富裕層、コロナ危機の「恩恵」を享受
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は他の危機とは異なり、富裕層に恩恵をもたらした。昨年、不動産・金融投資家には28兆7千億ドル(約3200兆円)の富をもたらした一方、富裕層と貧困層の格差は拡大した。
スイス第2の金融機関クレディ・スイスの2021年版「グローバルウェルスレポート」は「2020年の富の創出は、世界が直面している課題とはほぼ無縁だった」と述べた。
報告書では「驚くべきことに、2020年後半の株価は上昇傾向が続き、年末には過去最高水準に達した」と指摘。住宅市場についても「楽観論が広がった恩恵により、住宅価格は長年見られなかった速度で上昇した」とした。
報告書によると、世界中で500万人超が昨年、純資産100万ドル超の富裕層の仲間入りをした。
スイスの富は昨年末で前年比12.5%増の総額4兆7千億ドルに達した。ただこれは、フランが米ドルに対し10%近く上昇したことが大きな要因だ。世界の富は、昨年のパンデミックの影響で7.4%増の418兆3千億ドルとなった。
昨年1〜3月はパンデミックの発生で世界の株式市場が下落したため、富の状況は今よりもずっと深刻だった。同期間で17兆5千億ドルの富が失われた。しかし、政府や中央銀行の介入で市場は安定化し、同年の後半には回復した。
上位1%の富裕層に富が集中
スイス国内経済は昨年、過去45年間で最悪の景気低迷を経験したが、ようやくプラスの勢いへ方向転換したところだ。
クレディ・スイスは報告書で、世界で最も裕福な富裕層、つまり上位1%の人々へ富が集中したとし「極めて多い純資産を持つ成人たちが、富の総所有量と世界の富に占める割合の点で、ますます優位に立っている」と警鐘を鳴らす。
世界の富のうち、この富裕層が占める割合は2000年以降、35%から46%に上昇した。
昨年は、上位1%の富裕層の仲間入りにあたり、100万ドル以上の資産を保有していることが初めて条件となった。
不平等な分配
パンデミックによる不平等は、世界中に均等に広がっているわけではなく、最も裕福でない国が強い影響を受けた。
報告書では「多くの高所得国では、労働者や企業の収入の喪失が、緊急時の給付金や雇用政策によって和らげられた」とし「所得支援のない国では、女性や少数民族、若者などの弱者が特に影響を受けた」と指摘する。
世界有数の富裕国スイスは、人口1人あたりの億万長者の割合が15%と極めて高い。そのスイスでも、不平等の拡大という問題が懸念されている。パンデミックをきっかけに、富裕層と貧困層の格差や、社会のバランスを取り戻すための税制調整の是非について、社会的な議論が行われるようになった。
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