「強制」を構成要件から除外 スイス、強姦の定義を変更
スイス連邦政府は10日、2024年7月1日から性犯罪に関する改正法を施行すると発表した。強制性交・強姦罪に関し極めて限定的だった定義を大幅に見直した。
スイスは「女性に対する暴力と家庭内暴力の防止と撲滅に関する欧州評議会条約(イスタンブール条約)」に加盟しているが、強制性交や強姦の成立に脅迫、強制、心理的圧迫を構成要件としていることを批判されていた。男性による女性への合意のない膣への挿入だけが強姦とみなされることも指摘されていた。
改正法では、強制が構成要件ではなくなった。また男女を問わず口、膣、肛門のいずれであっても合意のない挿入は強姦とみなされる。
女性の権利啓発活動を行うアムネスティ・インターナショナルスイス支部のシリエル・ユグノー氏は「性犯罪に関するスイスの改正刑法は、強姦罪の定義が非常に狭いなど性暴力被害者に不公平だった時代遅れの旧法と比較すると、非常に重要な転換点と言える」とswissinfo.chに電子メールで回答した。
「同意」という茨の道
改正法案を巡り、スイス連邦議会では「同意」の解釈で賛否が分かれた。国民議会(下院)は「Only Yes means Yes」型とも呼ばれる「肯定的アプローチ」、つまり自由意思に基づく積極的な同意がなければ性暴力に当たるという解釈を支持した。このモデルでは、消極性、沈黙、同意の欠如、あるいは抵抗があった場合は、同意とはみなされない。欧州連合(EU)の合計14カ国が同意の解釈に差はあれ、このモデルを採用している。中でも先進的なのがスウェーデンとアイルランドで、同意がなされた状況も考慮する。一方、ポルトガルとキプロスは依然、いくらかの強制を構成条件にしている。
一方、全州議会(上院)は厳格な拒否の意思表示、いわゆる「No means No」型を支持した。このモデルでは、被害者が口頭または行動で拒否の意思を示さなければならない。隣国のドイツとオーストリアはこのモデルを採用している。
欧州女性ロビーの政策キャンペーン担当者イレーネ・ロザレス氏は「『Only Yes means Yes』型あるいは『肯定的モデル』は、性的自律性と身体の完全性という人権の原則をより保護するものであることが証明されている」と話す。
スイス議会は最終的に「No means No」型を採用した。しかし、スイス政治の伝統「妥協の精神」(意見の異なる政党が中間地点で妥結すること)が作用し、改正法では被害者がショック状態にあったかが考慮されることになった。被害者が恐怖で茫然自失となり、拒否の意思表示や自己防衛ができない場合、強姦、性的暴行、強要罪が成立する。
アムネスティ・インターナショナルのユグノー氏によれば、この妥協案は「Only Yes means Yes」型には及ばないが、法学的には位置付けがかなり近い。
「裁判では『Only Yes means Yes』型に基づく処理とほとんど変わらないだろう。しかし予防措置にとっては明らかに機会の損失だ。セックスには常に関係者全員の同意が必要であり、このことを人々の心に植え付ける必要がある」とユグノー氏は話す。
強姦を巡るEUの解釈
欧州連合(EU)加盟国で解決策を求められているのはスイスだけではない。欧州委員会が昨年3月(国際女性の権利の日)、強姦などの性犯罪に関するEU全体の規則を統一するよう提案した際、強姦の定義が議論になった。しかし12月に行われた欧州議会、欧州委員会、欧州理事会の三者協議では合意に至らなかった。
欧州議会と欧州委員会はともに「Only Yes means Yes」の採用を支持。欧州理事会ではベルギー、イタリア、スペインが賛成したが、ハンガリー、ポーランド、フランス、ドイツを含む17カ国が反対した。
編集:Virginie Mangin、英語からの翻訳:宇田薫、校正:大野瑠衣子
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