気候変動・社会問題の解決を右派政党に託したスイス有権者
22日のスイス総選挙では、地政学的緊張を追い風に移民規制の強化を訴える右派・国民党が大勝を収めた。だがスイス公共放送協会が実施した選挙後調査は、有権者が真に期待するのはエネルギー転換や社会問題への対処であることを物語る。
保守・右派の国民党(SVP/UDC)は22日の総選挙は得票率27.9%と、過去3番目に高い成績を収めた。選挙戦で再び移民問題に焦点を当てたことが奏功した。
世論調査機関ソトモが選挙後に実施したアンケート調査によると、有権者が投票先の政党を選ぶに当たって重視したテーマとしては、「医療保険料の上昇」や「気候変動」を押さえて「移民」がトップに立った。
国民党に投票した有権者の74%が、投票理由に同党の移民政策を挙げた。
移民問題は国民党の「お家芸」だ。移民に関する議論で支持者の過半数を納得させることができた政党は他にない。
国民党はスイスの「独立・主権」も声高に叫んだが、これを重視して同党に投票したのは21%にとどまった。
22日の総選挙で大敗した緑の党(GPS/Les Verts)は、気候政策について2019年の前回選挙ほど勢いのある動きを作ることができなかった。同党に投票した有権者はほぼ全員が「気候変動」を理由に投票していたが、同じ理由で別の党に投票した有権者も少なくなかった。
その1つは社会民主党(SP/PS)だ。同党の掲げた気候変動政策だけでなく、医療保険料や社会保障などの社会問題も有権者の説得材料となった。
国民党は支持層だけでなく浮動票の取り込みにも成功した。反対に、緑の党(GPS/Les Verts)の支持者は急進民主党(FDP/PLR)を除くあらゆる政党に投票先を変えた。緑の党が失った票の半分以上は社会民主党に流れたが、国民党や中央党(Die Mitte/Le Centre)、自由緑の党(GPL/PVL)にも渡った。
2023年10月22日の連邦議会総選挙に関する選挙後調査は、スイス公共放送協会(SRG SSR、SWI swissinfo.chの親会社)の委託を受け、調査機関ソトモが実施。調査期間は10月21~23日(訳注:スイスでは投票日前の郵便投票が広く普及している)。協会のウェブポータルサイトやソトモのウェブサイトを通じ、2万3207人の有権者から回答を得た。標準誤差は±1.2%。
ウォーキズムへの反感
ソトモは、支持政党を変更した人にその理由を尋ねた。変更した人のほぼ3分の1が、これまでの支持政党が医療保険料の上昇にどう対処したかに不満を抱いていた。これにより社会民主党に乗り換えた有権者が多く、中道政党も恩恵を得た。
また4分の1は支持政党の移民政策に不満を持ち、その半数以上が国民党に投票先を変えた。
ただこうした不満自体が有権者を乗り換えに駆り立てたわけではない。直接のきっかけとして最も多かったのは「ジェンダーやウォーキズム(啓発主義)の議論」で、「政治的議論の二極化」も僅差で続いた。これらを挙げた人の大部分は中央党に投票した。
気候変動への問題意識
新議会は少し右寄りになり、環境派が議席を減らした。だが国民はなおエネルギー転換の遂行を議会に期待している。ソトモの調査によると、有権者の46%がこれを優先事項と考えている。
ソトモの政治学者サラ・ビュティコファー氏は「この問題はもはや緑の党だけのものではない」と話す。
気候保護法を可決した6月の国民投票は、スイスがエネルギー供給を見直し、必要な改革を実施しなければならないと全政党が認識していることを示した。
ビュティコファー氏は、緑の党がエネルギー転換を初めて主張したのは数十年前に遡るが、その訴えは今でも有権者の過半数を取り込む力があると話す。「有権者がこの問題について取り組む人間を議会に送り込みたいと考えた時に、緑の党に投票する必要はもはやなくなっている」
医療保険料が最優先
議会が右傾化したとはいえ、社会問題への対処が求められていないわけではない。有権者の優先事項は家計だ。有権者の66%は、新議会は医療費や保険料の膨張を抑える方策を見つけなければならないと考えている。
有権者は左派ではなく右派政党がこうした社会問題を解決してくれると信じているようだ。ビュティコファー氏はそこに矛盾はないとみる。
国民党は低所得層の支持取り込みに焦点を当てているからだ。「難民の取り締まり強化に次いで、低所得者対策は同党第2の優先課題」だからだ。
編集:Samuel Jaberg、独語からの翻訳:ムートゥ朋子
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