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対ロシア制裁でスイスの銀行が被る損失は

Moscow city centre at night
モスクワの夜景。ロシアの金融システムからは灯りが消されそうだ Copyright 2016 The Associated Press. All Rights Reserved. This Material May Not Be Published, Broadcast, Rewritten Or Redistribu

各国によるロシアへの制裁を受け、銀行や資産運用会社、年金基金は金融市場からのロシア資産の締め出しにかかっている。その結果、スイス金融業でも既にいくらかの損失が発生しているが、全体の損失額は未知数だ。

ロシアがウクライナに侵攻した当初、スイスは欧州連合(EU)の制裁に全面的に追随することに消極的だった。厳しい制裁が中立国としての立場を危うくする、というのがスイスの立場だった。だが米国やEU、国内世論の圧力を受け、スイス連邦政府は2月28日に一転してEUに足並みを揃えると決めた

3月4日にはロシアからの輸入を禁止し、ロシアの銀行を国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除するなど、金融活動に幅広い制限を課すと発表外部リンクした。

スイス銀行業界に詳しいエンゾ・カプート氏外部リンクは「スイスの銀行は2倍の手数料でも依頼してくるロシア人顧客を好んだ。今やロシア人は感染者か危険人物のように扱われている」と話す。カプート氏はスイスに資産を移したい富裕層への顧問業を営む。

カプート氏によると、スイスの銀行は今、ロシア人顧客との取引に疑心暗鬼になっている。その結果、資産を金に換えたりドバイに移したいと考えるロシア人が増えた。「制裁が科されたため、ロシア人はスイス人を信用しなくなった」。一方、ロシアの侵略がバルト3国にも及ぶことを想定し、スイスの銀行に資産を移したい3国の富裕層からの問い合わせが増えているという。

あるプライベートバンクの行員は「人々は怯えてパニックに陥っている。資産を守る方法についてアドバイスを求める顧客からの電話が多い」と明かす。「多くの弁護士やファイナンシャルアドバイザーが、リスク分散の手段を模索している。一部の顧客の身元を調査したところ、真の受益者はロシア人であることが分かったため、依頼を断った」

スイスに保全されたロシアマネー

EFG銀行のチーフエコノミスト、シュテファン・ゲルラッハ氏は、スイスの銀行にとって最大のリスクはウェルスマネジメントで管理されているロシアマネーだと指摘する。スイスには世界最大のオフショア資産(国外から預け入れられる資産)が流れ込む。

ゲルラッハ氏はswissinfo.chに「スイスという国はタックスヘイブンや独裁者の資産の逃避先として有名だったが、その恩恵を受けているわけではない。どの銀行も、制裁を厳守しなければ非常に大きなレピュテーションリスクや法的リスクを抱えることになると分かっている」と解説する。

スイス銀行協会は、国内の銀行が保有するロシア人顧客の資産は最大2千億フラン(約25兆円)に上ると推計する。だが制裁対象となるロシア資産の金額は明らかにしていない。同協会はガスプロムバンクとズベルバンクを会員から除名済みだ。

マネーロンダリング(資金洗浄)に関する金融活動作業部会(FATF)外部リンクからスイスへの圧力が高まる可能性もある。FATFは4日、実体のないペーパー企業の背後にいる真の受益者を突き止めるよう求める勧告を更新した。

FATFは各国に、真の受益者の登録制度を設けるよう助言しているが、スイスはこれまで否定的な態度をとってきた。トランスペアランシーインターナショナルやパブリック・アイなどのNGOは、FATFの勧告に従い方針転換するよう求めている。

ロシア投融資

スイスは富裕層の資産を管理するウェルスマネジメントの他にも、ロシアへの投資や融資などリスクのある資産を抱えている。ロシア企業の株価は世界的に実質無価値になっており、今後数週間から数カ月以内にデフォルト(債務不履行)や焦げ付きが発生する恐れがある。

UBSの抱えるロシア関連投融資残高は昨年末時点で6億3400万ドル(約750億円)、クレディ・スイスは17億ドルに上る。オーストリアのライファイゼン、フランスのソシエテ・ジェネラルやクレディ・アグリコル、オランダのINGなど多くの欧州銀行も多額の投融資を保有する。スイス最大のプライベートバンク、ジュリアス・ベアは「近年のリスク削減への取り組みの結果、この地域への投融資はあまりなく十分に管理されている」と表明した。

UBSやクレディ・スイス、ジュリアス・ベアはモスクワ支店の営業を続けている。ゴールドマン・サックスなど米国銀行はロシアからの撤退を決めた。

米国では世界最大の資産運用企業ブラックロックがロシア投資で170億ドルの損失を被った。スイスのUBSやピクテのロシア向けファンドも影響を受けている。ピクテに至っては、市場環境の悪化を受けてロシア株式の評価ができなくなったことで、ロシアに投資するファンドの運用を停止せざるを得なくなった。独立系の資産運用企業の動向は明らかになっていない。

総預かり資産残高15億フラン超のクラールスキャピタル(本社・チューリヒ)は、ロシアや東欧に特化した投資方針を撤回し、資産を分散し始めている。マネージングパートナーのジャンカルロ・グエッツ氏はswissinfo.chに対し「10年前の開業時にはロシア人顧客に強く依存していた。しかし今、事態は大きく変わった。ドイツやイスラエル、ポーランドが最大の急成長市場だ」と話した。

サイバー攻撃の脅威

スイスの年金基金の間では、最大の基金パブリカ(Publica)が1億7千万フランの損失を発表するなど、ロシア関連の損失を明らかにしている。コンサルタントグループのPPCmetrics(本社・チューリヒ)の推計によると、スイスの年金基金は平均で運用資産の0.3~0.5%をロシアに振り向けている。各基金は戦争開始以来の株価低迷からも損失を被った。

スイス年金基金協会の主任研究員、マイケル・ラウナー氏は「資産価値の急落や制裁に伴う取引制限で、年金基金は短期的に具体的な対応策を取れなかった」と話す。「だが(ロシアへの)投資はあまりなく、実質的なリスクはない。パニック売りは起こっていない。年金基金は長期的な視点で運用する主体であることに留意が必要だ」

ロシアが欧米諸国の制裁にどう対抗してくるかは未知数だ。金融機関はサイバー攻撃の脅威に備えている。

スイス証券取引所を運営するSIXグループのジョス・ディッセルホフ最高経営責任者(CEO)は今月初め、「戦争の直前から初期にかけ、サイバー攻撃が増えた。今は通常通り営業している」と語った。

ゲルラッハ氏は、サイバー攻撃の増加は「民主的ではなく権威主義的な指導者がいる国との取引は銀行業にとって危険が潜んでいることを示している」と指摘する。

(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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