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添加物不使用の代替肉メーカー「プランテッド」 栄養価にこだわるワケは?

オフィスに立つ女性
プランテッド執行委員会のメンバー、ユディット・ヴェンマー氏 Jeff Zuerich Gmbh

植物由来の代替肉を製造・販売するチューリヒのスタートアップ「プランテッド」は、この市場で世界的躍進を狙っている。同社は動物性食肉と同レベルの栄養価を保ちながら、幅広い消費者層を獲得するため価格引き下げに取り組む。

チューリヒを拠点に植物性の代替肉で急成長を続ける企業「プランテッド」。同社は今年9月、スイスで最も有望なスタートアップ企業を表彰する「スイス・スタートアップ・トップ100アワード外部リンク」で、3年連続のトップ3入りを果たした。

一昨年の3500万フラン(約6億円)に続き、昨年9月には7千万フランの資金調達計画を発表した。設立4年目の現在、社員数は200人を超えた。欧州全域で製品を販売する。

植物性代替肉市場の成長は目覚ましい。気候変動問題や動物愛護への関心の高まりから、食肉製品離れが進んでいるからだ。

各種アンケート調査の結果を見ても、スイス外部リンクをはじめ欧州のさまざまな地域外部リンクで代替肉製品の需要は著しく伸びている。

プランテッドは、最高経営責任者(CEO)を置く代わりに4人の執行委員が陣頭指揮を取る。swissinfo.chはその1人であるユディット・ヴェンマー氏に話を聞くため、チューリヒ市近郊ケンプタールの工業地区にあるプランテッド本社を訪れた。

swissinfo.ch:植物由来の代替製品は現在、食品市場の1~2%にとどまります業界の今後をどう見ますか

ユディット・ヴェンマー:今のところ当社の製品を消費しているのは先進的な消費活動を行う層が中心です。15年ほど前、真っ先にテスラを購入したようなタイプの人々です。

価格がまだ高く品質に改善の余地がある段階でも、こうした先駆的顧客層は革新的商品を高く評価します。

成長が勢いに乗るのはその後の段階ですが、当社としてはさしあたって発酵プロセスを改善するなどして品質を向上させるのが先決です。

商品のラインナップを広げて価格を下げることも重要です。生産規模の拡大効果によるコスト削減を狙うのです。

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swissinfo.ch:植物性代替肉の多くは超加工食品(糖分、塩分、脂肪を多く含む加工済み食品)であり、病気、特にガンのリスクが高まるとされますそうしたリスク回避については

ヴェンマー:当社製品の製造工程はパンやパスタの場合と似ています。植物性代替肉の製造に必要な工程は逐一厳密に行われており、全ての原料は自然由来で添加物は一切使用していません。

私たちの体に必要なのは特別な食品ではなく、一定の栄養素を吸収することです。当社ではたんぱく質、繊維質、微量栄養素が豊富かつ飽和脂肪酸と糖分の少ない製品作りを心がけています。

つまり当社の製造プロセスでは「超加工」という言葉から連想されるような、いかにも不健康で高カロリーな製品は生まれません。当社の食品は、健康的で持続可能な食生活に無理なく溶け込むよう考案されています。

swissinfo.ch:栄養学の専門家らが強調するのは、植物性たんぱく質は動物性たんぱく質と同等ではない外部リンク、という点です。プランテッド製品の栄養成分はどう最適化されていますか?

ヴェンマー:当社は、製造の全工程で製品の栄養生理学的完全性を維持することを最重要目標に掲げています。そのため添加物は一切使用せず、製品中の鉄分など重要なミネラルも天然に含まれるものだけです。

動物性、植物性にかかわらず全てのたんぱく質はアミノ酸から構成されており、当社の製品には全ての必須アミノ酸が含まれます。一般的にエンドウ豆など豆類は、リジン、ロイシン、フェニルアラニンなどのアミノ酸が豊富ですが、メチオニンやシステインは少な目です。

植物性たんぱく質は豆類、種子類、穀類と組み合わせた時に最も効率よく摂取できます。したがって、当社の製品に米やパスタ、パンなどを組み合わせれば理想的です。

代替肉の製造現場
製造現場。チューリヒ州ヴィンタートゥール市に近いケンプタールのプランテッド本社で © Keystone / Gaetan Bally

swissinfo.ch:製品の味と食感を改善する努力を強調されていますが、見た目についてはどうですか?

ヴェンマー:製品の見た目や包装も非常に大事です。当社の顧客にとっては購入意欲を左右する物差しでもあります。

swissinfo.ch:プランテッドの知名度はスイスの独語圏で高く、仏語圏ではかなり下がります。なぜでしょう?

ヴェンマー:今のところ当社製品は、独語圏スイス人の嗜好に特に合うよう作られていますが、仏語圏スイスでも徐々に知られるようになりました。

例えば最近では、ヴァレー州シオン市のミシュランシェフ、ダミアン・ジャルミエ氏と協力して作ったチキンフィレを発売しました。ジャルミエ氏はこのチキンをレストランのメニューに取り入れています。

swissinfo.ch:なぜ技術開発に専念し、その成果をネスレなど他企業に売却するといったやり方をしないのですか?

ヴェンマー:こうした新規のニッチ分野では、研究開発だけでなく製品の製造から販売までを一貫して行うことが有利だと考えました。トータルな取り組みを選んだのはそのためです。

プロセスの統合を強化することで、技術革新の迅速化や品質管理の改善、ひいては収益性の向上が可能となります。

もちろん、このようなアプローチでは、とりわけ流通網を構築し国際的競争力のあるブランドを育てるための資金がより多く必要になります。

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swissinfo.ch:現在、どのような販路がありますか?

ヴェンマー:オンラインショップで欧州全域に商品を販売しています。また、欧州8カ国ではレストランや小売店(スイスのミグロやコープ、英国のテスコなど)にも卸しています。

パートナー協定も複数結んでいます。ソーセージ製品専門の仏企業フルーリーミションとの提携がその1例で、こま切れ状の植物肉を3種類販売しています。

国際市場での展開支援に仏、独、英、伊、オーストリアに営業所を設けました。

パッケージされた代替肉
プランテッド社製品。同社社員食堂で撮影 © Keystone / Gaetan Bally

swissinfo.ch:採算ベースにはもう乗っていますか

ヴェンマー:まだ利益は出ていません。出すことも可能ですが、今は事業を大きくしたり特に研究部門や生産設備に投資することが先決です。

swissinfo.ch:最大の競合相手は?

ヴェンマー:主に食肉メーカーです。代替肉の分野では他にも国内外のスタートアップが参入していますが、マーケティングと流通に特化し、製品は外部の生産者から購入している企業がほとんどです。

ネスレやユニリーバのようなグローバル企業も植物由来の代替食品に関心を持っています。

ともあれ食品市場は巨大なので、必然的に様々なプレーヤーが参入する余地があります。

swissinfo.ch:スウェーデンの植物性乳製品市場最大手オートリーは、世界市場での成長やコスト、生産面など複数の困難に直面しています。同様の事態を避けるためにどのような対策を?

ヴェンマー:私たちが意識を集中するのは当社製品とイノベーション、そして安定したスイス企業の構築に対してであり、メディアやアナリストが他社をどう評価しているかではありません。

いずれにせよ、当社が国内外で力強く成長しているという事実は、信念を持って我が道を進むための自信になります。

swissinfo.ch:植物性タンパク質の生産で生じるCO₂は動物性タンパク質生産時の40分の1にとどまります。こうした気候保護への貢献に対し対価は得られるのでしょうか

ヴェンマー:まったくありません。テスラのような企業は従来型の自動車メーカーに「炭素クレジット」を売って大きな利益を上げているのですが。

政治の舞台における食肉ロビーは強力です。その上私たちは、代替製品が食肉製品と比較して栄養生理学的に同等であることを証明しなければなりません。

現在の方向性としては、国家は国民の栄養摂取の決定権については介入しない流れになっています。

swissinfo.ch:現在プランテッドは、本社機能をケンプタールに置いています。この立地の長短を教えてください。

ヴェンマー:当社は連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)の一員であることから、ETHZへの地理的近さは、特に研究プロジェクトで協力する場合に大きなメリットとなります。

ETHZやザンクト・ガレン大学の他にも、地域の教育機関から多くの優れた人材を採用しています。

また、チューリヒ州は質の高い人材に人気の州ですが、ケンプタールという立地のおかげで郊外からもチューリヒ市内からも通勤できます。

一方で、スイスには高コストという問題があります。私たちがフリブール州やヴォー州を拠点としていれば、もっと楽だったかもしれません。これらは食品産業が戦略的に重要な地域ですから。

swissinfo.ch:コスト削減や物流の簡素化をにらんで生産を国外で行う計画はありますか?

ヴェンマー:長期的には国外生産も視野に入れています。現在、欧州で候補地を探しているところです。

もちろん、研究開発チームとの協力を最適化するため、今後も生産の一部はずっとケンプタールに残すつもりです。

ユディット・ヴェンマー氏略歴

ユディット・ヴェンマー氏はドイツ出身。連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)を修了した。2019年、食品加工技術で博士号を取得後、同課程で助手、博士研究員、講師を務めた。

2020年2月、プランテッドフーズのチームに加わると同年8月には製品開発、生産、規制面、知的財産を担当する執行委員会の4人のメンバーの1人となった。

ヴェンマー氏はスイス・プロテイン協会会長でもある。

swissinfo.ch:プランテッドの経営はCEOではなく執行委員会が行っています。これは効率的なのでしょうか?

ヴェンマー:実際には社内には約50人の幹部がいます。その上我々執行委員会のメンバーは、それぞれが明確に定義された業務を受け持ち、互いに完璧に補完し合っています。

このフラットな構造が組織の敏捷性を高めています。CEOの承認を待つ必要が無いのです。もちろん社員同士でコンスタントに切磋琢磨しあってもいます。

swissinfo.ch:プランテッド社員200人51%は女性です。女性は持続可能な食事への関心が高いのでしょうか?

ヴェンマー:植物性たんぱく質からおいしい肉の代用品を作るという当社のビジョンは、女性にアピールすると思います。個々のエゴよりも共同の成果を重視するフラットなヒエラルキーも、女性に好まれます。

食品加工技術の博士課程に在籍中、私の同僚の7割は女性でした。

編集:Pauline Turuban、独語からの翻訳:フュレマン直美

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