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「欧州便は飽和状態」ジュネーブ空港CEOインタビュー

2016年からジュネーブ空港の最高経営責任者(CEO)を努めるアンドレ・シュナイダー氏 © Keystone / Salvatore Di Nolfi

スイス第2の主要空港、ジュネーブ空港のアンドレ・シュナイダー最高経営責任者(CEO)は、同空港の旅客数が今後数年は伸び悩むと予想する。欧州大陸ネットワークは飽和状態に近く、増便ではなく空港サービスを改善する必要があるとみる。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる停滞期を経て、ジュネーブ空港は通常の輸送水準と売上高を回復した。スイスインターナショナルエアラインズ(SWISS)と英格安航空会社(LCC)イージージェットのハブである同空港は、航空輸送の再開とこれらの航空会社の輸送ネットワークの恩恵にあずかり、2022年は4630万フラン(約77億円)の利益を計上した。

ジュネーブ州の公営企業であるジュネーブ空港ではこの夏、成長見通し鈍化に伴う給与体系変更をめぐり、職員がストライキを起こした。swissinfo.chは、同空港CEOのアンドレ・シュナイダー氏に話を聞いた。

元プロのミュージシャン。その後ジュネーブ大学でコンピューター・サイエンスの博士号を取得。IBM勤務を経て世界経済フォーラム(WEF)に10年間在籍。マネージング・ディレクターと最高執行責任者(COO)を務めた。

また、連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)の資源・インフラ担当副学長を3年間務めた。2016年、ジュネーブ空港の最高経営責任者(CEO)に就任。

swissinfo.ch: 休暇は普段どこに行きますか?

アンドレ・シュナイダー:以前、WEF(世界経済フォーラム)に勤めていたときは移動ばかりでしたね。なので、今一番好きな場所はバイクで回れるところです。アルプスや(ドイツの)シュヴァルツヴァルト、ノルウェーの大西洋沿岸などですね。

swissinfo.ch:2つの公的セクター(WEFと連邦工科大学ローザンヌ校=EPFL)で上級管理職を務めましたね。ジュネーブ空港がこれらと異なるところは?

シュナイダー:3つとも全く違いますが、新しいことに挑戦し、開拓することにやりがいを感じます。共通しているのは3つとも政治的知名度が高いことですね。空港ならではの特徴は、規制が厳しいことです。

恵まれていることだと思いますが、複雑な環境に対応し、各種利益団体と折り合いをつけつつ新たな方向性を打ち出し、公共の利益のために真の成果を上げるのはやりがいがあります。空港の仕事では、長期にわたる計画づくり(2050年まで)と、それに伴う社会変化の分析が面白いですね。

swissinfo.ch:空港の今年の年間成長率を1%以下と予測していますね。地球環境を守るために空の旅が敬遠されているからでしょうか?

シュナイダー:ジュネーブ空港は、利用客の90%近くが欧州内への移動です。130以上の都市に就航し、欧州大陸ネットワークは非常に密度が高い。飽和状態に近づいているため、欧州大陸への輸送をこれ以上増やすのはほぼ不可能です。成長率の見通しがかつての5%をはるかに下回るのはそういう理由です。

戦略としては大陸間路線を数本追加することですが、旅客輸送への貢献度は低いでしょう。気候変動への危機感から、人々は旅行を控えるべきかどうか考えている。それは確かです。でも、今のところ私たちの業績にはその影響が表れていません。

swissinfo.ch:成長の鈍化を補うべく経営効率を高め、航空輸送以外の事業を増やすことは考えられるでしょうか? 

シュナイダー: 効率性と収益性の向上は確かに私たちの目指すところではありますが、規制環境の観点からできることは限られます。収入の50%を占める空港使用料は、サービスに見合った額でなければなりません。そのためコストがかかります。

つまり、利益を得るならばレストランや売店、駐車場などの商業サービスになります。一般的に、また気候変動の危機によって、ジュネーブ空港はわずかな成長にとどまるか、あるいはゼロ成長か、それに慣れるしかないでしょう。

swissinfo.ch:主な競争相手は?

シュナイダー: 旅客数で言うと、他の空港は競争相手とはなりません。リヨン空港(フランス)はそれに関しては近い数字ですが、サービスの内容がかなり異なります。他方で、(スイスの)フリブールやベルンに住む人たちが、移動の際にうちの空港とチューリヒ空港のどちらかを選ばなければならないことはあります。

鉄道との競争は若干ありますが、パリ、チューリヒ行きだけですね。一方、新たな大陸間路線を誘致するとなれば、チューリヒを含む欧州の他空港と競争することになります。

swissinfo.ch: 世界で最も優れた空港はどこだと思いますか?

シュナイダー:空港はそれぞれ異なります。私たちは常に他の空港を学びの参考にしています。一例を挙げると、モントリオールの積雪対応には感心させられます。チューリヒ空港は効率性の模範生ですね。ニースはビジネス旅行に関しては一目置く価値があります。ジュネーブ空港の持続可能な発展は評価に値しますよ。

swissinfo.ch:最も収益性の高い顧客層は? 誘致するためにどんなことをしていますか?

シュナイダー:最も利益が多いのは「プレミアム」客、つまりファーストクラス、ビジネスクラス、プレミアムエコノミーの利用者ですね。ビジネス、観光や家族、友人を訪問するといった目的です。

プレミアムの利用者は空港内のレストランやショップでより多くのお金を使い、有料サービスを使う傾向があります。この層を呼び込むためには、需要に見合った運航路線に加え、駐車場予約やセキュリティチェックの優先レーンなどのサービスを提供することが最も重要になります。

swissinfo.ch:国外空港の多くは、税関のファストトラックといった「スーパーVIP」サービスを提供しています。ジュネーブ空港はどうですか?

シュナイダー:シェンゲン協定圏では法的理由により、税関検査のファストトラックを全ての旅客に提供することはできません。しかし、あなたが今言ったサービスではないですが、ジュネーブ空港の利用者全員ができるだけ快適に手続きを済ませられるよう努めています。

例えば、保安検査、税関、荷物返却にかかる待ち時間を計測しています。また、ジュネーブ空港へは毎年国外から5000人以上の各国首脳や閣僚がやって来るため、そうした人達への特別なサービスも提供しています。

報道陣に囲まれる男性
2023年6月30日、ジュネーブ空港のストライキ現場で取材に応じるアンドレ・シュナイダー氏 © Keystone / Martial Trezzini

swissinfo.ch:ジュネーブ空港の輸送の半分近く(45%)をイージージェットが占めています。もしイージージェットが撤退したら、代わりの航空会社はすぐ見つかるでしょうか。

シュナイダー:ほとんどの空港では、主要航空会社が全運航便の60%から70%を占めます。私たちの状況はそれよりも少しバランスが取れています。可能性は低いと思いますが、もしイージージェットが他の空港に移ったとしても、私たちの就航地域の需要を考えればその空白はすぐに埋まるでしょう。もちろん、調整には時間がかかるでしょうが。

swissinfo.ch: チューリヒ空港のように、大陸間路線を増やそうとしていますね。既存の運航スケジュールに、そのような余裕が本当にあるのでしょうか?

シュナイダー: チューリヒ空港はハブ空港です。そのため、チューリヒがうちの空港よりも多い大陸間路線を持つ状況は続くでしょう。ジュネーブ空港はどちらかというと 「ポイント・トゥ・ポイント」型です。地元民に完全に依存しています。長期的には大陸間路線を現在の12都市からさらに増やすことを目指しています。

もちろん運航スケジュールに余裕はあります。ただ特に冬のスキーシーズンなど「ラッシュアワー」と呼ばれる時期には許容量が限界に達することもあります。さらに、ジュネーブ空港には珍しい特徴が1つあります。それは販売される航空券の大半がファーストクラスとビジネスクラスであること。つまり航空会社にとって収益性が高いのです。

swissinfo.ch:チューリヒ空港は上場企業ですが、ジュネーブ空港は自治権を持つ州営企業です。民間会社の柔軟性を羨ましく思うことは?

シュナイダー: 空港は幅広い分野の利害関係を考慮しなければなりません。その複雑な構造上、新しいアイデアを実行に移すたびに全ての利害関係者を考慮する必要があります。一方、チューリヒ空港の企業構造は、株主の利益を優先できることを意味します。しかし、結局は周辺地域社会、地元住民、政治レベルと協力することが必要になります。 

swissinfo.ch:今春、ジュネーブ空港では給与水準をめぐるストライキが起こりました。スイスでは珍しいことです。この状況をどう説明しますか?  

シュナイダー: 交渉の最中なので、現段階では何も言えません。収益の伸び悩みを鑑みれば、いずれにせよあらゆるレベルでの調整が必要になるでしょう。すぐに満足のいく解決策にたどり着けると断言できます。

編集: Samuel Jaberg、英語からの翻訳:宇田薫

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