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対ユーロ上限撤廃から半年、スイス産業界で3万人の解雇か?

ベルンにある機械金属産業のラミネリ・マッテイ社は、フラン高に直撃された会社の一つだ Lamineries Matthey SA

スイス国立銀行(中央銀行)がスイスフランの対ユーロ上限を1月15日に撤廃してから半年。スイス企業は、フラン高で大きな打撃を受けている。雇用においては、さまざまな方法で対処してきたため、さほどの影響は出ていないが、これから年末にかけ多くの人員削減があると予想される。その数は3万人に上るという意見もある。

 半年前から、ロルフ・ミュスター社長の怒りは収まらない。「工作機械産業は、周期的に訪れる経済危機に慣れているとはいっても、今回は深刻だ。パイロットのいない飛行機に乗って、このまま行けば巨大な壁にぶち当たるというのに、誰もそれに気づいていないようなものだ」と、ジュラ地方の旋盤加工大手シャウブリン・マシンズのこの経営者は嘆く。

 スイス中銀の為替介入停止後に続いた突然のフラン高は、ミュスター氏の会社を直撃した。今年1月1日から5月31日の間に、同社の受注数は6割近く減った(昨年の売上高は4千万フラン(約52.3億円)だった)。「同じ状況におかれた多くの企業経営者の声を代弁している」と断言しながら、ミュスター氏は約10人の従業員を解雇し、35人の労働時間を短縮し、その分の給料を失業手当でまかなう「一時的失業」にしなければならなかったと話す。

 仮にこのまま1フラン=1ユーロあたりで変動が続けば、ミュスター氏は中期的にみて、現在120人いる従業員の半数の解雇を余儀なくされるだろう。「2009~10年の危機のときは、世界経済がいつかまた回復すると分かっていた。だが今回は、まったく見通しがつかないことが問題だ。ユーロに対してフランの価値が急速に下がるとも思えないからだ」と強調する。


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どのように革新するか?

 ミュスター氏の怒りは、スイス中銀のみならずヨハン・シュナイダー・アマン経済相にも向けられる。この危機の中にあってあまりにも消極的な態度を取っていると感じるからだ。「スイスメイド」の製品の競争力をさらに高めるためにイノベーション(技術革新)を促進するという政治家の「呪文」をこれ以上聞いてはいられないという。

 「通常であれば、売上高の約1割近くを研究開発に投資する。だが、売上高が半分に減った今、どうやってこの投資比率を上げろというのか。主な競争相手のドイツ人は私たちより『馬鹿』ではない。それどころか、彼らの売る機械は、ボルトをどれ一つ変えることなく、ある日突然15%も安くなった」とミュスター氏は不満を漏らす。

 こうした企業経営者たちの不安に対し、38万人の労働者が働く、機械・電気・金属産業連盟「スイスメム(Swissmem)」のフランス語圏支局長のフィリップ・コルドニエ氏も同じ感情を共有し、「この分野の大部分の企業が、スイス中銀の決定により、大きな打撃を受けている」と明言する。

 11年のフラン高に続く今回のフラン高による影響は、企業が迅速に行ってきた経費削減と、1月15日の上限撤廃以前に契約した注文のお陰で、現在までは何とかしのぐことができた。生産高の約8割を輸出に頼り、うち6割がEU圏内であるSwissmemの業界の中で、上限撤廃の3カ月後の間に職を失った人は「わずか」2千人だった。収入は下落傾向にあるものの、経済全体の成長の見通しはプラスのままだ。

3万人の解雇?  

 しかし、クライアントとの新しい契約の交渉を始める時期にあって、中小企業の社長たちの表情は決して明るくない。「今年の下半期の見通しは暗い。もし受注取り消しが確定した場合には、多数の解雇が行われるだろう」とコルドニエ氏はみる。

 「1ユーロ=1.05フラン辺りの相場が続けば、6~9カ月後におよそ3万人の労働者が解雇されるだろう」という見通しを、NZZの日曜版でスイス雇用主連盟のヴァランタン・ヴォクト会長は述べている。

 スイスの労働組合ウニア(Unia)の幹部、ピエールイジ・フェデーレ氏は、こう話す。「毎日のように労働者が解雇されている。今のところは、短期契約を更新しない、または退職者のポストに新しく人を雇わないといった方法で、どうにか切り抜けているため、失業率は上がっていない。しかし、中小企業の社長、特にジュラ地方の会社の社長たちは、かなり乱暴な解雇を考えている」

時計産業にも不安感

 機械・電気・金属産業がフラン高の影響を特に受けているとしても、この影響は他の分野にも広がるはずだ。今までフラン高に耐えてきた化学、医薬品、食品業界で最近、悪影響が出始めているとスイスのメディアは指摘する。

 時計産業は「スイスメイド」のラベルのお陰で、中国などの市場でここ数年高い収益を上げてきたが、それでもフラン高の影響による暗い影が差し始めているという。


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問題のない分野

 しかし、フランス語圏の精密機器業界の雇用主協会(GIM-CH)の会長、アントニオ・ルビーノ氏は、こうしたフラン高の影響を大げさには受け止めず、こう断言する。「われわれの協会に加盟する企業の4割が、今年初めの中銀の決定にかなりの影響を受けた。だが、他の4割はEU圏内から資源を輸入しているため、反対にフラン高の恩恵をこうむっている。残る2割の企業は目立った影響を受けていない」

 従って、パニックになる必要はないと、ルビーノ氏は続ける。「確かに、中銀のユーロ上限撤廃は、大きなショックだった。今後数年間、スイスにとって厳しい時期が続くだろう。しかしそれは多くの企業経営者にとって一つのチャンスにもなる。生産効率の悪いものを切り捨てるといった決断ができる。また私は、大規模な形で産業の空洞化は起こらないと考えている」


ギリシャ危機とスイス国立銀行の再介入

スイス国立銀行のトマス・ジョルダン総裁は、ギリシャ債務問題への懸念が高まる中、安全通貨として人気の高まるスイスフランの価値を低くする方向の為替介入を行うと、今週6月29日に発表した。

これは今年1月15日にスイスフランの対ユーロ上限撤廃を行って以来の介入になる。

ギリシャとEU諸国間の合意がまとまらない中、スイスフランへの投資が殺到するとみられている。従って専門家は、スイス国立銀行が他の対策を打ち出してくるとみる。「しかし、その対策が一時的に市場を安定させたとしても、永久的な解決策にはならないだろう」とUBSのチーフエコノミスト、アンドレアス・ヘーフェルト氏は話す。

またもう一つ可能な対策は、現在マイナス0.75%の政策金利をさらに下げることだとヘーフェルト氏は考えている。

(仏語からの翻訳・編集 里信邦子&由比かおり)

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