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2022年9月25日の国民投票

標的にされたスイス農業 環境との戦いは続く

ヴォー州のジュー渓谷。2022年夏の異常な干ばつは家畜も苦しめた © Keystone / Jean-christophe Bott

25 日の国民投票で、スイス有権者は家畜を大量・密集して飼育する「集約畜産」の禁止を呼びかけたイニシアチブ(国民発議)を否決した。過度な負担増を懸念する農家の声に有権者が味方した格好だが、食料と気候変動の問題に対する消費者の目は紛れもなく厳しくなっている。

スイスの農家は一息ついたことだろう。国民投票では6割超が集約畜産の禁止案に反対した。投票に向けたキャンペーン運動は、2021年6月に国民投票にかけられた化学合成農薬の使用禁止案ほど激しく感情的な盛り上がりはみせなかった。それでも賛成・反対派が繰り広げる論戦には既視感があった。

複数の反種差別団体が立ち上げ環境保護団体の支援を受けた集約畜産禁止イニシアチブに対し、スイス農家たちは共同戦線を張った。集約畜産に反対する農家は少数派で、その声はなかなか聞き入れられなかった。中には報復を恐れて沈黙を守る者もいた。

農薬や牛の除角禁止、持続可能な食品など、農業をテーマとした最近の国民投票と同様に、スイス有権者はまたも農家の利益を保護するスイス農家組合の主張に賛同した。

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疲弊する農家

ウクライナでの戦争、食料不足への懸念、インフレ。新しい「実験」をするには強い逆風が吹いたことも、イニシアチブ反対派に有利に働いた。消費者である有権者は、食べ物を選ぶ際に選択肢があり、手ごろな価格でも買える状態を望んでいる。これまでの投票と同じく、有権者の共感を得たのは「外国との競争が不利になる」という主張だった。農業ロビー団体は、スイスでの経営条件が厳しくなるたびに「質の低い輸入食品に門戸を開くことになる」と反対論を繰り広げてきた。

25日の投票でイニシアチブは大差で否決されたが、スイス農家が負う傷は決して浅くはない。農業に詳しいヌーシャテル大学のジェレミー・フォーニー外部リンク助教授(民俗学)は、「農家はうんざりしている。常に自身を正当化しなければならず、農業を理想化し食べ物に対する要求がますます厳しくなる都市住民から不当に『毒殺者』『動物虐待』と突き上げられる」と話す。

スイスの政治制度では、農薬や牛の除角に関するイニシアチブのように、個人や小さな団体でも過激な内容のイニシアチブを立ち上げることは比較的容易で、幅広く政治的賛同を得る必要もない。「農業は標的にしやすく、広範・複雑な問題の全責任を取らされることが多い。消費者の自由は神聖で侵すことができないため、代わりに農業に大きな制約を課そうとする」(フォーニー氏)

被害者であり加害者

スイスは保守派・右派が過半数を占めるとはいえ、国民の共感を維持するには農業も進化し続けなければならない。フォーニー氏は「肉を食べるのを止めるよう提唱するのは強硬派のビーガンだけではなく、科学者や政治家も支持している。農業団体はもはや単純な議論だけで自己弁護を続けることはできない。自ら代替案を示し、開かれた対話をしていく必要がある」と指摘する。

2022年夏は記録的な干ばつとなった。山の牧草地は干からび、飼料が不足した農家では飼っている牛の一部を犠牲にしなければならなくなった。異例の干ばつはスイス国民に大きな衝撃を与えた。

一方で、乾燥と灼熱に苦しんだ牛たちは、強い温室効果を持つメタンガスを大量に生成し地球温暖化への影響が最も大きい家畜でもある。

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集約畜産禁止案の賛成キャンペーンでは動物の福祉が前面に押し出されたが、家畜による温室効果ガス排出も議論の対象となった。飼料となる大豆もブラジルの熱帯雨林を破壊して栽培されるという問題も指摘された。

今回の投票はエネルギー危機という目の前の課題に押された格好になったが、農業が気候・環境に与える影響が政治の舞台から消えることはない。今後数年、同種のイニシアチブが入れ代わり立ち代わり出現することはほぼ確実だ。フォーニー氏は「時に緊迫をもたらすものの、スイス国民が農業問題にこれだけ関心を持つようになったのは良いことだ。新しい農法を試し、消費者に手を差し伸べようとする新世代の農家も登場している。農業は投票を通じて得た国民の支持を活かすための手段を全て備えている」と解説する。

消費者は意見表明の機会として次なる国民投票を待つ必要はない。日々の買い物の中で、どのような農業をサポートしたいかを決められるのだから。

編集:Balz Rigendinger、独語からの翻訳:ムートゥ朋子

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