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女性の定年65歳、エイジレス社会ースイスと日本の年金改革案は?

ベンチで休む高齢女性
スイスで、女性の定年年齢が男性と同じ65歳に引き上げられる日は来るのか © KEYSTONE / GAETAN BALLY

急速に進む高齢化にどう対処するかー。スイスも日本も年金制度改革が長年の課題になっている。スイスでは女性の定年年齢や税率の引き上げをめぐる議論が再燃。日本の安倍晋三内閣は今年始め、年金の受給開始年齢を70歳以降に引き上げる案を打ち出した。

高齢化が進むスイス

 スイスでは少子高齢化が大きな問題となっており、年金の抜本的改革が待ったなしの状態だ。連邦統計局が2016年に発表した国勢調査によると、65歳以上の人口は全体の18%に上った。今後さらに増加し、2045年には約4人に1人が65歳以上になる見込みだ。

 平均寿命も男性が80歳、女性が84歳(日本は2015年時点で男性80.79歳、女性87.05歳)と上昇の一途をたどる。一方で出生率は1.5(日本は2015年時点で1.45)と、人口を維持するのに必要な2.1を下回る。

 年金受給者一人に対する就業者を見てもその傾向は顕著だ。1948年には1人を7人以上の就業者(20~64歳)が支えていた。しかし現在は3.4人に減り、ベビーブーム世代が定年を迎える2020~30年は就業者の割合が激減する見込みだ。連邦政府は「このままでは老齢・遺族年金の財源が2030年までに枯渇する」と改革の必要性を訴える。

3本の柱

 スイスの年金制度は日本とよく似ている。3本の柱で構成され、一つは国民年金(基礎年金)に当たる老齢・遺族年金(AHV/AVS)と障害者年金、二つ目は被雇用者が加入する企業年金、三つ目は任意の個人年金だ。日本の国民年金とスイスの老齢・遺族年金の財源は、いずれも保険料と税金から成る。

スイスと日本の年金制度
swissinfo.ch

女性の定年を65歳に引き上げ

ベルセ
3月2日の記者会見で年金改革の重要性を訴えたアラン・ベルセ連邦大統領 © KEYSTONE / PETER KLAUNZER

 スイス連邦内閣は3月2日、老齢・遺族年金の新たな制度改革案外部リンクを発表した。改革案の目玉は▽女性の定年年齢を男性と同じ65歳とし、改革施行後から毎年3カ月ずつ引き上げる▽付加価値税(VAT)を最大1.7%引き上げる▽年金受給開始年齢(現行は63~70歳)を62~70歳の間で選択可能とするーなどだ。アラン・ベルセ連邦大統領兼内務相は同日の記者会見で、女性の定年年齢引き上げにより約15億8千万フラン(約1770億円)が削減できると強調。付加価値税の税率引き上げが実現すれば60億フランの収入増が見込め、最低12年間は安定財源を確保できると述べた。

 定年引上げの対象となる国民には不均衡の緩和策を提示するという。ベルセ大統領はまた、企業年金改革の必要性についても触れた。

 ベルセ大統領はAHVや企業年金の制度が「スイスのより安全で公平、豊かな暮らしを支えてきた」として「だからこそ、国はこの社会保障を全力で守らなければならない」と訴えた。

昨年の国民投票では否決

 ただ、スイスでは似たような年金制度改革が昨年9月、国民投票で否決されたばかりだ。当時の政府の抜本的な改革案「老齢年金2020」は、今回と同じく女性の定年を段階的に65歳とすることや、付加価値税の0.6%引き上げなどを目指す内容だったが、支持は得られなかった。

 国民投票で否決されてもなお類似の改革案を打ち出した理由について、ベルセ大統領は「昨年の国民投票以来、年金改革の重要性はさらに増している。長期的な財源確保を目指すならなおさらのこと。この改革案の実現は政府にとって最優先事項だ」と訴えた。

 政府は今年中にも議会に改革案を提出する予定。しかし、国民の生活に直結する問題だけに、有権者の理解を得られるどうかは未知数だ。

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日本は「エイジレス社会」

安倍晋三
エイジレス社会の推進を目指す安倍晋三首相 AP Kyodo News

 安倍内閣が2月16日に閣議決定した新たな高齢社会対策大綱外部リンクでは、年金に関し▽受給開始年齢の選択幅(60~70歳)について70歳以降も可能とする制度変更を検討▽私的年金制度の普及・充実を促進ーなどの案が盛り込まれた。また、65歳以上を一律に高齢者と見なす認識のあり方を改め、全ての年代が活躍できる「エイジレス社会」を目指すと提唱。65歳まで働けるよう雇用の安定を図り、テレワークの普及啓発を進めるほか、高齢者向けの支援窓口をハローワークに設置して就労支援を行うとした。このほか65歳までの定年延長、65歳以降の継続延長雇用を行う企業への支援を充実させる。

 安倍首相は同日の高齢社会対策会議で「高齢者を含めた全ての世代が能力を存分に生かして幅広く活躍できる社会を実現することが重要だ」と強調した。年金の受給開始年齢を70歳以降でも選択可能とする制度については、来年度から厚労省で具体的な検討が行われる予定だ。

 厚生労働省によると、日本のシニア層の男性の就業率は60~64歳が74.3%、65歳以上が29.3%と国際的にも高い水準にある。経済開発協力機構(OECD)が加盟国の高齢者が実際に何歳で退職しているかを調べた調査外部リンクでは、日本は韓国、メキシコに次いで3番目だ。

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 シニア層がこれだけ長く働き続けるのは、老後の経済的な不安や年金制度に対する不信感も大きい。年金財源を支える現役世代への負担も増大の一途をたどる。

 今回の対策案はそうした現状を打開する一手となりえるが、懸念の声もある。立憲民主党の枝野幸男代表は今年1月、衆院の代表質問で「病気や貧困に苦しむ高齢者の切り捨てにつながることがないようにしなければ本末転倒だ」と釘を刺した。

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