新型コロナ危機が起きる前、スイスの人口の8%は貧困にあり、100万人以上が最低限の生活を営むのに苦労していた。コロナ危機はこうした人々を生存の危機に追いやっている。
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その様子は世界中の注目を集めた。英ガーディアンや米ニューヨークタイムズ外部リンク、フランス国際ラジオ(RFI)外部リンクなど国際メディアもそれを報じた。5月9日、世界で最も豊かで物価の高い町の一つジュネーブで、数百人が20フラン(約2200円)相当の食事を無料でもらうために数キロにわたる長蛇の列をなしていたのだ。前の週にも同じ光景がみられた。
ジュネーブは豊かな州だが、社会経済的には大きな格差がある。コロナ危機が始まって以来、食料配給に頼る人の数は4倍に膨らんだ。コロナ危機は一部の国民が立つ生活基盤の弱さを露呈した。一夜にして収入の一部または全てを失ってしまったのだ。
食糧配給を主催したのは非政府組織(NGO)「国境なき医師団」とジュネーブ大学病院(HUG)。配給時に行ったアンケートによると、配給に預かった人の半分以上は法的な地位を持っていなかった。また3分の1以上は生活保護受給者だった(スイス国籍者、滞在許可証を持つ住民、難民申請者)。
HUGの医師フランソワ・シャピュイ教授はフランス語圏のスイス公共放送(RTS)で、配給には様々な国の出身者が並び、多くは育児や家事などの家政婦の仕事に就いていると語った。こうした不安定な仕事は、政府によるコロナ封じ込め策で打ち切られた。アンケート回答者の多くはシングルマザーだった。スイスの国籍を持っている人も少なからずいた。
アンケートからは、配給に並んだ人の生活状況がいかに脆いかを物語る。回答者の6割は強制加入のはずの医療・事故保険に加入していなかった。不法滞在者ではそれが9割近くにのぼった。10%超は過去2カ月間、何らかの治療を受けるのを諦めていた。
困窮がさらに深刻に
コロナ危機に見舞われる前から、スイスでは数十万人が貧困や不安定な生活に直面していた。スイス連邦統計局によると、2018年は約66万人(人口の約8%)が貧困状態にあり、100万人以上、つまり国民の7人に1人は貧困の一歩手前にあった。
統計局によると、スイスには働いているのに最低限の生活以下で暮らす「ワーキング・プア」が13万人を超える。5人に1人以上は、予想外に発生した支払い2500フランを手当てするのに十分な経済手段を持たない。
一人親、長期失業者や不法滞在者など社会の隅に暮らし困窮していた人々は、コロナ危機が始まると同時にカリタスなど慈善団体に頼るようになった。カリタスにはこの2カ月、支援を求める声が急増している。一部の地域では2~3倍に増えているという。
自営業者にもダメージ
だがコロナ危機は社会・経済的にうまくいっていた人たちにもダメージを与えた。約200万人が対象となった操業短縮制度で収入が減り、「これまでも収入が少なかった人々が際どい状況に陥る可能性がある」とカリタス広報のファブリス・ブーレ氏は話す。
小規模の自営業者の中にも、危機の影響で収入がなくなり、十分な貯えもなく危うい立場に陥っている人がいる。一部はカリタスにつなぎ融資を頼まざるを得なかった。連邦政府は影響を受けた人全員に緊急融資を約束したが、ブーレ氏は政府支援を待っていたのでは借金地獄の回避に間に合わない、と話す。
連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)とHECローザンヌが4月に実施したアンケートによると、スイスの60万人の自営業者のうち3分の1が生存の危機を感じている。
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