©antoine D' Agata / Magnum Photos
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2020/07/20 08:30
ジュネーブの国際赤十字博物館(MICR)で、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)をテーマにした特別写真展が開催されている。国際的写真家集団「マグナム」の写真家と、世界のネットユーザーたちが捉えたシーンを集めたものだ。作品はのちに常設展に展示される。新型コロナによるこの危機的状況を共有の記憶にするためだ。
公衆衛生危機に直面した世界の不安は写真にも表れている。約100点の写真が来年1月までジュネーブの国際赤十字博物館に展示される。「Covid-19 et Nous par Magnum photos et Vous(マグナム・フォトとあなたが見たCovid-19と私たち)」と題された写真展では、著名なフォトエージェンシー「マグナム」の作品と、博物館の呼びかけで世界中のネットユーザーから寄せられた写真やコメントが見られる。
写真展は最初からアンビギュイティに包まれている。写し出されているのは、世界的な不安だけではなく、スポーツや庭いじり、コンサートやダンス、ビデオ通話をしながら軽くお酒を飲むオンラインアペロなど、ロックダウン(都市封鎖)中にスイスや欧州、アメリカなどで試みられた、様々なアクティビティを通してパンデミックを乗り越えようとする人間の力。国際赤十字博物館のディレクター、パスカル・フフシュミット氏がマグナムのカルチャーディレクターとニューヨークで会ったことがこの写真展のきっかけだった。「コロナ危機では人々が一体になって努力した。それを別の形で評価したいと思った。その思いを伝えると、賛同してもらえた」(フフシュミット氏)
二つの写真展と映画
5月半ばにスタートした写真展プロジェクトは3段階で進められ、現在はマグナム・フォトとネットユーザーの作品が博物館サイトでネット写真展として公開されている。7月中には同じ作品が博物館に展示され、9月にはマグナムとMICRが共同制作したドキュメンタリー映画が公開される。フフシュミット氏は、「映画は訪問者やネットユーザーからサイトに寄せられた体験談や写真も取り入れたものになる予定で、この危機的状況の、共有された記憶として博物館のコレクションに加えたい」と言う。
ここではマグナム・フォトの2作品と、ネットユーザーの3作品を紹介する。
世界中の科学者たちが駆り出されても、この新型コロナウイルスの感染拡大を抑えることができない。大衆の不安は募る。写真家アレックス・マジョリのこの印象的な写真は、密談にも似た雰囲気の中で、新型コロナウイルスという有害な微生物を取り巻く謎を垣間見せている。白黒写真に写るのはイタリア・カターニアのカニッツァーロ病院の医師団。まるで新型コロナウイルスという犯罪者のテロ行為を阻むために集まった警察の特殊部隊のようだ。1950年代の刑事映画も顔負けのシーンだ
©alex Majoli / Magnum Photos
道ばた、歩道、湖のほとり、公園の中…。至るところに捨てられたビニール手袋。「保護」手袋が「汚染」手袋になりつつある現象に、環境保護団体は注意を呼び掛けている。アントワン・ダガタもまた、49枚のビニール手袋の写真で公衆マナーの欠如を告発する
©antoine D’ Agata / Magnum Photos
外出禁止令下に置かれたミラノの旧市街で大衆アパートの手すりにかけられたシーツや敷物。イタリアのエットーレ・スコラ監督の映画で、ヒトラーとムッソリーニがローマで対談した日を舞台にした名作、「特別な一日(Una giornata particolare)」(1977年公開)のワンシーンを彷彿とさせる。当時の別の時代に蔓延した別の伝染病、それはファシズムというウイルスだった
© Camilla Piana, Milan, Italie
ロックダウンされたニューヨーク。アメリカの巨大都市のひっそりとした通りで、レンガの壁とドアに背を向けて立ち、マスク姿でバイオリンを演奏するミュージシャン。近くに見える通行人は何をしているのだろう?コインを置いていくのだろうか?そんなことはどうでもいい。この作品で目を引くのはその風景-垂直と水平が作り上げる規則正しい都会の幾何学模様だ。まるでエドワード・ホッパーの絵画のようだ
© Valérie de Graffenried, New York, USA
バーゼルの田舎でピクニックをする3人の男性。ソーシャルディスタンシングなどお構いなし。人は独りきりで生きられるのか?いや無理だ。人は、後ろに見える乾いた木のように、徹底的にお互いが他人に絡み合いながら生きているのだから
© Roland Schmid, Bâle, Suisse
(仏語からの翻訳:由比かおり)
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