政府や企業を標的にしたサイバー攻撃が絶えず発生する中、スイス連邦政府は対策に当たる人材不足に悩んでいる。ギー・パルムラン国防相は、優秀な専門家を集めるために政府がもっと努力しなければならないと主張する。
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国防相は先月の地域紙ターゲス・アンツァイガーなどのインタビューで、ロシアのハッカー集団がスイス政府の国営兵器製造会社「ルアク(RUAG)」のデータベースに侵入した事件から1年半経ち、サイバー攻撃への対応は進んでいると語った。
現在、連邦国防省では約50人がサイバー犯罪対策に当たる。ただ防衛相は「十分ではない」として、2020年までに3倍に増やしたい考えだ。
今年初め、サイバー攻撃対策に関して「戦略がバラバラ」と批判されたスイス軍は、今後毎年50人ずつ専門家を養成する方針だ。国防相は、その大半に国のサイバー犯罪対策要員として残って欲しいと期待する。
だがグーグルなど巨大で給料も良い民間企業との人員獲得競争は激しい。「連邦工科大学チューリヒ校は毎年約250人のITスペシャリストを養成している。だがそのうち200人はグーグルに行ってしまう」(パルムラン国防相)
国防相はこの問題への対応を問われ、給料の引き上げは唯一の解決策ではないとの認識を示した。むしろ給料引き上げによって、雇われた「サイバー戦士」が求める自由や自律と、軍の厳しい枠組みが衝突する事態に陥る可能性があると懸念する。
国防相は民間企業とさらに協力関係を深める可能性にも触れた。「互いにとって利益となる」と話すが、そうしたスキームが具体的にどう機能するかは言及を避けた。
高まる危険
近年、スイスでのサイバー攻撃は著しく増えている。2016年にスイスの警察に報告されたサイバー犯罪は1万4033件に上った。2015年は1万1575件、11年の5330件に比べると5年で2.6倍に増えた。国際会計事務所KPMGが今年5月に発表した調査外部リンクでは、2016年にサイバー攻撃に遭ったスイス企業の数は全体の88%に上り、前年の54%に比べて急増した。
それも氷山の一角に過ぎないかもしれない。専門家は、個人攻撃を心配する個人や、評判リスクを恐れる企業がサイバー攻撃を受けても報告しない場合があると指摘する。
また大企業がリスクの高まりに応じて対策を講じているのに対し、中小企業は対応が遅れがちだ。パルムラン国防相も「スイス人はこの問題に関して無防備な面がある。多くの人がサイバー戦争はどこか別の国の話だと捉えているが、残念ながら間違った認識だ」と語った。
(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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