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ドーハ・ラウンド 「糸口は見えないが交渉放棄はない」とWTO事務局長

自身の事務所でインタビューに応じるロベルト・アゼベド世界貿易機関(WTO)事務局長。6月3日撮影 Reuters

貿易を活発にし、途上国を支援することを目指したドーハ・ラウンド(多角的貿易交渉)は、交渉開始から15年経過したが、最終合意には至っていない。ブラジル出身のロベルト・アゼベド世界貿易機関(WTO)事務局長はスイスインフォのインタビューで、「最終合意がすぐに達成される見込みはないが、二国間協定が必ずしも多国間交渉に取って代わるわけではない」と指摘している。

週末のサッカーを楽しみにしているというアゼベド氏だが、月曜日から金曜日までほぼ1日中会議室にこもり、貿易協定の妨げとなる問題に対処すべく格闘している。

swissinfo.ch: スイスのジュネーブにWTOの本部があるという以外、スイスはWTOでどのような位置を占めていますか。

ロベルト・アゼベド: スイスは極めて積極的なメンバーであり、様々な面で有能かつ建設的だ。スイスの代表団は、サービス業と農業の分野で国際協定の交渉に関わっている。スイスの農業は極めて組織化された成熟した産業だ。スイスは、農産物供給におけるニッチ市場で非常に重要な位置を占めている。また、医薬品分野に加えて、特許や知的所有権を持つ工業製品やハイテク製品の分野でもスイスの果たす役割は大きい。

これら全ての分野で、スイスが交渉に加わる意義がある。極めて有能な代表団を持つスイスの存在感は非常に大きい。スイスはリーダー的な役割を果たしていると言えるだろう。

swissinfo.ch: リーダー的というのは?

アゼベド: 毎年1月にダボスで行われる世界経済フォーラム(WEF)に伴い、スイス政府が「小さな」閣僚フォーラムを主催している。「小さい」のは閣僚たち全員が参加するわけではないからだ。フォーラムでは、スイス政府に招かれた閣僚たち約30人が一堂に集まり国際的な視点で協議を行う。この点において、スイスはリーダー役を担っていると言える。

ジュネーブにあるWTOの建物は2013年に新しくなった。費用の一部はスイスが負担した Keystone

swissinfo.ch: ドーハ・ラウンドが近い将来、最終合意に達する見込みはありますか。

アゼベド: いや、当面は無理だろう。膠着状態を打開するための手がかりはつかめていない。だが、これは諦めたという意味ではない。前進するにはどうすればよいか、我々は常に考えを巡らしている。ドーハ・ラウンドで取り上げられるテーマは非常に重要なのだ。例えば農業補助金もその一つだ。

交渉を放棄することはできないが、(ドーハ・ラウンドが開始した)2001年に我々が思い描いていたような成果は得られておらず、今のところ糸口はまったく見えていない。

しかし、ここで繰り返し述べておくが、WTOイコール、ドーハ・ラウンドではない。ドーハ・ラウンドは我々の任務のごく一部にすぎないのだ。だが、長期間にわたってドーハ・ラウンドが各紙の一面で取り上げられた結果、WTOはドーハ・ラウンドと同一視されるようになった。実際にはWTOとドーハ・ラウンドは別のもので、我々がこれから協議を開始する案件の多くは、ドーハ・ラウンドとは関係ない。

swissinfo.ch: ドーハ・ラウンドの合意を妨げる最も大きな障壁は何でしょうか。

アゼベド: これまで実際に多くの変化が起きた。01年から08年までの間、交渉の中核を成していたのは、米国、欧州連合(EU)、日本、オーストラリア、ブラジル、インドだった。G6と呼ばれた国々だ。

我々は08年、合意の大枠を作るためジュネーブに結集した。その時、中国が初めて交渉のテーブルに着いた。言い変えれば、交渉は7年間、中国抜きで進んでいたということになる。その間に中国が世界の通商パートナーの主役になっており、交渉済みの事柄の多くがその意味を失ってしまった。

交渉の枠組みは今日の状況とはまったく異なる時代に作られたため、新しく作り直す必要があるが、その作業は困難なものだ。(今と昔で状況が大きく違うことが)交渉を難しくしている主な原因だろう。

swissinfo.ch: 世界情勢はそんなにも変化したのでしょうか。

アゼベド: 現在の貿易の流れは、量、質、内容、価格の全ての点で01年とはまったく違ったものになっている。この変化に対応するのは難しい。なぜなら政治における力関係が変わったからだ。

swissinfo.ch: 交渉を最初からやり直すべきでしょうか。

アゼベド: それは難しい。何年もの間に、交渉はある程度進んでいたからだ。交渉の成果を認める国は、そこに修正を一切加えたがらないが、反対の評価を持つ国は交渉の見直しを求める。そのため両者の間で常に摩擦が起きている実に難しい状況だ。

swissinfo.ch: すでにご指摘の通り、ドーハ・ラウンドがWTOの全てではありません。ドーハ・ラウンドとは関係のないWTOの枠組みの中で成立した交渉のうち、スイスや世界市場にとって有益なものは何でしょうか。

アゼベド: デジタル貿易、投資促進、漁業補助金の分野における交渉だ。それと同様に、中小企業関連の交渉も極めて重要なテーマだ。WTOは大企業のためだけに機能しているというイメージがあるが、それとは違った側面も持っている。

雇用を生み出す主役である中小企業の参加を促すべきだと私は考えている。労働者の9割が中小企業で働いている国もある。これはWTOのメンバーたちが口をそろえて述べることだが、世界貿易は中小企業にもその恩恵をもたらすべきだ。

swissinfo.ch: 現ブラジル臨時政権の外務大臣、ジョゼ・セラ氏は、WTOの枠組み内で多国間協定を結ぶ代わりに、二国間協定を結ぶ必要性を強調しています。この件についてどう思いますか。

アゼベド: セラ氏が述べたことは、厳密に言えば違う。セラ氏は、前政府が二国間協定や地域間協定の交渉を放棄していたと指摘し、これらの交渉を継続すべきだと言ったのだ。彼は、ブラジルは二国間や地域間の協定をないがしろにできないと考えている。私も彼の意見に賛成だが、WTOで行われる多国間交渉の中にも、ブラジルにとって重要な案件がある。

swissinfo.ch: 具体的には何でしょうか。

アゼベド: ブラジルの代表団は、WTOで積極的に活動してきた。例えば農業補助金は、ブラジルにとって非常に重要なテーマだ。この問題を解決できる二国間協定など存在しない。交渉は多国間でのみ可能だ。

ブラジルがこういった交渉を進めたければ、WTOが交渉の場を提供する。交渉の場は他にはない。WTOは、農業分野に関する交渉の舞台として必要不可欠な機関だ。

swissinfo.ch: 二国間交渉が可能なのはどのような場合でしょうか。

アゼベド: 例えば関税(削減)や市場開放など、大部分の案件については、恐らく二国間で協議を行う方が交渉はスムーズに進むだろう。しかし、貿易や投資の自由化などのルール設定に関しては、二国間では不可能だ。取り決めはWTOで行われるべきだ。つまり二国間、多国間双方によるアプローチが必要であり、それぞれが互いにもう一方の不十分な点を補い合うべきだ。

ロベルト・アゼベド(Robert Azevedo)略歴

現在58歳。工学を修めた後、1984にブラジルの外務省に入省。

ワシントンとモンテビデオの大使館に勤務後、ジュネーブのブラジル政府代表部にポストを得た。2008年以来、WTOのブラジル代表を務める。

13年5月、南米人として初めて、4年の任期でWTOの事務局長に選出される。

夫人は、ジュネーブでブラジル大使を務めるマリア・ナザレト・ファラニ・アゼベド氏。夫妻には2人の女の子がいる。

WTO

世界貿易機関(WTO)は、世界貿易を監視すると共に、その自由化を促す目的で組織された。

正式には1995年1月1日に発足。47年に始まった関税貿易一般協定(GATT)の終結に伴い、GATTを発展継承する形で、94年のマラケシュ協定を基礎として設立された。

現在162カ国がWTOに加盟。ジュネーブ本部の職員数は約600人。

ロベルト・アゼベドWTO事務局長は、2013年にバリ、15年にはナイロビで行われた二つの大規模な閣僚会議を指揮。両会議において重要な貿易協定が締結された。例えばナイロビで結ばれた協定の一つでは、農産物の輸出補助金が削除された。これは1995年にWTOが発足して以来、農業分野にもたらされた最も重要な改革であるとされている。

関税などに関する貿易交渉は、ドーハ・ラウンドで行うべきでしょうか?それとも二国間や地域間で行うべきでしょうか?ご意見をお寄せください。


(仏語からの翻訳・門田麦野 編集・スイスインフォ)

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