1億年前の海水温に疑問符 スイスとフランスの合同研究で
スイスとフランスの複数の大学による共同研究チームは先月末、オンライン科学誌Nature Communicationsで、過去1億年にわたる海洋の温度の推定方法が不正確であった可能性を指摘外部リンクした。研究者らは、過去の海水温がこれまで考えられていたよりはるかに安定していた可能性を示唆。この発見により、現在の気候変動のペースがさらに「深刻な懸念」を生じさせるものだとした。
今日の世界的な海面温度は140年前と比べ、1度ほど高い外部リンク。しかし、1億年前の、特に北極海の海底および海面の温度は、現在より15度高かった ― これまではこのような考え方が一般的だった。
ところが、連邦工科大学ローザンヌ校とローザンヌ大学を含むフランスとスイスの複数の大学の合同研究チームが、これに疑問を投げかけた。研究チームはオンライン科学誌Nature Communicationsで、北極海の深海および海面の従来の推定温度が高すぎたのではないかと指摘。これらの海洋の温度は過去1億年の間に15度下がったのではなく、実は大きく変化していない可能性があると結論付けた。
「私たちが正しければ、この研究は何十年にも及ぶ古気候研究に疑問を呈することになる」と、連邦工科大学ローザンヌ校およびローザンヌ大学のアンダース・メイボム教授は話す。
これまでの15度という数字は、海底から採集した海洋生物の化石に含まれる特定の酸素同位体比を測定することによって導かれてきた。これは、住んでいる水の温度によって生物に含まれる同位体のレベルが決まるため、その化石を調べれば当時の海洋の温度が推測できるという仮説に基づいたものだ。
しかしスイスとフランスの研究チームは、これらの生物を高温の人工海水に触れさせると、この酸素同位体レベルが目に見える痕跡をまったく残さずに変化する可能性があることを発見した。つまり、化石はこれまで考えられていたほど完璧に保存されていたわけではなくなる。海洋の温度計としてどの程度信頼できるかにも疑問符がつく。
メイボム教授によると、地質年代を通じての温度変化を測定し、また特に現在の気候変動がどのような結果をもたらすか予測するために、海洋および海水温は極めて重要な役割を果たす。今回の実験から得られた知識を利用して海水温研究を見直すことにより、永年にわたる変化をよりはっきりと理解することができると研究者たちは確信している。
(英語からの翻訳・西田英恵)
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