ソーラー・インパルス 今後クリーンテクノロジーを世界で推進、ドローン製作も視野に
今年7月、太陽電池飛行機「ソーラー・インパルス2」が世界一周飛行を完了し、120時間ノンストップ飛行が太陽光エネルギーだけで可能だと証明した。独占インタビュー第2弾では、ベルトラン・ピカールさんとアンドレ・ボルシュベルクさんという2人の企画者・操縦士に、クリーンテクノロジーが世界にどう伝わったのか?今後のクリーンテクノロジー推進プロジェクトとは何か?などを聞いた。
世界一周飛行へ旅たち3分の1の行程が終わったころから、ピカールさんはこの飛行がクリーンテクノロジー推進を世界に伝える「コミュニケーション・プロジェクト」であることを明確にし、「クリーンテクノロジーが不可能を可能にしている」と繰り返し述べた。
ここでピカールさんたちの考える「クリーンテクノロジー」とは、基本的に電気、熱などに変えても二酸化炭素などの有害物質を排出しないクリーンエネルギー(再生可能エネルギー)を生産する太陽光発電や風力発電などの技術に加え、そうした電力を効率よく送電・蓄電し、効率よく消費する技術も含んでいる。
スイスインフォ: なぜクリーンテクノロジー推進のメッセージを伝えようと思ったのでしょう?
ピカール : 実は、気候変動は我々の生活スタイルのせいではなく、無駄にエネルギーを消費しているから起こっているのだと分かった。この無駄は、古いシステムや古い燃料を使っているからだ。車のエンジンや暖房に化石燃料を使い、古いタイプの電球を使い、送電システムも古い。これら全てで、毎日の生活において50%もエネルギーを無駄に消費している。それをクリーンテクノロジーに置き換えれば、50%も二酸化炭素排出を抑えられる。すごいことだ。同時に新しい仕事も増える。
今こそ、クリーンテクノロジーを毎日の生活の中で最大限に使用しなくてはならないし、家庭、工場やオフィス、国内で、世界で、使わなくてはならない。このことを、太陽光エネルギーだけを使った飛行機で飛ぶことで、世界に伝えたかった。
確かに、世界一周飛行という冒険はみんなを魅了した。だが重要なのは世界の人が、冒険を通してクリーンテクノロジー推進に興味を持つようになってもらうことだ。それは膨大な仕事で、コミュニケーション力が重要になり、メディアや政治・産業界と話していかなければならないものだった。
スイスインフォ: 一時着陸した中国や日本でのクリーンテクノロジーへの反応はどうでしたか?
ピカール: 中国では非常に関心が高かった。大気汚染に悩まされている国だからだ。クリーンテクノロジーの重要性を強く感じている。
ボルシュベルク: 日本でもクリーンテクノロジーへの関心は非常に高かった。ただ、日本からハワイに飛び立つ準備に追われ、あまりメディアや技術関係者と話ができなかった。実は、名古屋からではなく北海道から飛び発つことも視野にあったので、北海道まで行ったりしていたのだ。
スイスに帰国してから日本の状況を考えると、日本は確かに人口密度の高い国で、福島原発事故以前、原発は必要だったのかもしれない。しかし、原子力発電は、二酸化炭素は排出しないものの、事故が起きたときにかかる巨額の費用や廃炉費用、さらに核廃棄物のストック場所を見つける困難さなどを総合すると、化石燃料と同じ「過去のエネルギー」だと僕たちは考えている。
原発事故後、日本では再生可能エネルギー生産への関心が非常に高まった。このエネルギーの潜在的可能性は膨大だ。80年代後半に1年住んだことがあるので日本のことは良く知っているが、太陽光発電は多くの地域で実現できるし、地域によっては風力発電もできる。海岸が広域なので、海藻からバイオマス発電も高効率で可能だろう。これらをバランスよく組み合わせると再生可能エネルギーの未来は明るい。
それに日本はテクノロジーの国。例えば余った再生可能エネルギーを保存する蓄電池の技術において、日本は世界の中で非常に進んでいる。今はそうした技術を積極的に使うときなのだ。結局、政界の意思決定も重要になってくるだろう。
スイスインフォ: 電力やエネルギーの生産状況は、国によってかなり異なっています。
ボルシュベルク: 確かにさまざまだ。例えばミャンマーでは、多くの村に電力のエネルギー源がない。村で、つまりは電力を消費する場所で、再生可能エネルギーを生産することは、経済的にも非常に効率が高い。スイスが行ってきたような集中型の大型発電所を作る代わりに、それぞれの村が、それぞれの賢い方法で電力生産と蓄電、送電、さらには賢い消費の仕方を行っていくことだ。
実は、ソーラー・インパルスがミャンマーに滞在しているとき、スポンサーのスイスの電気技術会社ABBがこうした発電装置の設置をある村で開始している。
よく考えてみると、ソーラー・インパルスの飛行機こそ、こうした村での発電と蓄電、消費を体現した「一つのモデル」なのだ。翼のソーラーパネルで太陽光エネルギーを生産し、それを夜の飛行のために蓄電し、消費が必要な夜に使っていく。まったく同じことだ。ただ、「発電所と消費地」が標高の高いところにあったというわけだ。(微笑む)
スイスインフォ: 太陽電池飛行機の成功を機に、次はどのような製作プロジェクトを考えていますか?
ボルシュベルク: 実は、太陽電池の無人航空機(ドローン)の製作を考えている。それは人工衛星の代わりになるようなもので、上空20キロメートルの高さに位置し、しかも長時間にわたり同じところに留まっているようにする。持続可能性の高いものになる予定だ。
たくさんの人がこれに興味を持っている。まさに、この無人航空機の件でワシントンに行き、つい2日前に戻ってきたところだ。
スイスインフォ: 今後の計画の全体像を教えてください。
ピカール : クリーンテクノロジー推進の世界的な機関(ないしは基金)を作ることだ。メディアや政治関係者、研究所や製作所も含め、世界のクリーンテクノロジー関係者全員とつながって、国内外でクリーンテクノロジーを推進したい。また、スイス政府に対し、コンサルタントとしての役も果たすことになっている。
ボルシュベルク: この機関は一カ月後ぐらいに、構想を明確にしてスタートする予定だ。目的の一つは、ソーラー・インパルス計画のパートナーのABBやエレベーター大手のシンドラーなどの「生産者」が作り出すクリーンテクノロジー製品を世界で使ってもらうように、各国の政界などに働きかける「メッセンジャー」の役割を担う。政界に働きかけるノウハウを知っているので、日本なども含め大いに利用して欲しい。
特に、クリーンテクノロジーの製品をどこでどういう風に使っていくかを「発明」していくことも重要だと考えている。クリーンテクノロジーは出揃っている。どう使うかだ。
一方で、クリーンテクノロジーの発展に刺激を与えるために、色々な製作プロジェクトも展開していくつもりだ。エネルギーの消費効率を高めるスマートグリッドの開発も大いにやって行きたいと思っているし、前に述べた太陽電池の無人航空機の製作も、その一環になる。
JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。