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移民・難民に通過を許可するスイスは、ダブリン規則違反?

赤ん坊を抱える女性
スイス北東部にあるザンクト・ガレン州のブックス駅には、毎週約700人の難民が到着する Keystone / Dominic Steinmann

バルカン半島を経由して欧州を目指す移民が再び増加している。スイスは今のところ単なる通過国としての位置づけだが、連邦移民問題委員会(EKM/CFM)のエティエンヌ・ピゲ副委員長は、近隣諸国と足並みを揃えた移民政策の必要性を指摘する。

大量の移民・難民が欧州大陸に押し寄せ、各国は対応に追われている。欧州連合(EU)の専門機関、欧州対外国境管理協力機関(Frontex)は今月半ば、EU域内への不法入国数が2016年以来最多を記録したと発表外部リンクした。

スイスにも影響が出ている。毎週約700人がバルカンルートを通ってスイス東部の国境に到着し、これは昨冬の約3倍の数だ。難民申請は増加しているが、移民の大半はスイスにとどまるつもりはなく、目的地のフランスや英国を目指す。国境管理や移住の専門家で連邦移民問題委員会(EKM/CFM)の副委員長を務めるエティエンヌ・ピゲ氏が現状を分析する。

swissinfo.ch:欧州やスイスは15年の「難民危機」と同じような移民・難民の流入を覚悟すべきでしょうか?

エティエンヌ・ピゲ:再び大規模な人の移動が起きています。さらに拡大する可能性もあります。しかし、15年と同じような事態にはならないでしょう。当時、シリア内戦が激化した難民の「出身国」、「通過国」、ドイツとスウェーデンが受け入れを表明した「欧州」で同時に状況が急変しました。これら3つの要素が結びつき大規模な移動を引き起こしました。

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swissinfo.ch:欧州に到着する移民が増加している要因は何でしょうか?

ピゲ:アフガニスタンを筆頭に、慢性的に危機状態が続いたり、悪化したりしている国があります。その一方で、地政学的な理由から国境を開放したり、閉鎖したり、態度を変える通過国があります。トルコと恐らくセルビアもそうです。21年11月には、ベラルーシが移民・難民をポーランド国境に向かわせEUに送り込むという極端な例もありました。さらに、ポストコロナの影響もあります。ほとんどの制限が撤廃された今、一時足止めされていた人々が再び賭けに出ています。

難民受け入れ施設のキャパシティー問題

連邦移民事務局(SEM)は25日、難民申請者受け入れ用に国が用意した宿泊施設はどこも満員に達していると発表した。定期的に新しい宿泊施設を用意してはいるが、増加する難民申請の数に対応が追いつかない状態だ。十分なキャパシティーの確保に向け、一部の申請者は予定より早く州の受け入れ施設へ移動する予定だという。

ヌーシャテル州で社会的結束と雇用の問題を担当するフローランス・ナテール氏は、仏語圏のスイス公共放送(RTS)インタビューに対し、各州と移民事務局は「ウクライナからの大量移民の流れ」は予想していたが、「その他の移民」がこれほど増加するのは想定外だったと述べた。

(出典:スイスの通信社Keystone-SDA)

swissinfo.ch:スイス東部国境に到着する移民の数が急増しています。どのような国の人々ですか?

ピゲ:アフガニスタンやトルコの出身者を中心に、様々なバックグラウンドを持つ人々です。最近、トルコ出身の移民・難民が急増しました。中にはスイスの庇護を求める人もおり、難民申請の増加につながっていますが、それほどの数ではありません。スイスはより魅力的な国に行くための通過地点にすぎないケースが多いためです。特殊な状況ですが、特に目新しくもありません。スイスは既に15年に、他国を目指す移民・難民の大量通過を経験しています。

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swissinfo.ch:「難民申請は最初に到着した国で行う」とするEUの「ダブリン規則」によると、申請せずに別の国に移動した場合、庇護を希望する人は最初に申請すべきであった国に送り返されます。ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)が最近行った調査では、スイスが「ダブリン規則」通り移民・難民を送還せず、隣国への通過を許可していることが明らかになりました。これは問題だと思いますか?

ピゲ:確かに問題ですが、こう対応するのは理解できます。これらの人々はスイスへの残留を望んでいない上、スイス当局も同じ気持ちです。また、希望通り通過させるのは、ある意味人道的です。

ただし、スイスが移民・難民を通過させることは実際にダブリン規則違反であり、短絡的な戦略です。状況が変わればスイスに残りたい人が出てくるかもしれません。そうなった時に、スイスが欧州諸国の理解を得られればよいのですが。欧州諸国は、単独行動ではなく、共同で移民に対処する協力策を選ぶべきです。そのためには、現行のダブリン規則では不十分なため、見直しが必要です。人道主義の伝統を持つスイスは、規則の改善に貢献できるでしょう。ジュネーブで欧州における庇護の問題に関する国際会議が開催されれば、素晴らしいでしょうね。

swissinfo.ch:難民管理に関して欧州諸国間の協力を強化するには、ダブリン規則をどう見直すべきですか?

ピゲ:まず、難民申請の取り扱いについて連帯する必要があります。欧州委員会が提案したように、申請が少ない国には財政支援など別の方法で連帯を示すよう求められるでしょう。人気のない国は傍観するだけで、他国に対処させて済むものではありません。

次に、欧州の難民受け入れ条件を調和させる必要があります。現在、難民認定率は国によって著しく異なりますが、これは到底容認できません。例えば、アフガニスタンから逃れてきた人々が、ある国よりも別の国の方が難民認定される確率が高いという状況は許されません。

エティエンヌ・ピゲ氏
エティエンヌ・ピゲ氏。ヌーシャテル大学教授(地理学)。連邦移民問題委員会(EKM/CFM)の副委員長を務める。スイスや欧州の庇護(ひご)政策の専門家 ldd

swissinfo.ch:スイスは特別許可証(S許可証)を発給し、ウクライナからの避難民を歓迎しました。ウクライナ人以外はこの特別な庇護を受けられませんか?

ピゲ:確かにこの問題は議論の余地があります。スイスも欧州も、一時的な庇護を発動すべき状況に関する判断基準がありません。ウクライナについては受け身な形で実施に踏み切った結果、アフガン難民がなぜ同じ許可証を受給できないのか当局は説明に困窮しています。これはもっともな批判です。

ただ、ウクライナ人が白人、キリスト教徒、あるいはヨーロッパ人であることが有利に働いたとしても、スイスはそれだけを理由に歓迎したわけではありません。主な理由はロシアによる突然の侵攻と暴力です。そして、ウクライナからの避難民はスイスやEU域内への入国にビザが不要という特殊性です。つまり、ウクライナ人はどのみち来られました。

swissinfo.ch:ロシアによる侵攻から逃れてくる人の数は今後数カ月でどのように変化すると思いますか?

ピゲ:現在の膠着(こうちゃく)状態が続けば、スイスにいるウクライナ人の数が大幅に増えることはないでしょう。むしろ、スイスに到着する人とウクライナに帰国する人の数が同程度になる可能性があります。これが一番考えられるシナリオです。しかし、事態が大きく悪化し、ウクライナで不可欠なインフラに大きな損害が出れば、新たな国外脱出も考えられます。

仏語からの翻訳:江藤真理

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