留学生の授業料3倍引き上げ決定 25年秋学期から

このコンテンツが公開されたのは、 スイス連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)と同ローザンヌ校(EPFL)が、留学生の授業料をスイス人学生の3倍に引き上げ、2025年秋学期から1学期当たり2190フランにすることを決めた。

もっと読む スイス連邦工科大、留学生の授業料3倍引き上げ決定 25年秋学期から
ベツナウ原発

おすすめの記事

世界最古の原子力発電所、2033年に稼働終了

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの電力会社アクスポは5日、世界で最も古いベツナウ原子力発電所の稼働を2033年に終了すると発表した。33年までの運転継続にかかる追加事業費は3億5000万フラン(約600億円)を予定している。

もっと読む 世界最古の原子力発電所、2033年に稼働終了
アルコール検査

おすすめの記事

スイスのドライバー、2割が飲酒運転

このコンテンツが公開されたのは、 欧州など39カ国のドライバーを対象にした調査で、スイスでは2割超が飲酒運転をしたことがあると回答した。

もっと読む スイスのドライバー、2割が飲酒運転
銃口

おすすめの記事

狩猟中の事故で男性死亡 スイス西部

このコンテンツが公開されたのは、 先月29日午後、スイス西部ヴォー州で64歳の男性が狩猟中に死亡した。イノシシを撃とうとした 猟友会のメンバーに射たれた。

もっと読む 狩猟中の事故で男性死亡 スイス西部
サルコ

おすすめの記事

自殺カプセル「サルコ」運営団体代表が釈放 70日拘束

このコンテンツが公開されたのは、 今年9月にスイスで初めて使われた自殺カプセル「サルコ」について、連邦内閣は、当分の間、立法措置は必要ないとの見解を示した。サルコ運営団体は2日、身柄を拘束されていたフロリアン・ヴィレ代表が釈放されたと発表した。

もっと読む 自殺カプセル「サルコ」運営団体代表が釈放 70日拘束
金塊

おすすめの記事

スイス在住長者番付2024 トップはシャネルのオーナー

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの金融誌ビランツがまとめた長者番付2024年版によると、スイス在住の富豪トップに輝いたのは、仏高級ブランド・シャネルのオーナー家族の1人、ジェラール・ヴェルテメール氏だった。上位の顔ぶれはほぼ前年と同じだが、香料メーカーのフィルメニッヒ(Firmenich)創業家が初のトップ10入りを果たした。

もっと読む スイス在住長者番付2024 トップはシャネルのオーナー
ポイ捨てされた空き缶と小鳥

おすすめの記事

スイス、ポイ捨て「少ない」8割 アンケート調査

このコンテンツが公開されたのは、 スイス・ポイ捨て防止コンピテンスセンター(IGSU)の年次アンケート調査によると、「スイスでは多くのゴミが適切に処理されていない」と考える人は16%にとどまった。

もっと読む スイス、ポイ捨て「少ない」8割 アンケート調査

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部